表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪談 行き交い狐  作者: あしかが
1/3

 男子高校生の「僕」が、身近な謎を相談形式で解決します。

 軽い読み物として楽しんでいただければ幸いです。

 登場人物のイラストが入っています。苦手な方は非表示でお読みください。

 全3話完結。

 ───この学校の校舎の目立たない一角に、「生徒会執務室・別室」と文字が書かれた小さなプレートが付けられた扉がある。

 そこは「除霊研究班」という、部でも委員会でもない組織の活動拠点になっている。ただし除霊研の名は校内のどんな資料にも組織図にもない。

 生徒の間のくちコミによれば、身の周りで常識では測れない心霊現象や奇妙な物事が起きた時、ここに相談すれば解決してくれるのだという。秘密厳守で。

 だが相談したもの以外には、本当のところはわからない。


 (ある地方都市の、ある高校に伝わる噂話)


     ♦     ♦     ♦     ♦


 制服姿の少女が口を開いた。


「───あのですねぇ。あたし、この前すっごい不思議な体験をしたんでぇ。ウワサの『なぞなぞ研究室』に答を教えてほしいかなあ、って」

「うんうん、何でも聞いて?」


 時刻は昼休み。エアコンがかすかな唸りをあげる八畳ほどの室内、置かれているのはロッカーがいくつかとテーブルと椅子。窓にはブラインド。ここが「生徒会執務室・別室」だ。

 安請け合いして頷いたのは僕、阿仁あに一人かずひと。平凡な男子高校生、というテンプレイメージを想像していただければ、それが僕だ。

 折り畳みの会議用テーブルを挟んで僕の向かいに、パイプ椅子に座った女子生徒がふたり。

挿絵(By みてみん)

 ころころした可愛い声で話しているのは、茶色がかった髪を高い位置でツインテールにした女子生徒、徳島とくしまマミだ。


「───マミ、『なぞなぞ研究室』じゃなくて『除霊研究班』だよ」

「そうだっけ? あたし除霊っていわなかった?」

「いわなかった」

「ありゃー」


 隣から訂正を入れたのは、お下げ髪の田中胡博たなかこはく。今回の相談者である徳島に付き添ってきた友人だ。突っ込んだ方もされた方も慣れた感じで、普段からこうしたやり取りを繰り返しているのがうかがわれた。

 彼女らは十代の女子によくある相似形そうじけい仲良しコンビで、髪型は違うがよく似た見た目をしている。あえて差を付ければ徳島がようの印象で田中がいん、だろうか。


「その不思議なこと、ですが」


 テーブルから少し離れて僕の斜め後ろで椅子に腰かけた、眼鏡の少女が声を出した。

 蜂蜜色の金髪(ハニーブロンド)のボブヘアに緑の瞳、低めの身長に100セン(メートル)チ級バストという、この室内で最も目立つ容姿をした彼女は、巣我すが蜜羽みつは。僕と同じく除霊研のメンバーだ。

 巣我は膝に置いたタブレット端末を操作して、


「事前にいただいたメールの記述だとはっきりしないのですが、“なぜか道に迷ってしまった”という内容でよいですか?」

「うーん‥‥‥。そんなようなぁ、違うような」

「もう、マミ。いい加減すぎるって」


 いちゃいちゃするふたりだが、僕は気にしない。レズは尊いからね。しかし巣我がじわあ、と背後から圧をかけてくるので話を進める。


「ゆっくりでいいから思い出してもらえる? 徳島さんがおかしな現象に遭ったんだよね。いつのこと?」

「マミって呼んでオーケーだよー。えーとねえ、たしかぁ‥‥‥‥‥」


 斜め上を眺めて記憶を探りながら、依頼人は喋りはじめた。


     ♦     ♦     ♦     ♦


「‥‥‥そうだっ、先週の、三連休の一日目だったよ。あーっほら、雪がいっぱいふった日! わかる?」

「もちろんわかるよ。ニュースになったよね」


 相槌を打つ僕。ここらは毎年多少の雪が降る地域だが、強い寒気団が入り込んできたとやらで先週、季節外れの集中降雪が起きた。今でも日陰には溶け残った雪だるまを見ることができる。

 徳島はニコニコと、だがモジモジと、


「あたし、初めておうちデートしたんだぁあの日。‥‥‥ふふふ♡」


 なんですと!?


 高校生ともなれば恋愛していて普通だし、男女の仲を経験した者もいて当然。だが、


(自分と同年代にしては言動が子供っぽいなあ)


 くらいに思っていた子に急に自ら恋バナ暴露をされるとこう、生々しいというか、

 ────エロい。


 あらためて徳島の肢体を眺めると、童顔ではあっても体格まで幼いわけではなく、出るところは出た、柔らかな曲面をなすオンナの躰である。

 うーんそうかあ、恋に花開き、手折たおられるのを待っているのか。この娘さんが。

 いや、待ってるとは限らないよな。活発系だし自分から彼氏に迫ってるかもしれない。そういうのもアリだよなあ。んー燃える。相手は僕じゃないけど。


「それでそれで?」

カレが家に来るって決まってから、自分で美味しい紅茶入れる練習して、大掃除もしてぇ」

「うんうん」

「なんか頭いいっぽい本をお姉ちゃんに借りて本棚に入れてぇ。服も選んでそれから、ふふふ、ゴム買っとこうか迷ってぇ」

「おぉう」

「ストップ、マミ、ストップ! ずれてるずれてる。不思議な体験の話だから!」


 聞いているうちに徳島の語りが大胆に逸れはじめ、田中が慌てて軌道修正した。


「待っているうちに雪が降ってきて、マミは彼を迎えにいくことにしたんでしょ?」

「そうそう。前に胡博こはくにいったよね」

「私じゃなく、ここのひとたちに説明しなきゃ」


 そうだった、とツインテ少女はひとりごち、


「あの日はですねー。あたし家にひとりで、『午後一時頃にいくよ』って約束した彼のことを待ってたの。

 そしたら外が急に大雪になって、最初は『わーロマンティック♡』って喜んでたけど、つけっぱなしにしといたテレビが気象警報出して、彼のこと心配になっちゃったんだ。家に来るの初めてだし」

「もっともだね。メールか通話で連絡とってみた?」

「みたけど、既読つかなかった。彼ねぇ、しょっちゅうスマホを置き忘れて出かけるの」

「ふむ。うっかりさんだね」

「駅までは近いし、駅前からあたしの家まではほとんど一本道なんだけどぉ。でも迎えに行こうかなって。ふふっ、彼女カノジョだしぃ。

 でねっ、傘さして出発したわけ。

 雪はもう一、二センチ積もってたけど、吹雪ってわけじゃないから普通に歩けて、すぐに駅に着けたの。そしたら彼が乗ってくるはずの電車はもう駅を出ていて、なのに彼はいないんだよ。変だよねぇ?」

「それでマミさんはどうしたの?」

「乗り遅れたのかもしれないし、次の電車まで待とうかと思ったけど、駅員さんが『このまま降り続くとダイヤが乱れるかも』っていうから、一度帰るしかないかな、ってなってぇ」

「うん」

「で、帰ったら彼がいたの。あたしの家の前に」

「ぅん?」

「あれっ?」

「───変だよねぇ? でしょ?」


 徳島は困惑する僕と巣我を見て、ちょっとたのしそうに笑った。

 お読みいただきありがとうございました。

 次話で謎の詳細が説明されます。

 全3話なのでブックマークは不要かもですが、もし面白いと思っていただけたら、下にある評価マークを押していただければ有難いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