秘伝カムイと黒耳シェロ ⑧
もっとも可能性だけを問えば、それらはいくらでも浮上するが。
仮に隣人が捜査の物々しさに気づいて外に出てくる。
警察の説明を聞いた折、不審な挙動を見せる。
そこに別件が発生していたとしても……あり得る話だが。
それはそれで別件となり、少年宅も訪ねられる。
「君の通報はお隣の件だったのか?」
警察がそれを問うことは必至だ。
だがそうなると、少年が事件の関係者となり得るし、話が長くなる。
だから、ここは通報本件の少年の家を訪ねて来るのが正着である。
シェロがここまでアドバイスをすると。
一転してカムイの表情は明るくなり、元気な声を取り戻した。
「おお、そうか! 警察はまず少年に事情を聴くよな。となると──」
「うん」
「そこで少年は空想の話を延々と語ったんだな」
「うん?」
「そして警察があまりのリアリティに騙されて捜査に踏み切ったんだな。よし、ぼく天才だね!」
今度こそはと、カムイは自信満々に答え、もはや勝ち誇ったように自分を天才だと自賛した。
シェロは薄っすらと笑みを浮かべながら、軽く首をかしげる。
そして、カムイに向けて改めて首を横に振るのだ。
「な、なんでだよ!?」
しかめっ面のカムイが語気を強め、シェロをにらみつける。
事件がよそで起きていない。
それを正したのはシェロじゃないか。
それなら事件は少年の空想でしかない。
そのように記されている。
まさか、事件だけは本物なのか?
そんな筋書きがどこから見出せるというのかと、カムイは憤慨した。
シェロは気にせず、淡々とクイズのヒントを小出しにする。
「だって警察が少年から事情をくわしく聴いても、それは空想の話だよ?」
「だ、だから、とてつもないリアリティに警察も息を吞んだわけですよ!」
「リアリティに拍車がかかるのは否定しないよ。でも事は殺人事件だよ」
仮に、空想の少年が途轍もない演技力や想像力を持ち合わせていたとする。
その力説によって警察が捜査に踏み切るのであれば、少年の部屋には死体のひとつでも転がっていなければいけないのだ。