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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース4/藤奏 調・月島 美音・相澤 柚季の関係
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(??視点)①

 セイラの檄に釣られ、俺はとりあえずベッドの上にいた男をぶっ飛ばした。


 改めて、室内を確認する。

 壁際にはテレビが二台、いや、一個はパソコンって言うんだっけか。

 テーブル周りは、ファイルやら書類やらが散乱している。おそらく先の衝撃が原因だろう。


 足元には伸びている男の顔。まあまあの男前だ。


 そしてベッドの上には、衣服の乱れた少女が。肌は赤みを帯び、顔もほんのり上気していて、ひどく艶めかしい……。


「はっ!?」


 そこで俺は未だかつてないほどの殺気を感じ、背後に振り向いた。


「ユーゴく〜ん、何マジマジ見てんのかな?」

「いや、これは、その、そうだ、状況確認だ!状況を、確認していたんだ!」


 おい、セイラ、そんな目で見ないでくれ!


「……ま、ユーゴ君も男の子だからねえ」


 セイラはそう呟きながら、相澤の元へつかつかと歩く。


「これ、飲める?」


 セイラが取り出したペットボトルを口元へ持っていくと、相澤は何とかといった様子でそれを一口飲んだ。


 すると落ち着いたのか、そのまますうすうと寝息を立て始める。


「やっぱり、これまでの被害者同様、薬を飲まされてたみたい。解毒剤をあげたから、ひとまずは大丈夫」


 そしてセイラは、事の様子を見ていた男女二人に声をかける。


「現行犯逮捕って奴ですね」


 女性の方はアリエスのマネージャー、男性の方は足元の男の上司、らしい。俺も今日が初対面だ。


「噂は本当だったのね……」

「安田君……まさか君が、こんな……」


 ----------------


 この世界を訪れる前。

 セイラから、ここが『幼馴染ざまぁ』とかいう世界だと聞かされた俺は、まずは主人公たる藤奏調に近づくことを画策した。

 しかしセイラから与えられた事前知識からは、この世界には争いも魔法もほとんどなく、いたって平和な日常が繰り広げられるだけらしい。


 『ざまぁ』が起こるのは、主人公の敵に対してである――。


 その法則に基づくと、藤奏について回るのはあまり意味がない。


 しかもセイラ曰く、このストーリーは『一人称多視点』とやらで創られているらしい。案の定俺にはよく理解できなかったけれど、要は、


「藤奏調の全く与り知らぬところで『ざまぁ』が起こる可能性もあるね」


 とのことだった。


「じゃあやっぱり、相澤柚季に付くべきか?」

「それが無難だね。でも、いつ『ざまぁ』が起こるか分からないから、シナリオにはあんまり干渉せず、むしろ促進していくくらいの方がいいと思う。いざという時に守れればそれでいい」

「了解」


 という訳で、俺は相澤の様子を陰から伺いながら、彼らとの接触をなるべく絶ち、成り行きを見守っていたのだ。

 

 つーか、今回はそれで助かった。何故って?


 藤奏と月島(ガキ二人)の醸し出す空気が甘ったるすぎて、そこに常に同伴する方がしんどいわ!


