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怪談 行き交い狐  作者: あしかが
2/3

 全3話中の第2話。

 相談主の体験した奇妙な出来事の詳細が説明されます。

 地図イラストがあります。

 僕が確認する。


「マミさんが駅にいくまでのどこかで、知らないうちに彼とすれ違った、ということかな」

「それはないと思うんだけどなぁ。ちゃんと気を付けながら歩いてったし」

「ならば、通った道が別々だった、とか。さっき『ほとんど一本道』っていってたけど、それはどのくらい厳密げんみつなんだろう」

「ゲンミツ? ん~」


 顎に指をあてて悩み始める、依頼主の徳島とくしまマミ。僕と同じく「除霊研究班」のメンバーである巣我すが蜜羽みつはがそこに、


「あなたの家の住所を教えてもらっても構いませんか?」

「うん? べつにいいよー」


 訊いた住所を端末に入れて、周辺の地図を呼び出した巣我がタブレットをテーブルに置いた。

挿絵(By みてみん)


「ああ、なるほど」


 画像を見て僕は納得する。

 徳島の住む辺りは、たまにある“駅と線路を境にして、開発にはっきり差が付いてしまったエリア”だった。東西に走る鉄道の路線を挟んで南側に商店や住宅、道路が集まっており、山が迫った北側は、ほとんど農地や山林のまま手が付けられていない。

 徳島はつぃ、と手を伸ばして液晶画面の一角を指していった。


「ここがあたしん。ね、かなりゲンミツじゃん?」


 彼女の家は、駅の北口から田畑の中を伸びた道路を辿り、途中から枝分かれして山の中に入っていく林道の傍らにある、ぽつんと孤立した一軒家だ。駅舎との距離は一キロちょっと。駅から自宅までなら確かに、よほど大回りしない限りひとつのルートしかない。


「この道をこういって、駅まで往復したの。あ、ここが胡博こはくだよっ」


 次いで指さしたのは、同じく駅の北、四〇〇メートルほどの立地に四棟まとめて建った集合住宅群。ストリートビューで外観を見ると、瀟洒しょうしゃな二階建ての低層マンションだった。


「ご近所か。ふたりは幼馴染なの?」

「そぉー。小四の時に胡博こはくが引っ越してきてからいっしょ」

「マミ、それより、彼と会わなかったのにすれ違ってたことでしょう」

「まず彼氏本人はそこらへん、どういってたんだろう?」

「訊いてみたけど、『予定通りの電車で来て、南駅前の“甘菓館(かんかかん)”でお土産買って、あとは教えられた通り歩いてきただけ』って。

 持ってきてくれたケーキ美味しかったなぁ。あそこのスペシャルレアチーズ、マジで最高なんだよねぇー。

 あたしが『美味しい、美味しい』って食べてたら、彼が自分の分も『あげるよ』って分けてくれてぇ‥‥‥♡」


 数日前に食べたケーキの味を頭の中で反芻はんすうしてうっとりする徳島。


「‥‥‥彼氏さんが買い物のために一回南口に出たなら、徳島さんが駅員と話している間に北口にきて、お宅に向かうルートを先に歩いていったのかもしれません、です」


 徳島の言葉に首をかしげて黙考していた巣我が、仮説を提示した。


「無理無理。小さい駅だし、南北の行き来には駅の地下の連絡通路を通るんだけどぉ、窓口のすぐ横にあるんだよ。あたしがいるときに彼が出てきたら、間違いなく見つけてたもん」

「うーん‥‥‥。最初に戻るけど、彼氏の姿を見落とした可能性は本当にないかな? 当時は雪で視界が悪かったし、道の反対側の歩道を歩いていた彼がだれなのか、わからなかったのかもしれない」

「そんなにお馬鹿じゃないですぅー」


 ぷぅ、とじつに馬鹿っぽく膨れてみせた少女は、


「それにねっ、駅前近くまで、全然歩いてるひととは会わなかったんだから。足跡ひとつない雪の上を歩いてったんだよっ、あたし。別人と間違えるとかありえないでしょ?」


 強めの口調で僕の疑問を否定する。


「彼と会えなくて、変だなあって考えながら駅から引き返してったら、あたしの足跡の上に大きな足跡が重なっててぇ、もしかしたら、って思って急いだらぁ、あたしんの門の前で彼が待ってたの。傘の上にいっぱい雪が積もってて寒そうで、すっごいヤバかったんだから!」


