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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース4/藤奏 調・月島 美音・相澤 柚季の関係
47/63

(柚季視点)変化は時に不可逆

 やっぱり、メロ様の正体は、調――。


 帰宅後、私はすぐに自分の部屋まで入ると、ベッドに倒れ込んだ。


 もはや確信へと変わったその事実が、私と調との日々を思い出させる。


 あいつと知り合ったのは小学校一年生のとき。活動の班分けがたまたま一緒になったのがきっかけだった。

 クラスの男子がバカ騒ぎする中、調は割と落ち着いていた方で、何だか大人びて見えたのよね。

 私は勉強が苦手で、周りの子もそんな感じだったから、宿題とか、よくあいつに教えてもらってたっけ。あいつはすごく頭がいいというわけじゃないけど、真面目だからコツコツ勉強して、宿題も真っ先に終わらせてたから。


 家が近いこともあって、私と調は一緒に登下校することも多くなった。その時は恋愛など知らない年頃で、友達というよりも、何だか自分の子分ができたような気分だった気がする。


 偶然だけど、クラスもほとんど一緒で。

 小四で一度だけクラスが離れたときは、私の方が泣きそうだった……誤魔化したけど。


 そんな関係が変わり始めたのは、小六のときくらいだろうか。


 お姉ちゃんの影響もあって、私は同級生の中でもお洒落のセンスがあったと思う。

 男子も女子も、一部の子は恋愛に興味が出てきて。今思えばそれも幼稚だったけど。

 「◯◯君が好き」「〜〜君カッコいい」なんて話は女子の定番だった。

 私も、クラスで人気の男子が気になり出す。同時に、彼らと比べて、調の地味さがダサいと感じるようになってきた。


 そして中学校に入学。

 私も皆も、周りの目線や自分の立ち位置を気にし始めるようになる。調と関わることを、更にためらうようになった。

 私はお洒落も努力して、カースト上位をキープしてたけど、奴は相変わらず、地味グループの冴えない男子だったから。


 志望校が同じだったことも合格後に知ったくらい、中学では興味も関わりも薄れていた。



「……私、バカだ」


 メロ様は数年前から活動しているから、多分、調は中学で音楽に没頭したのだろう。

 その頃から、私も何度、彼の楽曲に励まされたことか。


 そんなメロ様からの告白を、私は断ってしまった。

 それも、あんな態度で。


 謝ろう。そして、もう一度考えてほしいって、あいつに伝えるんだ。


 私はそう決意して、明日を待った。


 ----------------


 翌日、放課後。

 私は改めて調を呼び出した。この前と同じ、屋上だ。もうすぐで十二月に差しかかるこの時期は、日に日に寒さが増していて、特に今日なんて少し風が強い。だべるには少し辛い気候だけれど、その分、生徒の数も少なめ。話をするには、悪くない感じ。


「……わざわざ悪いわね」

「いいよ。でも、珍しいね」

「な、何が?」

「いや、そんな風に柚季が謝ってくるなんて」

「な、何よ、悪い?」

「いや、そんなことないよ。ええと、また話があるって?」

「そ、そうなの。実は、あれから改めて考えたんだけど……」


 ……どうしよう、次の言葉が出ない。


 告白を断ったことを、撤回したい。ごめんなさい。


 それだけのことなのに、そして目の前にいるのは憧れのメロ様なのに。

 長年の関係性が邪魔するのだろうか。


 どうしてこんな奴に、そこまでしないと――そんな気持ちを拭えない自分がいた。


「……改めて?」


 痺れを切らしたのか、調が先を促す。


「……いいって、言ってんの」

「え?」

「だから、付き合ってもいいって、言ってんの!!」

「ちょ、柚季、声が大きい」


 う、まずいまずい。


「この前、あんたの告白の後、よく考えたんだけど。

 あの時は正直、ただの幼馴染としてしか見れてなかったけど、その、気持ちを知ってからは、こっちも意識して、って言うか……」


 実はメロ様だということを知ったから、というのが本音だけど、それはさすがに調も納得しないと思い、伏せておく。

 私は今まで培ってきたテクで、精いっぱいいじらしく、か弱い乙女であることを前面に出す。男は結局、こういうのに弱いのよ。


 しかし調の方はというと、何故だかとても悲しそうな眼で、こっちを見るだけだった。


「……何で、何も言わないの?」

「……ごめん。自分から告白しておいて、不誠実だとは思う。

 でも僕、柚季とは付き合えない。君のこと、好きだった(・・・)のは、本当だよ。

 けれど今、こうして君の方から気持ちを伝えてくれても、正直、心が弾まないんだ。そんな状態で付き合っても、お互い苦しいだけだと思う。だから……ごめん」


 頭を下げる調。

 


 ……何よ。調のくせに。

 この私が付き合ってあげると言ってるのに、断ろうというの?