 一方のセイラはと言うと。


「ちょっと気になることがあるから、今回は別行動で」

「気になること?」

「うん。主人公が半芸能人みたいな感じだから、芸能界が絡んできそうな気がする。類似作品のパターン的にね。僕はそっちを探るよ」

「そうか。ま、セイラの言うことだから、間違いはないんだろう。でも、危険はないのか?」

「危険?一応この世界は、魔法とか能力みたいな設定はないからね。

 今までと比べたら圧倒的に平和だよ」


 そうなのか。でもそうなると、こちらにも今までのような能力設定はないということになるな。これまで頼りにしてきた『スキルを借り受けるスキル』も、意味がなさそうだし。


「いや、そういうわけではないよ」

「と言うと?」

「一応ユーゴ君には、一個だけスキル設定してある。ユーゴ君も知ってる奴だよ」


 どんなスキルを設定したのか、セイラの説明を聞くと、確かにこの世界では有用そうに思えた。


「あーでも、ユーゴ君と一緒に学校生活を送れないのは、ちょっと残念!」

「クラスメートって奴なら、ついこないだまでやってただろ?」

「あんな殺伐としたのは嫌!学園青春ラブコメがいい!」

「はあ」


 気のない返事をする俺だったが、セイラも本気で言ったわけではないのだろう。

 結局、彼女は『アリエス』という名義で、アイドルとして活動しつつ、そっち周りを調査することにしたようだ。


 とは言え、定期連絡の様子から見るに、随分と満喫していたようではあるが。


 この安田という男には、すぐに目星がついたらしい。


「こっちは舞台裏だから、『クリエイター』側の設定も甘かったみたいで。

 明らかに一人だけ小悪党がいて、多分そのうちストーリーに絡んでくると思う」


 とのことだった。


 その後も俺達は、『クリエイター』の目につかないようにしながら、事の動向を注意深く観察した。


 そして今日、シナリオ上で主人公二人が結ばれた直後。


 ストーリーの終わりが近いことを予見し、半ば強引に相澤と藤奏を接近させる。こうして、『ざまぁ』イベントの発生のコントロールに成功したのだ。


 ----------------


 アリエスのマネージャ―さんが話しかけてくる。


「アリエス、あなたの言っていた通りだったわ」

「ええ。白石部長、これで分かっていただけましたか?

 この安田という男は、スカウトという肩書を利用して、街の子やオーディションに来た子たちを手にかけていたようです。

 手口は毎回ほぼ同じ。ホテルに連れ込んで、催淫剤を飲ませる。事の始終を録画しておいて、バラしたら映像をばら撒くと脅す。

 うちの事務所でも何人か、過去に被害に遭ったことを告白してくれた子がいました」


 白石と呼ばれた安田の上司は、かなり混乱した様子だが、それでも、


「確かに、この様子を見るに、それが真実なのだろう。まったく、何てことをしてくれるんだ……このことが明るみに出たら、うちの事務所の信用としても大打撃だ。アリエスさん、鈴木マネージャー、どうか、このことは内密に……」


 と懇願している。


「然るべき処分が下されるなら」

「それは当然だ。私よりも上の人間が判断するだろうが、クビだろうね。会社としては、それ以上の対応は難しいかもしれないが……」

「いえ、十分です。あとは被害者の会で何とかします。とりあえず訴訟ですね」

「そ、それは、できれば解雇後にしてくれると……」


 白石部長の顔が更に真っ青になっているが、この男もむしろ被害者か……。


 これで一件落着かと思いきや、目の端に映った相澤の腕が、びくんと動いた。


「セイラ、離れろ!」


 俺の警告を聞いたセイラは、相澤の元から飛び退く。同時に相澤からは黒い靄が溢れ出した。


 ZPの残滓だ!


「ひぃっ!」

「な、どういうことだ!?」


 鈴木マネージャーと白石部長が慄いているが、こうなると一般人に構っている場合じゃない。


 靄が身体に纏わりつくと、相澤の身体が持ち上がった。いつの間にか服装も整っている。


「……どういうことだ?」


 相澤から漏れ出る声は、普段のものでなく、明らかに男のそれだ。


「おかしい……ここでこいつはスカウトに犯され、そのまま転落人生を歩むはず……こんな救援が入るなど、シナリオにはない。

 貴様ら、何をした!?」


 少女がドスの利いた濁声で怒鳴る光景は明らかに異常だったが、セイラは臆せず果敢に返答する。


「悪いけど、シナリオに介入させてもらったよ。理不尽な『ざまぁ』を阻止したくてね」

「……理不尽、だと?」


 黒い靄が勢いを増す。


「『ざまぁ』は閲覧者の望み!

 『ざまぁ』展開のある世界の方が、明らかにポイントが伸びる! 

 理不尽なのは、現実の方だろうが!

 俺は、皆が世知辛い現実の疲れを癒せるよう、気持ちいい展開を描いているだけだ。それのどこが悪い!」


 しかしそこまで叫ぶと少し冷静になったのか、『クリエイター』は改めて首を振った。


「……いや、そんなことはどうでもいい。

 それよりも対処すべきはお前たちだ。何で勝手にこの世界に乗り込んできたのかは知らないが、明らかに規約違反だろう!!

 『クリエイター』権限により、異物を排除する」


 『クリエイター』はそう言って、手元にあった灰皿を手に取り、セイラの方に殴り掛かってきた。


「やめろ!!」


 俺は急いで間に入り、『クリエイター』に操られた相澤の手を受け止める。


「……どうやら、身体能力は相澤のままらしいな」


 身体強化があると予想していたが、思っていたほどの力を感じず、これなら押し切れそうだ。


「ち、現実世界ベースの設定が裏目に出たか……もういい!!」

「な!?」


 『クリエイター』は俺の手を振り解く。


「どけ!!」

 

 腰を抜かしている大人二人を突き飛ばし、そのまま部屋の外へと出て行ってしまった。


「ユーゴ君、追いかけよう!」

「おう!」


 俺たちも慌てて、『クリエイター』の影を追うのだった。

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