現人神
「《現人神》それは人の身でありながら、人智を超えた力《権能》を持つ者を指す」
歴史の授業。それは私にとって退屈極まりないものだろ。過去なんぞ振り返っても明日に役立つとは思えない。こんな退屈で無駄な時間の浪費は許してはいけない。
「彼らは人間であった。しかし、アカシックレコードを見たことによって人智を超えた力に目覚めたとされる。これは全ての神々がアカシックレコードについて言及されていたことが、証拠である。《現人神》となったものは自制することが出来ず、《権能》を使いやりたい放題する。そのカウンターとして我々は異世界より勇者を召喚した。勇者は召喚の際に強力な兵器を携えている。《ブレイド》を使い勇者は、『神殺し』または、『封神』を行う」
他のクラスメイトは興味ないのか、寝たり、話したりと、やる気が感じられない。一応一部生徒は板書をとっているが。教師も別に気にした様子はなく、淡々と授業を進める。
「しかし、今より90年前に最悪の女神が誕生した。彼女はユーグリス帝国とゼルトス連邦の戦争がトリガーであるとされる」
そうだ、その女神が悪い。
「その名は魔造工母、既存の生物をベースに新しい怪物を生み出し続ける。だが、近々異界より召喚された勇者や高位の魔法士で編成された、大規模な討伐隊が最悪の女神を殺す――」
90年間ずっと化け物を作り、私たち人類を滅ばさんとする女神―――。
「お、おい、フェイト?」
「――ん?なに?」
前の席の男子生徒が声をかけてくる。気づけばみんなが私の方を見てくる。
「お前、なんか怖いよ」
「ごめん、ごめん。うんち漏れそうなの、我慢してさ」
私からすれば、君たちのほうが怖いよ。今もなお、怪物を生み出す神がいて、人類の生存圏は年々小さくなっているというのに誰もこの現状を変えようとする者がこのクラスにいないなんて。母神の生い立ちなんかよりもその権能、もしくは、子供たちについて教えたほうがいいのに……。この国は楽観視している。
「んなら、はよ行って来いよ」
「わかってるって。先生トイレ行って来まーす」
「あ、ああ。どうぞ」
教室を出て、トイレを過ぎ、階段を登り、屋上のドアにかかったロックをあらかじめ盗っておいたカギで開ける。
「誰も分かんないかなー。結構ピンチだってこと」
でも、仕方ないのかもしれない。私の見ているこの景色は平和そのものなのだから――――。