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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース4/藤奏 調・月島 美音・相澤 柚季の関係
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意外な来訪者

 いつまでも一緒にいたいけれど、彼女は病人だ。さすがに長居はできない。


 お互いに後ろ髪を引かれる思いをしながら、僕は彼女の家を後にした。


 初めて、恋人として二人、触れ合った感触。

 それは僕の中に鮮明に焼き付いてしまい、しばらく忘れられそうにない。

 

 自宅近くの駅の改札をくぐる。正直、どうやってここまで来たのかすら、あんまり覚えていない。


 しかし、そんな夢心地な気分も、そこにいる意外な人物によって現実に呼び戻されることになる。


「よ、藤奏」

「亜久津君?」


 何だか今日はよく会うな。


「待ってたぜ」

「え、待ってた?どういうこと?」


 正直亜久津君とはほとんど話したことないし、ここが僕んちの最寄り駅だってこと、どうして知ってるんだろう?


「まあ、色々気になることはあると思うけどよ。ひとまず、ついてきてくれ」

「分かった……」


 何だか亜久津君の言葉には逆らえなくて、僕は大人しく彼の後を追う。

 つかつかと歩く亜久津君、その方向は僕の自宅に向かっている。普通の住宅街で、道もやや入り組んでいるのだけれど、彼の歩みには全く迷いがなさそうだ。


 向こうの方に公園が見える。

 そういえば小さい頃は、柚季とあそこでよく遊んだっけ。


 果たして彼の目的地はその公園だったようで、入り口まで辿り着くと、奥の方を指し示した。


「悪いけど、あいつが話したいことがあるんだと。聞くだけ聞いてやってくれよ」


 ベンチに腰かけていたのは、


「柚季……」


 僕の幼馴染だった。


 さすがに無視することもできず、僕は彼女へと近づいていく。柚季も僕の姿を見て取ると立ち上がった。


「調……悪いわね、こんな呼び出し方して」

「いや、それはいいんだけど……」


 どうしても、語尾が尻すぼみになってしまう。しかしそんな僕の様子を他所に、彼女は公園をぐるりと見渡した。


「懐かしいわね、ここ。昔はよく遊んだっけ」

「うん、確かにね。大体、柚季に引っ張りまわされていたような気がするけど」

「そ、それは言わないで」

「あはは」


 うん、確かに、あの時代は楽しかった。

 僕が少し笑ってしまうと、柚季は安心したような表情を見せる。


「調……付き合って、とは言わない。

 もう一度、あの頃に戻れないかしら?」

「……それは大丈夫だよ」


 否定するようなことではないだろう。


「でも、一つ、言っておかなきゃいけないことがある」

「何?」

「美音――月島美音さんと、付き合うことになった……僕から告白して」

「……そうなの。彼女、芸能界デビューするんだって?」


 うわあ、やっぱり噂に尾びれがついてしまっている。


「いや、それは根も葉もない噂だよ。彼女にそんな気はない」

「そう。それは良いわ。でも私も、諦めるつもりはないから」

「え?」

「絶対にあなたを振り向かせる」


 ええと、それはもう困るんだけど……。いや、こういうことはきっと、はっきり言わないといけないんだろう。


「ごめん、柚季。僕は、一番大切な人を裏切りたくない。君がどれほどアプローチしてきても、きっと僕の気持ちが揺らぐことはないし、できればすっぱりと諦めてほしい」

「……嫌よ」

「柚季!」


 思わず声を荒げてしまう。つられて、向こうも声を張り上げた。


「身勝手だとしても!

 私にだって、意地が、プライドがある!見てなさい、今あなたが言ったこと、絶対に後悔させてやるんだから!」


 そう叫んで柚季は、公園の出口へと去っていった。

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