ニキビの怪
胸のあたりにニキビができた。クリーム色の膿が溜まったでっかいニキビだ。
珍しいから、潰さずに残しておくことにした。
ニキビはどんどん成長した。親指の第一関節くらいだと思っていたら、いつの間にか握り拳くらいまでのサイズになった。
――どこまで大きくなるんだろう?
純粋に気になった。
それからは、今にもはち切れそうなそれを、潰さないように、潰さないようにと気を配る生活が始まった。
例えば、満員電車は乗らないようにするとか、転ばないように慎重に歩くとか・・・
努力のかいがあって、ニキビはさらに大きくなった。
僕の胸にこんもりと、標高10cmはあろう、大きな山ができた。
そこまでになると、さすがに周りの友達も気になって聞いてきた。
「お前さあ、前から気になっていたんだけど・・・その胸どうした?」
「ああこれ?ニキビだよ。」
「絶対に違うぞ、それ。医者に見てもらいな。悪い腫瘍かもしれないよ。」
「いや、どう見てもニキビだから。確認する?」
友達は一切見たがらなかった。
いつまでも育てていたいと思ったものの、友達に心配をかけるのが申し訳ないから、ついに潰すことを決意した。
儀式は浴槽で行った。
――いざ、さらば。
針を刺して。両サイドから指圧すると、
「ブチュブチュブチュブチュ」
といっぱい膿が出てきた。
――おお、大量、大量。
僕は満足だった。
押しても押しても出てくる膿。そのほとんどが液体なのだが、最奥に大物がいた。
――これがニキビの主か・・・
僕は、再度強く指圧した。ムニュ、ムニュっと、だんだん顔を出してくる。
かなり強く押してるためか、一緒に血まで出てきた。
――あともうひと踏ん張り!
痛みをこらえてギュウッと押した。すると、スポンッと塊が飛び出した。
――でっけえ
その塊は握り拳よりひと周り大きい。
大きさだけではない。その全容を見て、思わずそれを両手で拾い上げた。
――な、なんだこれは!?
顔。顔だ。顔があるのである。目が二つ。鼻が一つ。口が一つ・・・
驚きのあまり固まっていると、その顔が動いた。
「イツカ、ノットッテヤロウトオモッタノニ。」
ニンマリと笑う口からは、血が滴っていた。
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