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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
エピローグ
63/63

『ざまぁ』される俺たちにも救済を!

「ふう……ここにも久しぶりに戻ってきたな」


 今や慣れ親しんだ何もない空間に、俺とセイラはようやく帰着する。

 何だかんだ、四か月近くをあの世界で過ごしたのだ。これまでの旅の中では最長だった。


「今回も何とか成功って感じか」

「ふふふ、ユーゴ君、相変わらず熱かったじゃない。相澤柚季とクリエイターの説得のときとか、格好良かったよ」

「言うな」


 あの時はブチ切れていたから好き勝手言ったが、後で指摘されると相変わらず小恥ずかしい。


「ってか、その後の相澤柚季とのやり取りは何だよ!めちゃくちゃ青春っぽかったじゃないか!ずーるーいー。僕もあーいうのしーたーいー!」


 頬を膨らませてぶうぶう言うセイラ。


「んなこと言われても……。じゃ、次の世界では、お前も一緒に高校生やるか?

 つーか、次の世界はどんなところなんだ?お前のことだから、もう目星はついてんだろ?」


 しかしその問いに彼女は応えることなく、つかつかと俺に背を向けて距離を取り出す。


「おい、セイラ?」


 数歩分の距離を取ったところで、こちらを振り向く彼女。


「ユーゴ君。今まで、ありがとね」

「……どういうことだ?」

「僕らの旅は、ここで終わり。運営から、最終勧告が来ちゃった。

 今度同様の通報があった場合、僕のアカウントを抹消する、って。そしたら、僕の世界は全部取り消しになっちゃって、ユーゴ君の存在も消滅してしまう」

「な……何とかならないのかよ?」


 しかし彼女は、諦観したように首を振るだけだ。


「こればっかりは、ボクにも無理。

 だから、僕らの旅は、これで終了。

 もちろん、約束は守るよ。君は元の世界に戻って、人生をやり直す。

 『セイラ』の存在も、持ち主に返す。

 君はまた勇者として選ばれ、魔王討伐の旅に出るんだ」

「そしたら、今の『セイラ』や、この旅のことは?」

「……残念ながら、覚えておくことはできないよ。

 だっておかしいだろう?自分の世界の外のことや、そこを飛び回った記憶を持った勇者なんて」


 ……確かに、そうなのかもしれない。でも、それじゃあ。


「だけど!お前のことを、忘れるなんて……!」


 セイラはすっと俺の方に近づくと、俺の唇に、その人差し指が添えられる。


「大丈夫だよ」


 眼前には幼馴染の微笑。


「ボクは君のこと、いつでも見守ってる。君が思うがままに人生を生きてくれるだけで、ボクも勇気をもらえるから」


 彼女の指は、そのまま俺の頬を拭った。


「だからユーゴ君。泣くことなんて、ないんだよ」


 そう言うセイラの瞳にも、涙が潤んでいる。


「……分かった。

 期待してろよ。波乱万丈、刮目必至の冒険活劇を見せつけてやる」


 彼女の方にも、笑顔が戻って。


「ふふ、極上のラブコメも、追加しといてほしいな」

「当たり前だ」


 俺は右手を彼女の前に差し出す。


「俺を救ってくれて、ありがとう」

「こちらこそ、ボクの我儘に付き合ってくれて、ありがとう」


 数奇な異世界旅行も、これにて終了。

 果たしてこれまでの旅に、何か意味があったのだろうか。


「他の世界の『ざまぁ』って奴は、減りそうなのか?」

「……どうだろう。星の数ほどある世界の、たった四つに干渉できただけだから。

 前よりも減ったかもしれないけど、単にブームが過ぎただけかも」

「……そうか」


 現実はそう甘くないってことだ。


「あ、でも、聞いて。

 さっきまでいた世界のこと。どうも『クリエイター』が、『リライト』を始めたみたい」

「『リライト』?」

「うん。いったん投稿した世界も、『クリエイター』サイドで改編することができるようになってる。あの世界、『幼馴染ざまぁ』じゃなくて、音楽青春ラブコメになってたよ。音楽描写が本格的なんだ。

 ユーゴ君、相澤柚希に乗り移った『クリエイター』に言ってたじゃない。『ざまぁ』に頼るな、って」

「そういや、そんなこと言ったな」

「それで、『クリエイター』が消滅したでしょ?

 あの時『交渉術』のスキルが働いてたはず。多分あの『クリエイター』にも迷いがあって、ユーゴ君の説得で、彼の意識も変わったんだよ」


 そうなのか。そう聞くと、俺らの活動も少しは意味があったと思えてくる。


「それにね。ボクの計画はまだ、終わりじゃないんだ。ねえ、ユーゴ君」

「どうした?」

「ボクはこれまでの旅を、『作品』として投稿するよ。今まで出会った世界を、四つのケースとして。

 もちろん主人公はユーゴ君、君だ」

「……それは構わないが、何でまた?」

「旅の記録を『作品』として残しておけば、それを見た人たちの意識も、変わるかもしれないから。

 人気は出ないかもしれないけどね。


 あと、『クリエイター』仲間の一人に、面白い世界を創っている人がいる。


 彼の創る下位世界では、『クリエイター』的な世界要素はないけど、代わりに小説や漫画、アニメ、映画なんかのフィクションを楽しむ文化が発展しているんだ。


 特に小説は、アマチュアでもインターネットに投稿して、お互いに読んだり書いたりできるシステムが構築されている。上位世界のシステム名をモジって、『小説家になろう』とか、『カクヨム』なんて名前がついてるけど。


 彼の世界は、完全自立型でね。その世界の人々が生み出した面白い作品は、上位世界の人たちが汲み取って、『クリエイター』が世界化したりしている。


 彼も、ボクの計画を面白がってくれてね。

 その世界のシステムにも、ボクの作品を小説として掲載できることになった。

 そっちでも上位世界の人の目に留まれば、よりボクらの想いが広まるかも」


 セイラの話は相変わらず難しくて、正直半分くらいしか理解できなかった気がするが、要は、俺たちの生き様を世界に知らしめる、って話か。


「うん、そういうこと。……いいかな?」


 ……その眼をされて、俺が断れるわけはない。


「ああ」

「やったあ!

 それとユーゴ君、最後にもう一つだけ、お願いがあるんだけど」

「お願い?」

「うん。僕の作品のタイトル、君が決めてくれないかな?」

「いや、んなこと言われても、簡単には思いつかない……」

「僕らの旅を見た人に伝えたいことを、言葉にしてくれたらいいから」


 ……俺はしばし考え、これまでの旅のことを思い返す。

 不思議と、その言葉はすんなり頭に浮かんできた。




――『ざまぁ』される俺たちにも救済を!



 そうだ。


 どんなストーリーになってもいい。

 ハッピーエンドもあれば、悲劇だってあるだろう。

 『ざまぁ』だって一つのお話だと言ってしまえば、それまでだ。


 けれど、どんな役割を与えられたとしても、俺たちには俺たちの意思がある。

 神々に弄ばれたところで、それだけは絶対に消えない。


 世界よ、思い知れ。

 俺たちは此処にいる。



<終>

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結お疲れ様でした。 ユーゴのやり直しの人生に幸あれ。 どの話も毛色が違っていたしその中でユーゴは立ち位置や関わり方を変えて役割をこなしていたのがおもしろかったと思います。 それぞれの世界…
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