太陽が燃えていますね ①
じっとりとした汗を掻く真夏日。だだっ広い空に堂々と居座る太陽は盛んに燃えている。
天道御影も燃えている。そうして彼は灰になった。
嘘みたいに晴れた青空が葬儀の鬱屈とした雰囲気を忘れさせ、悲しみに暮れる俺を嘲笑うかのような爽やかさを演出している。
草木が青々と茂り、冷たい土の中から這い出てきた虫たちが短い生を謳歌しようとしている夏に、御影は死んだ。小鳥のさえずりは清々しく通り抜けていく。未だに実感を得ることができない。
ベニヤ材に薄くスライスした桐を貼りつけた突板張りの棺桶の中で、御影は安らかそうに眠っていた。若い身空で息を引き取った彼が、本当に悔いも残さず安らかに死を受け入れたのかどうかは知らないが、少なくとも俺にはそう見えた。
出棺の後には斎場を去るつもりであったが、御影の両親のご厚意で火葬場まで同伴した。良き友人代表として、俺は彼の骨を拾わねばならなくなった。
薄情なことに俺は涙を流さないでいた。無論悲しく、心は沈んでいたが、何度か鼻を啜るにとどまる。大人であるという体面がそうさせたのかもしれないし、やはりまだ彼が死んだことが信じられていなかったのかもしれない。
そんな俺を置いてけぼりにして、葬儀は粛々と進んでいった。もう二度と会えないなんて思わせもしないで、火葬炉のコンベアに乗せられた御影入りの棺桶が、重厚な扉の奥に見えなくなる。
あれが天国への入り口なのかと益体もないことを考えながら、彼を見送った。
約千度の火の海で彼が文字通りその身を焼いている頃、控え室では精進落としが振る舞われた。同席していた親族らは漫ろに談笑していて、故人との思い出を語らいながら飲み食いをしている。俺からしたら面識のない人ばかりがいる場所であったが、不思議と居心地の良いような気がしたのは、その場の全員が御影のことを偲んでいたからだろう。
俺と同様にまだ彼の死を実感できていない人。もうすでに割り切った人。気を紛らわせようとしている人。明らかに無理をしている人。そういった人らが集まって悲しそうに笑いながら、沈黙と談話を繰り返している。
ふと窓の外を見れば植木の枝葉が風に揺れていた。俺は度々そちらに視線をやっていた。
やがて一同揃って拾骨室に通される。さほど広くもない空間に質量を感じられるほどの熱気が充満していた。部屋の真ん中で崩れている御影が熱を持っているのだ。微動だにしない彼の亡骸から、目が離せなくなる。
燃え尽きた御影の灰は真っ白ではなく、焼け焦げて所々煤っぽくなっていた。一見すると白く見えて眩しくもあったが、全体的にはそれらが混ざり合って、まさしく灰色をしている。
親族らの手によって御影はあれよあれよという間に骨壺に納められていく。骨は立派なものだった。粉々にならず形を保っていた部分は大きくて頑丈そうで、生前と変わらず逞しさを備えているように窺える。箸で持つと砕けてしまうほど脆い箇所もあったようだが、そうでないところは加工して首飾りにでもしたいくらいであった。
皮も肉もなくなり、最早誰とも判別できなくなった御影と目が合った気がした。こちらを向いた頭蓋骨の、その眼窩は暗く、けれど淀みのない、純然たる虚空を湛えている。
骨上げは喪主である両親が始め、それから近親者へと順番が巡り、最後のほうになって俺に回ってきた。どこのものとも知れない骨を拾い上げて納める。これが御影に触れた最後の瞬間になった。
御影はついに小脇に抱えられるほど小さくなり、弔いは恙なく終えられた。
火葬場の外に出ると、穏やかな風は胸中から何か大切な物を奪い去っていくかのように心地良く過ぎていき、太陽は相変わらず燦々と輝いていた。汗が滲み、シャツが肌に貼りつく。それを不快にも思うし、彼が手の届かない所へと行ってしまったのだと、ようやく思い知らされもした。
暑い中、手首まで袖に覆われる喪服が容赦なく熱を吸収する。服の内側に熱が籠り、体感温度はどんどん上昇していったが、千度とまではいかない。ただ渇きを覚える。
俺は御影の両親に挨拶をして帰路に就いた。足取りは軽くなどなく、長く日光に晒されることとなった。ゆっくりとした時間が流れる。
どこへ行こうとも彼に会うことはできないのに、足はひたすらに前に出る。
歩けども歩けども、御影との距離は縮まらない。もう彼に触れることは叶わないのだと、現実を突きつけられるようだ。
だが、それは今に始まったことではない。
彼は生前から、手の届かない存在だった。
朦朧と御影の姿を追憶する。夏の危険な暑さが、俺にまで走馬灯を見せようとしていた。