第六部
国王は大きく息を吸い、吐き出す息とともに声を発した。
「なにがあった」
「はい。実は聖獣様が付いてきてしまいました……」
「はっ?」
「なっ!」
「どういうことです!」
国王も宰相も騎士団長もあまりにとんでもない事態に息が止まり、やっと息を吸おうと思ったら、先に言葉が出てきてしまった。
この場で落ち着いているのは、少女に同行した騎士だけで、その騎士も、既に十分驚いたから今平常心を保てているだけ。実際に少女が聖獣と会話しているのを見て腰を抜かしてしまった。聖獣の姿はおろか声も聞こえなかったが、禍々しい空気に気圧された。
少女はまだ口を開けたままの三人を余所に説明を始めた。
「陛下の仰る通り、聖獣様を説得すれば良いだけの話でした。初めてこちらから話しかけてみたのですが、すぐに聖獣様がお返事を下さり、彼の国へ対する憤りを鎮めて下さいました。ですが、もうあの国には居たくないそうです。話が通じないのは仕方ないとしても、王家が愚かすぎて呆れるばかりで国を守りたくないそうです」
少女は聖獣の言葉をそのまま伝えたのだろうが、言葉があまりにも辛辣すぎて宰相も騎士団長も辺りを警戒した。大国に知られでもしたら、ただでは済まない。
「して、そなたと一緒にこの国に来たと言う訳かの?」
「はい。ご迷惑はかけないとの事です。彼の国を見捨てるので彼の国は廃れて行くようですが、その時に問題が起こらないようこの国全土に結界を張って守って下さるそうです」
驚きすぎて誰も声が出ない。神のご加護がただで転がってきたのだ。
国王は民が守られた事に安堵し、宰相は国益が上がることを皮算用し、騎士団長は軍事力の強化間違いなしだと、それぞれに胸が踊った。
「つきましては陛下、今わたくしの住んでいる家の近くの森を聖獣様の棲家としてもよろしいでしょうか?」
「よろしいもなにも聖獣に対しこちらが許可を出すなんてそんなだいそれたことはできん。好きにしてくれて良い」
「ありがとう存じます」
「して、その、聖獣はこの国で暴れることはないか?いや、聖獣を危険視しているわけではないぞ。だが、そなたを愚弄するようなことは決してせぬが、特別優遇するようなことも、その、」
「わかっております。私も特別目をかけて頂きたいわけではありません。ただ平民としてで良いので、のんびりと暮らしたいだけです。聖獣様は私が伸び伸びと暮らせる国か尋ねました。私はそれにはい、と答えました。ならば、私のそばで聖獣様も伸び伸びしたいとおっしゃいました。過分なご配慮は無用と存じます」
国王一同胸をなでおろす。
だが、事なかれ主義の国王だ。利益があればそりゃ有り難いが、利益があってもその分厄介事が生まれるのは御免被りたい。結界を張ってもらえるのは有り難いが、彼の国がこのまま黙ってるとも思えなかった。