参入者
「………」
ご近所さんたちは静かに、私の様子を伺っている。
ーーどうしたものか。
別に勝てないわけではない。魔法を使えば一撃でみんな吹き飛ばして終わりだ。
しかし、相手は刃物を持っていても一般人。法律で攻撃系の魔法の行使はかなり、厳しい罰則が与えられる。
それが自衛であってもだ。
「ちょっーーー」
1番前にいた、女の人がハサミの先を私に向けて走ってくる。
速い。この寒い冬に裸足で、だ。
体張るなぁ。
私はハサミでの突きを背後へ跳び、躱す。
動きは素人。ただ、問題は数だろう。15人ぐらいいるおかしな人たちをどう無力化するか。
「月が綺麗ですね」
とりま、意志の疎通をする。
「……………」
……返事がない。ただのコミュ症陰キャのようだ。
自分にもはね返って来る、ジョークを思いつく。
「ご主人様!」
今1番聞きたかった声が後ろからする。
しかし、その声に私が応えるよりも先に、ご近所さんが一斉に動く。
「天牢雪獄」
フィオネが手を前に突き出し、魔法名を唱える。詠唱をせずに魔法を放つ。
大量の雪が雪崩れ込む。
「わっーー」
ギリギリで、フィオネの元へ辿り着き、雪崩に巻き込まれずにすむ。
ご近所さんたちはみんな巻き込まれてしまった。
「フィオネ、助けてくれたのはいいんだけどさ、これ、マズイよ?」
私が魔法の使用を躊躇っていたのに、フィオネは簡単に使った。
「ご主人様! 血が!? 見せてください!」
「いや、大丈夫だから。治癒魔法で、傷はほとんど治っているから。それよりも、あっちの人たちを掘り出さないとーー」
「いけません! ちゃんと、傷の手当てをしてからーーーー」
私もフィオネも、すぐに気づいた。あまりにも嫌な気配。昔、その声で竜を呼び、都市に攻撃を仕掛けたあいつと似た気配。
「ーーはぁ」
落胆からくるため息。
黒の外套をつけた人影。背丈から、男だろう。わかるのはそれぐらい。
「こんなもんか。糞でも肥料として、役立つってのに」
男は、雪から下半身を出した通り魔の前で愚痴っていた。
「役立たずの、訪問販売が。そんなんだから、会社クビになるんだろが!」
通り魔の尻を、思いっきり蹴り上げる。
「何者です、貴方は」
フィオネが私の前に出て、問う。
「神だよ。 本物の、な」
男はフードの奥から、先程までの苛立ちを感じさせない笑みを浮かべて、言った。