プロローグ
かなり昔に別名義で投稿していたものの未完になっていたストーリーです。
キチンと完結させたい欲が出て来たので、少しづつ執筆していこうと思います。
暇のお供になれば幸いです。
私の名前はオウル=ウェッジ。
親しい者は私の事を木兎のミーちゃんと呼んだりもするな。何か響きが馬鹿っぽくて好きになれない呼び名だが、契約主がそう決めたのだから仕方がない、私は従うまでだ。人間種は私達の種を梟と呼んで区別する様だが、さらに私のように頭の先っぽに耳が付いていると木兎……なのだそうだ。これは耳でなく毛なんだがな。人間達に付いている耳の形に見えるから耳と呼ぶ、繰り返すが……毛だ。
私達に耳はないのだよ。
さて……軽い自己紹介も済んだ所で、目に見える光景、足下で繰り広げられている惨状について説明しようと思うのだが…。私自身も食事から帰ってきたばかりなので細かい事情が分からない。おそらく森でネズミを追い回している間に何かが起きたのだろう。
この場所…冒険者ギルド~アックス&スペルズ首都リルバニア第9支店にいるネズミは、人間達の残飯を漁って肥え太っているのはいいのだが、最近体重が気になっている私としては主食とするのは避けたい。運動も兼ねて食事は近くの森で済ませる事にしていたのだが。それがイケなかったのだな…一時の事とはいえ契約主から目を離してしまった。やはり…それがイケなかったなと……反省する事にする。
どこから説明しようか、まずは……目の前、店の壁に大穴が開いている。木造ではない石造りの壁に大穴だ、私が出かける前にこんな大穴は無かった。
おかげで帰りは窓からではなくこの大穴を通って店に入れたのだが、正直ビックリしたのでこんなサプライズは要らなかった。
次に私の契約主が、私の契約主の雇用主を殴り飛ばした、私が確認できただけで2度。
「リリエッタっ……た、頼むよ! やめてくれ! ……店が……」
「アタシに触るなっ! マヌケッ!」
「ぐあはぁっ!」
今のは蹴りだがコレで3度目になる。
……さてココから少し話が複雑になるのだが、できるだけ噛み砕いて説明しようと思う。
私の契約主はリリエッタという名の少女だが、殴られた方はリリエッタの雇用主でクロドという名の男。
使い魔 である私からしてみれば契約主に危害を加えるなど有り得ない事だ。契約を行い代価を払って使役するという点では契約主と雇用主は同じものだろう。だからリリエッタが雇用主であるクロドを殴るなど、私から見ればオイタが過ぎる。
おそらくこの場でこの事を知っているのは私と本人だけなのだが、リリエッタの魔術刻印が解除されているので、今のリリエッタはリリエッタではない。であれば私にとっても契約主でないし、リリエッタではないリリエッタにとってクロドは雇用主ではない。
なるほど殴る筋は通っているな。だとしたらリリエッタでないリリエッタは何エッタなのかと言うと、だな……。説明すると長くなるのだが……ん?
まずい……。
「吹き飛べっ、有象無象っ!」
ドガアアアアンッ!!
「ぐわぎゃあああっっっ!」
「うおおッッッ⁉」
「きぃやあぁあああ!」
「店がぁあああああ!」
バサバサバサ。
……危なかった……。 ……リリエッタ……少し事情が複雑で本当は違うのだが、しばらくリリエッタのままにしておこう。
いましがた無詠唱で放たれた高位魔術の全方位波動砲が、周辺の冒険者とクロドをなぎ倒して、私が止まっていた店の天井の梁をバキバキにへし折ったのでな……。細かい説明をしている暇は無さそうだ。
しかし、流石に災厄の魔女と呼ばれた女だな……。被害を受けるのは冒険者達、口を開けば一攫千金などと……地に足の着かない愚か者だけであるし、あの女のガス抜きの為にも少し放っておいたのだが、私も私の役目を果たす頃合なのかもしれない。
「あはははぁぁ! 跪づけぇっ! ……そして吹き飛びなぁっ!」
「ぶべらぁああああっっっ!」
「やめてくれよぉおお! 店っ! 店がっっ!」
既に店内のテーブルのほとんどはひっくり返っていたが、その内のひとつが、今の一撃で風に舞う木の葉のように、くるくると回転しながら飛んでいってしまった。それも店外にまでだ、もちろん壁に大穴を空けながら。
そのせいで石の破片やら木っ端が空中に四散しているが、それらがパラパラと地面に散らばり、土煙が店内にまで濛々と立ち込め始めた頃、青ざめた顔をしたハゲ頭の冒険者がリリエッタの前で土下座をした。
「すみませんっ! い、い、い、命だけはっ!」
「……あ~ん……? それはなんのつもりぃ? ご自慢の粗チンを握る手で……アタシに触れたんだろっ? ……地獄覗かしてやるよぉ‼」
ボン! ボボボボボン‼
ドカン! ドカン! ドカン!!
「ひぃぃぃぃぃぃぃ! ひいいいいい!」
「み、み、み、店が~~~~~!」
……うーむこれはまずい事になって来た……。照明やら冷蔵庫やら機械の類がリリエッタから溢れ出す魔力に共鳴、次々に魔力短絡して炎上を始めている。このままではいずれ地下にある魔力源も爆発するな。店が焼け落ちるのはまずい、それに心無しか建物が全体的に傾いてきた気もする。
クロドも情けなく地面に座り込んで頭を抱えてしまっているし、流石にこれ以上続けさせるのは危険だ……死人がでる。そうなればリリエッタが正気に戻った後に悲しむ事になるだろう。
それは避けたい……であればそろそろ、災厄の魔女の意識を封印する事にしよう、それが私の役目……オウル=ウェッジの役目だからな。
私は私の両の翼と自慢の大きな耳毛で風を切り急降下を始めた。裂帛の気合と共に。
「ホォーーー! リリエッター朝ダヨー起キナサイー!」