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第4話 夢(後編)

   

 最初に声をかけてきて、その後この世界を案内してくれた女性は、ブルシムア王国の姫様だった。王国で最高の術者だからという理由で、召喚儀式に関わっていたのだ。

 キラキラした目を向ける彼女を、私は最初、プレッシャーに感じてしまった。

「私は平凡なサラリーマンですから、あまり期待されても困ります。私の世界には、魔法もありませんでしたし……」

「謙遜なさらないでください、賢者様」

 召喚魔法で呼び出されるのは、最も必要とされる人材。だから『賢者』で間違いない、というのが彼女の理屈だった。

「この世界では、大気中に魔力素が満ち溢れています。だからこちらに来た時点で、賢者様も自由に魔法を使えるはず。さあ、存分に!」


 魔法の発動には呪文詠唱が必要だったが、いくつか基本的な魔術書を見せてもらうだけで、私にも魔法が使えるようになった。

 騎士団相手に何度かトレーニングした後、実戦に駆り出される。

「召喚術者としての責任があります。賢者様の冒険には、私もお供します」

 ということで、姫様が随伴する形だった。彼女の身に危険が及ばないよう、親衛隊らしき精鋭騎士たちも同行する。

「彼らがいれば、私が戦う必要ないんじゃ……」

 出発前にはそんなことも考えたが、思いっきり期待外れだった。魔王軍のモンスターは手強(てごわ)くて、私の魔法が戦いの決め手となった。


「おお! さすがは賢者様!」

 勢いづいた王国軍の反抗作戦が始まる。

 私は優れた魔法使いとして働くだけでなく、姫様と並んで先頭に立ち、軍を率いる役割も求められていた。神輿や象徴のようなものだろう。

 さらに、戦術を検討する軍師の任にも()かされた。『賢者』だから賢いに違いない、という扱いだ。もともと私に軍略家としての才能はないけれど、これまで読んだり書いたりしてきたWEB小説の知識が役に立った。

 こうして、私が頑張ったおかげで、王国から魔王軍を駆逐することに成功する。魔王を滅ぼすには至らなかったが、

「私は去る」

 いかにも魔王らしい捨て台詞を残して、魔王は魔界へ逃げ帰ったのだ。


「賢者様、ありがとうございました」

 世界に平和をもたらした立役者として、私は感謝される。しかし役割を終えた以上、その世界に長く(とど)まることは出来なかった。

「それが召喚魔法のルールですから、仕方ありません」

 姫様は、私以上に残念がっていた。魔王軍との戦いにおいて、私と姫様は苦楽を共にしてきたため、愛が生まれていたのだ。

「たとえ世界は変わっても、いつか必ず! 生まれ変わってでも、あなたに会いに行きます!」

 とまで言ってくれる姫様を異世界に残して。

 元の世界に帰り、平凡なサラリーマンの日々に戻って数日後。

「新しい召喚魔法を編み出して、賢者様の世界へ来られるようになりました!」

 異世界から転移してきた姫様と再会して、私の冒険はハッピーエンドを迎えた。

   

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