 でもぉ、と笑い、


「結果的には予定通りおうちデートしたしぃ、すぐ決断してUターンしたあたし正解! これやっぱラブの力かなぁ? ふふふふっ♡」

「‥‥‥それはよかったな、です」


 幸せそうに肩を揺らす徳島に、おなか一杯、という顔で巣我が返した。

 僕はコホン、とひとつ咳払いをして、


「───では改めて。徳島マミさんの依頼の内容は『雪の日に起きた、不思議な行き違いの理由の解明』。

 僕ら除霊研究班でいくつか調査をした後で、解明の成否も含めて近日中に報告するから。

 ただし、断わっておけどそんなに劇的な答えは期待しないでね。

 またこの別室まで来てもらう可能性もあるけど、メールで済む場合はそうするかも。ふたりともアドレス貰っていいかな」

「私のも?」

「関係者ってことでよろしく」


 田中が怪訝けげんな顔をするが、お願いする。

 相談を済ませて椅子から立ち上がった女子二名。僕はその背中に、


「あ、ごめん訊き忘れてた。マミさんが家を出た時刻、駅に着いた時刻、戻って自宅前で彼氏さんと会った時刻をできるだけ正確に教えてもらえる? わかる範囲でいいよ」

「ん~? えっとねぇ」


 徳島はすこし考え込む。


「彼が乗ってきた電車の到着時刻が十二時四七分でぇ、あたしが駅に着いたのは十二時五五分だった。このふたつは確認したからゲンミツねっ。

 家から駅までは毎朝登校するときに十三分使うから、あの日は雪が降ってたし十五分ぐらいかかったんじゃないかなぁ、行きも帰りも」

「電車で来たってことは、彼氏の家って君んから遠いの?」

「まぁそこそこ?」


 地名を教えてくれたが、高校生男子でも徒歩や自転車で往復するのはきついかな、という位置関係だった。

 僕は手を振り、ふたりは仲良く手をつないで去っていった。


     ♦     ♦     ♦    ♦


 依頼者が出ていったあと、巣我が僕に尋ねてきた。


「───徳島さんのメアドは依頼メールでわかっていますが、なぜ田中さんのものまで訊いたんですか?」

「女子の連絡先をいっぱい知りたいと思うのは、男なら当たり前じゃないか」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 うわ、すっげー軽蔑された。


「ところで、巣我さんはなんで変な顔してたの? ケーキの話が出たとき」

「‥‥‥気が付いてましたか」


 僕に表情を読まれて不本意、といいたげにつぶやいた巣我。


「お菓子好きの間ではけっこう有名なんですよ、ケーキ屋の甘菓館かんかかん。そこの一番人気が、賞味期限が製造当日のスペシャルレアチーズケーキです。

 朝一〇時の開店直後に売り切れるんで、午後一時に訪れた彼氏さんがスペシャルレアチーズを買ってきたと聞いて一瞬『あれ?』ってなったんです」

「彼が電車で駅に着いたのがたしか、十二時四七分だったね」

「予約は三か月待ちと聞いています。恋人のお宅への初訪問だし、彼氏さんも気合を入れたのかもしれませんが、ハードルは高いです」

「ふーむ」


 スマホをいじる僕。


阿仁あにくんはなにを調べているんですか?」

「当日の気象情報。───朝の時点であの日の予報は曇り、降水確率二〇パーセント。本当に急変したみたいだ。徳島さんの自宅周辺に雪が降りはじめたのは十二時三〇分頃、気象庁から大雪警報が出たのは十二時三六分。

 徳島さんの証言によれば、彼女が家を出たのはおおむね十二時四〇分頃だ。

 次に鉄道会社の時刻表。彼の家の最寄もより駅を該当する電車が発車するのは、十二時十九分。‥‥‥まあまあ微妙だな」

「さっきから細かい数字を並べてますが、なにかわかったなら勿体もったいぶらずにいいやがれ、です」


 じつは口悪いよね、蜜羽ミツハたん。


「真相はシンプルかもね、って話」


 僕はアドレス帳を開き、メールを打った。


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 阿仁あに:《除霊研の阿仁あにです。先ほどはどうも。

     ひょっとして忘れ物してませんか?》


 Re:《忘れ物って?》


 阿仁あに:《自慢話とか》


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 さあ、犯人は誰だ(笑)。

 いかんせん登場人物が少ないので、犯人捜し(フーダニット)としては成り立っていませんね。

 次話で完結です。

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