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もう入国は禁止です。  作者: 春樹要太
第一章~北の国の聖女~
1/12

第一部

「相次いでますな」

「ああ……」

「まあ有益な方々ばかりなのが有難いですが……ですが」

「ああ……これは多すぎるな」


 国王と宰相が頭を抱えているのは、ここ数年で増している隣国からの追放者たちの事だ。


 追放者と言っても罪人ではない。いや、追放した方からすれば罪人だから追い出したのだろうが、どれもこれも罪と呼べる程ではない。と、この国の国王も宰相も思っている。

 取って付けたような理由に大層な罪状を乗せて、中には冤罪だろうというようなものまであった。

 どれもこれも子どもの喧嘩だ。国をあげてここまでするものでもないだろうに。

 各国に忍ばせている影からの報告を受けつつ呆れる。


 呆れながらも問題なのは──居着いてしまったその追放者が各国で地位や名声を持つご令嬢たちだったからである。全く、どこもかしこも追放しすぎだ。




 それは三年前に北の大国から追放された一人の少女から始まった。



 ──癒しの手を持つ少女が現れた。

 そんな噂が流れ出した。

 それは北の地で聖女が追放されて一ヶ月程経ったときだった。


 と、同時にルノンと名乗る平民の少女が入国してから一ヶ月程経った時だった。


 王城の真東、ちょうど東の隣国との国境を中心に大きな森がある。その森の手前には王城に向かうように農村地帯が広がる。その森と農村地帯の境、そんな辺鄙な所にルノンと名乗る少女が一人で住み始めた。

 ルノンは森で薬草を摘み、それを煎じて薬を作り、売り歩いて生計を立てていた。

 その薬の効果が抜群だといわれ、このような噂が立ち始めたのだと。


 国王は噂を聞いた時にギクリとした。まさか北の地の聖女がこの国に根を下ろしたのではあるまいな。

 この王は平穏無事を何よりも願い、面倒事は徹底して回避してきた。火のない所に煙は立たぬというが、その煙さえも立たぬよう常に隣国の状況を探っている。早急に噂の真実を調べるために少女に監視がつけられた。と同時に北の地の聖女の詳細な特徴も送らせた。

 だからこの少女が平民ながらに優秀な薬師なのだとわかった時はホッとした。


 だが──実際はそうではなかった。

 北の地の王からの手紙が届いたからだ。

『我が国から出ていった聖女がそちらにいる。直ちに送り返せ』


 国王は震え上がった。この国に逆らえば我が国などぺしゃんこにされる。

 たが同時になんて不遜な王だと思った。


 自分で追い出した者を返せなどとどの面でこの手紙を出したのだ。

 しかも探すことさえも自国でせずに押し付ける。いくら格下の国に対しても統治者のすることではないだろうに。

 青くなったり赤くなったり、気性の変化が著しく、心が消耗するが最後に残ったのは赤い怒りだった。


『我が国に聖女様がいらしてるとは真でしょうか。真でしたら露知らずとしましても大変失礼致しました。いまからでも国をあげて歓迎の意を表明いたします。ですが入国記録を調べたところ聖女様が入国した形跡はなく、どこをどう探せばよいか全く思い当たりません。宜しければ聖女様の特徴をお教え願えれば幸いです。また聖女様を良く知る方、お付きの護衛や担当していた侍女なども出向いていただいて直接ご確認願えれば陛下につきましても安堵して頂けることと存じます』


「陛下!本当にこの内容で出すのですか?」


 頭がイカれたのかと思うほど宰相に驚かれた。

 まあ普通は格上からの要請は『諾』のみを返事するのだから驚いて当然だろう。


「ああ、これで出す。なあに、あちらさんは何も出来ない国だと見下している。だったらあちらさんの思うように動けばいい。何も出来ない振りをしろ。どっちにしろ探せと言われて特徴も分からずにさがせるわけもない。闇雲に探しても逃げられるだけだ。そしたら今度は「逃したのか!」と怒り狂うだろよ。どちらにせよ同じ内容の手紙になる。向こうの茶番に付き合う義理はない」


 確かにどちらの行動を起こすにせよ同じ内容になる。だが、恐れながら伺いを立てるより、格下には格下の考えがある!と、振り切った方が心持ちがよい。


 どうせ向こうとて、どちらに転んだとしても同じ内容の手紙しか出せぬのだから。


「そう時間はない。急ぎ内密にその少女と話がしたい。準備せよ」


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