 私はいてもたってもいられなくて、スマホのメモ帳アプリを開いた。速攻で入力して、まだ頭を下げている調にも見えるよう、スマホの画面を下から差し出す。


『○○駅の近くのマンションで見た。調が、メロ様なんでしょ?』


 今度は驚いた顔で、こちらを見る調。あちらもスマホを取り出し、何やら入力している。


『そんなことないよ。気のせいだよ』


 はあ?

 私は確かに聞いた、あの人が『メロ』と発言していたのを。

 ここまで来て、まだしらばっくれるの?


『ウソ。私、聞いたから。調が『メロ』って呼ばれてるの。ファンナイの新曲の話も。あんたが自分で作ったって返事してた』


 あちらの入力を待つ時間がもどかしい。


『……ごめん。ファンナイのファンなら、察してほしい。僕から何かを告げることはできないよ』


 ……そう。そういうことなのね。

 つまり調の中では、私は秘密を共有するに値しない人間、ってことだ。


「もういい!!帰る!!」


 涙が止まらない。


 何で。何で。何で。


 私は化粧が崩れるのを見られるのが嫌で、その場を走り去った。


 振り返ることもできないから、調が今どんな顔をしているのか、私には分からなかった。


----------------------


 屋上と校舎を繋ぐドアを開け、階段を駆け下りて、最上階である四階に差しかかった時。


「キャッ!!」

「うおっ、あぶねえ!!」


 廊下へと続く角で、誰かにぶつかってしまった。

 勢いでお互い尻餅をつく。


「おいおい、廊下は走るなって、この世界のお決まりルールだろ……って、相澤?」

「亜久津……」


 私は顔を上げて、相手が転校生の亜久津悠悟であることを確認したけれど、自分がひどい顔をしていることを思い出し、すぐに俯く。

 しかし、遅かったようだ。


「……とりあえず、これ」


 亜久津が差し出してきたのは、ハンカチとティッシュだった。

 何よ、意外と紳士じゃない。


「……ありがと」


 大人しく受け取っておく。


「落ち着くまで、そこ、入っとくか?」


 亜久津が示したのは、今は使われていない空き教室だ。


「……そうする」


 今はあまり、人に会いたくない。私は亜久津の提案に乗ることにした。


 教室に入ると、廊下側の真ん中、外からは一番死角になる椅子に腰かける。


「じゃ、俺はこれで……」


 退室しようとする亜久津に、何故だか私は問いかけていた。


「何も聞かないの?」

「まあ、言いたくないことは誰だってあるし、俺、お前のことよく知らないし。

 逆に、知らない奴の方が話しやすいってことも、あるけどな」


 そう答える亜久津は、何だか高校生というよりも、もっと大人の存在に見えた。


「知らない人の方が話しやすい、か。そういうものかもね。

 さっき、フラれちゃったんだ。高校生には、よくある話」

「フラれたというと、橋本健人にか?」

「ううん、別の人。健人君、付き合ってみると結構酷くてさ。

 前に告白してくれた男子に、その時は断ったんだけど、改めて話しかけてみた。でも、もうダメだ、って。

 冷静に考えると、当たり前か。でも予想以上に、彼の心がこっちにないことが分かって、ショックだったんだ」

「ええと待て、この国って、一夫一妻制だよな?」

「ぷっ、何それ、あんた外国人?」

「まあそれは置いといて、順番がおかしくないか?橋本健人とは別れたのか?」

「いや、まだだけど……」

「二股じゃねえか」

「さっきオッケーもらえてたら、健人とは別れるつもりだったの!」

「いやいや、おかしいって。そんな不誠実な女と、誰が付き合おうと思うよ」


 ……そうか。確かに、亜久津の言う通りだ。

 今まで何でそんなことに気付けなかったのか不思議だったけど、亜久津の言葉は、何故かすとんと私の胸に降りてきた。


「うん、あんたの言う通りだわ。ありがと」


 私は早速スマホを開き、アプリから健人君にメッセージを送る。


『健人君、私たち、やっぱり合わないと思う。別れよ。バイト頑張ってね』


 これでよし!

 あとはメッセージと電話を着拒すれば、オッケー!!


「うん、今別れた。まずはこれで潔白ってわけね」

「うわー……」


 何、何か引かれてる気がするけど、どうしたんだろう。


「まだ全然ダメか。『クリエイター』の力が強いな、やっぱり」

「え?クリエイター?何それ?」

「や、何でもない。こっちの話」

「変なの?」


 私は首を傾げるも、明日からどうやって調にアタックしようか、考え始めるのだった。

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