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意思ある植物としての生活

余命が短いことにしなだれていても仕方がないので前向きに草生を楽しむことにしようと割り切った。


自分の成長点は茎の頂上で、地面からでた所の茎が中核となっていると思うのだけど、葉全体が感覚器として機能しているため、視覚的刺激に近い葉の方に意識があるような錯覚をしてしまっている。

がしかし、人とは違って根っこの繋がりは空中に光の粒を出すよりも確実に伝わることに気づいてからは、仲間を作りながら根っこの感覚共有を広げていっている。


『そう、仲間なんだよね、植物の意識を体験できるとは思わなかったよ』


お隣さんのお隣さんとつながっていった結果、この場所のおおよその情報が得られた…と思う、まだ実際に見たわけじゃないからね。

この森のある丘はあまり広い場所ではなく斜面を下ると直ぐに崖になっているようだ。

北側には流れ落ちる水の音、南側は風の音しかしないので、崖の中腹にある平地に茂った森なのだろう。

鳥と虫以外の動物を見かけないのも裏付けになるのかな。

とりあえず大きな獣にほじくり返されることはない事がわかったので一安心。

草生を全うすることに専念する…まぁぼーっと空を眺めてたまに虫退治して、いつの間にか自分に引っ越してきたハミングバードを、蜜をつけてる花の位置へ誘導したりするくらいだけど。


そうこうしているうちに日差しが刺々しくなってきた、夏になったのかな、この星にも地球のように四季があるようですよ。


葉がどんどん増えていってこんもりとしたドームのようになり、薹も立ってきました。

自分の頭に花が咲いて枯れ落ちるシーンを想像する…腐ったあと干からびてダンゴムシの餌に…。

『そのやうにして、ぼくの草生も終はりを告げるのでせうね…』

などとフザケてた後、しょんぼりしていると、根っこ通信で『大丈夫、悲しまないで』という優しいメッセージを西側のキンギョソウみたいな花をつけているお姉さまから頂く。

するとそこらじゅうから『そうだよ』『生き続けるよ』『心~配ないさー』というメッセージが届く、ハミングバードは食事に忙しいようで関係ないさとばかりに飛び回ってる。

自分、トレントみたいになるのかねぇ…何かよくわからないけど大丈夫そうですよ。


仲良くなった仲間のために寄生虫の卵からなにから見つけ次第粘菌さんと連携して駆除してゆくことにした。

ダンゴムシは若い芽を食べるだけでなく枯れ落ちた葉を掃除してくれるそうなので、緊急時以外はスルーした方がいいというアドバイスを貰った。

あと、種は作った当人からすると『全部芽が出て育ったら困る』ので、サバイバルに成功した側からすると、ある程度は種や若い芽が食べられるのはアリだってさ、草生って大胆な割り切りが大切。


空を飛ぶ成虫を駆除するのに苦戦していたら、キンギョソウから小さな蜘蛛を紹介される。

花に住んでいて近づいてくる虫を長い前足で捕まえ、糸で拘束してからガジガジミチミチと音を立てて頂くのをデモンストレーションしてくれた。

ちょっと引いたけど、有り難く協力していただくことにした。

誰かが飛んでいる害虫を見つけたら蜘蛛を派遣、捕まえた虫が蜘蛛の餌になるタイプなら蜘蛛の餌、そうでない場合は粘菌が処理する。

蜘蛛は虫を捕まえた後、食べる前に前足を片方ずつ交互に上げるのに合わせてお尻をクイックイッとリズムよく振るエモートをするので、判断しやすくて助かる。


根っこ通信が届く範囲の害にしかならない虫の駆除が終わる頃には、頭に小さな薄紫の花が沢山咲いた。


ハミングバードが受粉を手伝ってくれる…というか必死に密を吸ってるだけともいう。

『なんとなくこのハミングバードだけ意思が通じているっぽいんだよね』

日中は絶えず蜜を求めて飛び回り、夜は死んだように寝て、たまに「スピーースピーー」とイビキがうるさいだけなんだけど。


キンギョソウのおねぇさんの花が散って青い子房が膨らみ始めたのと時を同じくして花が散った。

花の付け根の部分が膨らみだし鞘となり小さな種が成長し始める。

種に栄養を送るべく根と葉をフル稼働させてバンバン光合成。

すると茎の部分も膨らみだし、巨大な卵から葉っぱが生えている状態に成長。

どうやらワタシは桜大根に転生したのだなと感慨にふけったね。


種が膨らみ鞘が割れ始めた頃、1mくらいまで成長した茎の玉がメリッと割れて背中からコロンと転げだした。

眩しい光と新鮮な空気、目が慣れると小さな人の手が見えた。

握るという懐かしい感覚を思い出して動かしてみると思った通りに動く。

顔を触る、頬がある、目がある、口がある、耳がある、髪もある、臍はない。

髪の毛は白と黄緑の間くらい…抹茶ラテっぽい感じ、身長は50cmくらいだけど体型は5歳児くらい、多分女?雌?

ハミングバードが肩に止まって「スピスピ」と何か言っているっぽい…と思っているうちに蜜を吸いに飛んでいってしまった。


周りの草や木から『おめでとう』『よかったね』『虫殺しの女王爆誕』とか色々な光の粒が届く。


「ありがとう、みんなが言っていた大丈夫って、これのことだったんだね、本当にありがとう」


異世界転生スタートってここからってことですかね。

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