大切なーー
「あの、フェイト・アレイスターです」
当時の私は彼女にただただ、憧れた。ピンチに颯爽と現れ、悪い敵を一瞬にして、倒す。ヒーローそのものだ。
「そうか、私は大堂栞だ」
自己紹介の最中に現れた飛竜。彼女は《戦場》の転移で飛竜の背中に移動し、その体を一刀両断する。
目の前に何事もなかったように現れる。
「今の何ですか⁉︎」
「この刀の力だよ。瞬間移動となんでも斬ることがでるのさ。 と、言っても瞬間移動できるのは、私1人だけだ。だから、君を安全な場所まで行くのは徒歩になる。歩けるか?」
「はいッ!」
彼女の後ろに続きながら歩く。子供である私に歩幅を合わせてくれる。彼女が優しい人だとわかる。
「私も、お姉さんみたいになれますか?」
唐突だった。言って、後悔する。訳がわからなさすぎる。
「……私のようにはなったらダメだ」
「?」
この時の彼女の言葉はよく覚えている。
「私はいつか、人ではいられなくなる。それがいつかは私にも、分からないが」
私より高い背中なのに、今は小さく見えた。
「なら、その時は、私が助けます! いっぱい勉強して、いっぱい練習して、今度は私がーー」
抱きしめられる。ギュッと、力強く、かなり苦しい。
でも、それ以上にーー
「ありがとう、ありがとう、ありがとう……」
泣いていたのだ。ピンチに現れ、私を助けてくれたヒーローが。
きっと、彼女も辛いことがたくさんあり、ずっと我慢していたのだろう。
私は彼女が泣き止むまで、背をさすった。