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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース4/藤奏 調・月島 美音・相澤 柚季の関係
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メロ②

 音楽室の前では、一人の男子生徒が何やら携帯電話で話している。亜久津君だ……何だか最近よく遭遇するな。


「ああ、こっちは問題ない。主人公は順調にストーリー消化中。セイラは?……何、楽しい?そりゃ良かった。おお、こっちは教えてくれた通りに進めるさ。それで--」


 何だろう、ゲームの話?意外とゲーマーなのだろうか。とは言え、他人の電話を盗み聞くのもマナー的にどうかと思うし、音楽室に入ろうか。


「お、来たね」


 月島さんは先に到着していた。音楽室内の一席に腰掛け、何やら聴いていたのだろうが、僕が入室したのを認めると、イヤホンを外して立ち上がる。


「やあ、月島さん。昼休みはごめん」

「ホントだよ!ま、来てくれたから許す」

「ありがと。ええと、それで、何の用?」


 僕が尋ねると、それには答えず、ツカツカと窓際に歩いていく月島さん。茶色い髪がサラサラと揺れる。そう言えば、今日はポニーテールじゃないんだな。後ろ姿も様になっていて、スタイルなんて、それこそアリエスにも引けを取らないのではなかろうか。他クラスにまで人気があるのも頷けるよ。


「あれはそう、先週末、金曜日の放課後。学校を出た私の元に、ヒラヒラと何かが舞い落ちたのでした……」


 えーと、何だか芝居が始まったぞ?


「何気なく手に取ったそれを見ると、そこには二次元コードと、『聞いてほしい曲がある』というコメント。そこから察するに、おそらく二次元コードからインターネットにアクセスした先に、何か曲がアップロードされているのでしょう。

 ああ、気になる!

 でも、悪質なイタズラかもしれない。アクセスした途端、ウイルス的な奴に感染しちゃう可能性もゼロじゃない。いかがわしいサイトかもしれないし……そんな不安が頭をよぎるものの、私は秒でスマホをかざしたのでした」


 不安短いよー!もっと悩んで!

 つーか、危険だと思うサイトにはアクセスしちゃダメ、絶対!


 いや、その二次元コードを作ったのは僕だから、危険とかはないんだけど、それでもさあ。


「スマホはすぐにサイトへと繋がりました。表示された画面は、見慣れたWeTube。私はとりあえず胸を撫で下ろしました。どうやらプライベートアカウントのようです。動画タイトルは『Citrus Season』。おそらく曲名でしょうが、それはフェイクで、やっぱりいかがわしい動画な可能性もゼロじゃない……。

 私は少しのきたい……ゲフンゲフン、疑いは捨て置かず、再生ボタンをタップしました。

 すると、何ということでしょう!」


 えーと、ツッコミどころが多いな……今のも某リフォーム番組のアレ風だし。


「そこから流れてきたのは、美しいヴィオラの旋律。それはさながら冬の木枯らしのような切なさでした。少し長めのソロから、ベース、ドラムとリズム隊が加わり、打ち込みのストリングス……今時珍しい長いイントロ。

 私は思わず……停止ボタンを押しました」


 ええ!?

 やっぱりイントロ長すぎるのか……。

 気合を入れて作っただけに、こうも評判が悪いと流石にショックだ。


「今月既にギガがヤバいので、Wi-Fiスポットに移動するためです」


 そっちかーい!!


「駅前のハンバーガーショップに移動すると、私は改めてイヤホンを身につけます。もう一度頭から……最初のヴィオラソロこそポップスとしては斬新ですが、加わってくるバンドサウンドと打ち込み音、それはまさしくファンナイのサウンド!

 けれど歌はボカロでした。

 にわかファンならここで曲をストップするかもしれませんが、何を隠そう、私はファンナイデビュー前からのメロ様ファン!

 そんな私の耳は、誤魔化せません。

 これはソロ活動時代のメロ様を彷彿とさせる!でも、少なくとも私の知識にはない曲でした。

 一曲通しで視聴した後、しばし放心状態にあった私。正気を取り戻すと、すぐに『Citrus Season メロ』で検索。しかし、目当てのものは見つからず。

 改めて聴いてみると、アレンジの雰囲気は、ソロ時代というより、むしろ最近のファンナイに近い……だから私はこう考えました。


 この曲は、ファンナイの未発表曲のデモ版!!」


 ……あれ、何だろう、耳が熱いゾ?


「私は興奮冷めやまぬ間に帰宅し、その夜はこのビッグニュースをおかずに、ご飯三杯いっちゃいました」


 あ、見た目によらずよく食べるんですね。


「育ち盛りなもので。

 そこから、またメロ熱が燃え上がった私は、ボロディン、ファンナイ、メロソロ時代、例のデモ版をエンドレスリピート。

 明石さんからお願いされたカルテット練習へと顔を出しました。

 すると、何ということでしょう!」


 またかい!


「そこで出会った少年が、デモ版のイントロを奏でるではありませんか。しかもヴァイオリンめっちゃ上手だし!!それに加えて、アップの時にやったフレーズ、あれもファンナイだったよね!?どういうこと!?」


 ちょ、興奮しすぎ、芝居はどこ行ったんだ、素に戻ってるよ!!


「……疑惑の少年に逃げられた後、私は日曜一日考えました。気になって気になって、ご飯は一杯しか喉を通らず、夜も寝られそうにない気分でした……結局寝たんだけど」


 えと、健康なのはいいことだよね。


「そして考え抜いた結果、一つの結論に辿り着きました。明らかにファンナイの未発表曲と思われる曲を知っていたこと。ヴァイオリンの音色がメロ様そっくりなこと。

 そして極め付けは、君の名前!」


 そこで月島さんは、ずずいと顏を近づけてくる。ホントに綺麗な顔立ちだ……。ああもう、恥ずかしさと照れ臭さで、全身が真っ赤になってる気がするよ。


調(しらべ)ーーつまりメロディ、メロ。

 メロというハンドルネームは、自分の本名からとったもの!!

 藤奏調君、君、もしかして本物のメロ!?」


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