(柚季視点)スカウトされちゃった
安田と名乗ったスカウトは、そこの駐車場に車を停めているらしい。その車で少し移動すると、私でも知っている名前の大きなホテルが見えてきた。
さすが芸能事務所、こんなところでパーティーなんて、レベルが違うわ。
安田さんはフロントで何やら受付を済ませている。
「パーティーは午後からだから、ちょっと休憩しつつ、簡単な面接をしよう」
彼はそう言って、ホテルの一室であろうカードキーを見せてきた。
「あの、男の人とホテルで同じ部屋に入るのは……」
「ああ、そうだよね。でも安心して、単なる仕事部屋だから」
「仕事部屋?」
「そ。このパーティーのために、三日前くらいからホテルと準備を進めてるんだけど、事務所と往復は面倒だから、仕事のために一部屋借りてんの。邪魔するものがないから、結構捗るんだぜ?
だから、とりあえず部屋を見てみて、安心できなさそうなら帰ってもらってもいい」
「そういうことなら……」
エレベーターが七階に着くと、彼に連れられ部屋の前に。
安田さんがドアにキーをかざすと、ガシャリとオートロックの外れる音がする。
「ほら、俺はここで待ってるからさ、中の様子を見てみなよ。あ、物に触るのは勘弁な」
その部屋はシングルとはいえかなり広めに設計されていた。暖房がやや強めに設定されているのか、コートでは少し暑いくらいだ。
そして確かに、壁際に設置された机にはノートPCが、窓際のテーブルには何やらファイル類が乱雑に置かれていたりと、「仕事中」という雰囲気で溢れている。
「散らかっててごめんな」
気付くと安田さんは背後に立っていた。
「あ、いえ。お仕事大変なんですね」
「ま、忙しくはあるね。
さて、とりあえずかけなよ」
ファイルが置いてある方のテーブルに添えられた椅子に腰掛けると、安田さんは冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、私の方に差し出す。そして壁際の方の椅子に座った。
「じゃ、まずは名前と年齢を聞かせてもらえるかな?」
「あ、はい。相澤柚季、十七歳です」
「へえ、じゃあ女子高生だ。僕は主に、アイドル関係のタレントのスカウトとマネジメントをしている。単刀直入に言うと、柚季ちゃん、君にはアイドルになれる素質があると思う」
「え?そうなんですかぁ?」
うふふ、何よこの人、見る目あるじゃない。
私はもらった水で喉を潤しながら、質問に応え、時にはこちらから質問したりを繰り返した。
にしても、この部屋、やっぱり暑いわね。
そうして何分かのやり取りの後。
「オッケー、大体わかりました。
じゃ、ちょっと、脱いでもらおうか」
「な、ぬ、脱ぐ?」
「だって、アイドルだよ?スタイルの良さも重要だし、水着グラビアとか写真集とか、そういう仕事も受けられるか、確認していかないと。南の島で撮った写真集、とか、出せた方が絶対人気が出るのは、分かるよね?」
……確かに、それはそうかも。
「でも、最近少し太っちゃって……」
「まあ、少しくらいなら、デビューまでで整えてくれればいいから。エステとかも用意するし、そこは心配しないで。でもそのためにも、なおさら現状を確認さえてもらう必要はあるかな。
とりあえず、下着一歩手前くらいまでで大丈夫だから。あ、僕はあっち向いとくよ」
安田さんはそう言って、壁の方に目を向けた。
芸能界に入るなら、これくらいで泣き事言ってたらいけない。
そう思って、私は、上着とインナーを脱いで、上はキャミソールに。下はストッキングを脱いだ。スカートまで脱ぐのはさすがに気が引ける。
「あの、これでいいですか?」
安田さんはこっちを振り向くと、
「おお、いいじゃん!」
「ごめん、キャミを上げて、ウエストを確認させてくれない?」
「は、はい……」
私はお腹が見えるようにキャミの裾を上げる。ちょっと恥ずかしい……。
「全然太ってないじゃん!ってか、スタイルいいね!ちょっとポーズ取ってくれる?」
「ポーズって、どんなのですか?」
「ええと、例えば……ちょっと失礼」
「キャッ」
安田さんは私の手を取り、ポージングをいくつか示した。
「こ、こうですか?」
「そうそう。いいねえ、雑誌のグラビア当たりならすぐいけそうだよ」
「あとは……」
「んっ!!」
安田さんの手が、今度は私の胸を鷲掴みにした。
「うん、バストの大きさも申し分なし。これは人気出るぞ」
そう言いながらも、安田さんは手を放さず、胸を揉んでくる……。
「ん、あの、手を放して……」
「いや、ちょっと張ってるみたいだし、マッサージしとこう。こういうケアも、これから大事になってくるから」
ん、あの、何だか変な気分に……。
「……あれ?柚季ちゃん、ちょっと感じちゃってない?」
いや、そんなこと、あるわけ……。
そう思いながらも確かに、何だか熱いものが身体の奥から溢れている感覚が止まらなかった。
「ちょっと、ベッドに横になろうか」
「え、あの、そんな……」
そんな、嫌なのに、身体が言うことを聞かない。それにしても、熱い!!
「ここはどうかな?」
「くぅッ!!!」
安田さんは唐突に、その手で私の大事なところを擦る。刺激が強くて、思わず声が漏れ出てしまった。
「うわ、凄いことになってるね」
何で、何で?
私は混乱しながらも、身体の疼きが止まらなくて見悶える。
「ちょっと、面接中断。どうにかしてあげる」
そ、そんな、私、これからアイドルとして、華々しいデビューを……。
しかし私の面前にあるのは、獣と化した男性の顔だった。
そこへ、
「……そこまでよ!!!」
ドアが乱暴に蹴り飛ばされ、部屋に侵入してくる人影が。
一人はよく知る男子、もう一人は、別の意味で知っている女子。残り二人は知らない男女だった。
「亜久津!」
私は思わず知り合いの名前を叫ぶ。
一方の安田さんも、驚愕した目で乱入者を眺めていた。
「な、白石部長と……アリエス!?」
そこにいたのは、今やテレビでその顔を見ない日はないトップアイドル、アリエスだった。
彼女が叫ぶ。
「死ね、この女の敵!ユーゴ君、やっちゃって!!」
「おう!」と短く応じる亜久津。
彼は、安田さんに向かって思いっきりドロップキックをかました。




