二年C組のこれから
「ただいまー」
何もない空間に向かって、セイラが告げた。
「ただいま……なのか?」
「まあ、一応、ね?」
そう、ZPの残滓を回収した俺たち二人は、影野達の願いを叶え、セイラの創り出した空間に戻ってきたのだ。
「いやー、今回も大活躍だったね、ユーゴ君!!」
「まあ何とか、って感じだけどな。あー……何か、急にどっと疲れが……」
俺はその場に座り込む。身体は何ともないのだが、どうにもシャキッとしない。
「『分身』の後遺症かなあ?今までアビリティの力で同時並列思考してたのが、急になくなったから。情報量に頭が追い付いてないのかも……この空間だから、実際には疲れてないんだけど、疲れた気になっちゃってるんだと思う。ごめんね。すぐに治ると思うから」
「そうか……」
返事もするのも億劫になり、俺は大の字の形で仰向けに寝転んだ。
「……あいつら、大丈夫かな」
セイラが前髪を抑えながら、俺の顔を覗き込む。
「大丈夫だと思ったから、戻ってきたんでしょ?」
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俺の「召喚自体をなかったことにする」提案を、影野は制止した。
「亜久津君、それをすると、この世界であったことそのものがなくなっちゃうよね」
「ああ、そうだな」
「つまり、俺たちは元の世界で、普通の高校生として暮らす」
「そういうことになる」
「個人的な意見で申し訳ないけど、それはちょっと嫌なんだ」
なるほど……確かに影野達にとっては、元の生活に戻ったら、性格も元のままだろうしな。
「みんな、相談がある」
クラスメイト達に向かって声をかける影野。
「亜久津君が持っている『現象否定』で『なかったことにする』事象。
それを、『被召喚者が帰る術はないということ』にしてもらえないだろうか?」
そうきたか。
クラスメイト達の方はというと、大半は困惑した様子だ。
まあ、リスクなしで帰れる方法を否定されているわけだしな。
影野は続ける。
「ごめん、これは俺の我儘だ。別にこの世界に残りたいわけじゃない。
ただ、せっかく自分の考えが変わって、見える世界も変わったのに、それが無くなっちゃうのが嫌だ。
もちろん、俺は帰還の手段を探すことに全力を尽くす。
いや、王国の洗脳が解けた今、俺たちはチート集団だ。みんなで力を合わせれば、絶対に帰れるはずだ。だって、帰還手段の存在が保証されるんだから。
それに――」
影野は眠る松本をチラッと見た。
「松本とも、もっとうまくやっていけるかも。
でも、時間がないみたいだし、多数決で決めてくれ。俺はそれに従うよ」
だがそこで、意外な生徒が手を挙げた。
「待って」
「佐々木……」
「みんな、これは私の意見。私たち、影野君たちにひどいことしたじゃない?
その罪滅ぼしじゃないけど、ここは影野君に従いたい。
それに帰還手段の探索についても、強制じゃないから。やりたくない人はガンディビル王国に待機ってことも考えられるわ。
……私からは、それだけ」
しかし何人かの生徒が手を挙げた。
「俺は佐々木に賛成」
「私も」
「僕もです」
その数、十人ほど。
だが、そろそろタイムリミットだ。この場を締めなければならない。
「すまない、時間がない!
影野に賛成の奴は挙手してくれ。それが過半数を超えるのなら、『帰還手段がない』という事実をなかったことにする。過半数に満たなければ、『召喚そのもの』をなかったことにする。
あと五秒だ!
五、四、三……」
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俺はセイラから少し目を逸らした。
「どうだろうな。あとは、あいつら次第だ」
俺は多数決に従った後、正直に、俺とセイラは別世界の人間であることを告げた。
意外にも、影野達四人に、それほど驚いた様子はなかった。
――何だかむしろ、納得しちゃったかも。
――うん、亜久津君、意外と常識知らずだったし。
――お、おかげで、僕らは、逆に助かったけど……。
――生きる世界は違っても、拙者達の友情に変わりはないでござるよ!
そういう訳で、あの世界の住人たちとの別れは、今回はさっぱりしたものだったな。
「彼らの物語は続く、だね。
それにしてもユーゴ君、今回の『クリエイター』とのバトル、また結構熱くなってたね」
「……そうか?」
「そうだよ!
生徒一人一人に声かけちゃったりしてさ。ちょっと意外な一面を見ちゃった気分」
「あー……」
俺は頭をポリポリと掻く。
「何となく、あのドラマって奴に充てられたかもな」
「ああ」
セイラがポンと手を打った。
「確かに、銀六先生っぽかった!」
「うるせー」
「あはは」
笑いながら、セイラが俺の隣に寝っ転がる。
「ちょうどよかったかも」
「何が?」
「次の世界のこと」
「あ、もう決まってるのか?」
「うん。次は、ボクたち『クリエイター』の世界をベースにしたところ。
剣も魔法もない、ある高校が舞台なんだ」
「『銀六先生』みたいな?」
「うん。学生の恋愛がテーマ、かな?ラブコメって言うんだけど」
「そりゃまた、随分と平和そうだな」
「ま、これまで殺伐としてたからさ」
「でも、そんなんで『ざまぁ』が発生するのか?」
「まあね……でも、今はちょっと休んでて?
起きたら、また説明するから」
「そうだな、ちょっと寝かせてくれ……」
意識が遠ざかっていく……目覚めたらまた、次の世界へ旅立ちだ。
そう思いながら、俺は眠りに落ちていった。
「ユーゴ君……」
完全に寝付いてしまった俺の顔を、セイラがそっと撫でる。
「次が最後の旅だよ」
その呟きが俺に届くことはない。
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【新着】不具合報告
◆報告者:椎野陽司様
◆作品名:『クラス転移で追放された陰キャ、最強能力『現象否定』で世界そのものを否定してやる!』
◆報告内容:何者かに作品を乗っ取られた。至急対応を望む。
【ケース3「クラス転移:松本拓真(陽キャ)と影野深夜(陰キャ)の場合」完】
ケース3終了です!
本当に、長いこと休んでしまって申し訳ございませんでした。
全くもってそろそろ鬱陶しいと思われる方もいらっしゃるでしょうが、この区切りで再度お知らせです。まだの方は、下の☆からの評価や「ブックマークに追加」などいただけると嬉しいです!
……このコメント、少しは効果があるのかなと思っている次第です。
次章予告!
ケース4「藤奏 調/月島 美音/相澤 柚季の関係」




