新しい朝と秋の気配
草だった頃のクセで日の出とともに目が覚めた。
こんなに気持ちのいい朝は生まれて初めてかもしれない。
ウロの入口に立って朝日を眺めながら体を横に曲げる運動をしてみる。
スピカが近くの枝に止まって「スピッスピッ」と鳴きながら真似をしていたが、直ぐに飛んでいってしまった。
「今日は水を探しに行こう」
蔦を分けてもらって、兄弟達を包んでいた葉っぱをぐるぐる巻きにし斜めがけにしたら、水の気配がしていた方へ歩き出す。
「道はないけど藪になっていないのが捗りますわ」
今のところ動物の気配はない、そして人の気配もない。
「テンプレの馬車が襲われている雰囲気もなしと、まぁ出くわしても今のところチョロ水しか出せないしね」
10分くらい歩いたら水のせせらぎの音が聞こえた。
近づいてみると5mくらいの川幅に60cm程の水の流れが見えた。
川に降りたら砂利が尖っていて足の裏が痛い。
今まで落葉と腐葉土だったので気にしていなかったけど、なんか考えないとな、草鞋編めるかな、紐をまず作るんだっけ。
紐は稲藁を紙撚りにすればいいんだけど、根っこ共有に稲はいなかったな。
イネ科っぽい草であれば、南の方の斜面に生えてたので代用できそうなら何本か貰おう。
川沿いに遡ると崖の横を流れるようになったけど、所々落石の跡があり、迂回したりと伏流したりしている。
唐突に川は崖を下り落ちる小さな滝となった。
滝壺辺りは落石のせいかちょっとした池のようになっていて、水が存在しないかのように澄んでいる。
水生生物は岸から覗く限り見つけられない。
梅花藻のような水草が花をつけている。
池の底には白い砂が広がっていて、梅花藻の近辺には湧水なのか砂がそこかしこで踊っている。
どうやら落石でせき止められたわけでは無いらしい。
湧水近くの水をひと掬いして舐めてみる。
「冷たくて美味しい」
もうひと掬いしてゴクゴクと飲み干すと、ここでやることはもうない感じ。
水中に祠とか滝の裏に洞窟とか無いからね。
戻ろうと歩きだしたら渡り鳥の番が池に飛んできた。
もうすこしで季節が変わるとなんとなく感じた。