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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース3/クラス転移:松本拓真(陽キャ)と影野深夜(陰キャ)の場合
37/63

圧倒的

 放心した表情で、すとんと腰を落とす松本。

 そのままブツブツと呟いている。


「おかしい、おかしい、おかしい、おかしい……」


 ……心が折れたか。

 しかしここで安心してはならない。これまでのパターンからして――。


 松本の足元から、沸々と沸き上がるように黒い靄が発生している。

 

「拓真、どうしたの!?」

「よせ、近づくな!!」


 佐々木が松本に駆け寄ろうとするのを、俺は間髪入れずに制止した。


「セイラ!」

「ほいさー!」


 セイラは俺の呼びかけに応え、華麗にジャンプ。皆の頭上をひらりと舞い上がって一回転、俺の隣へと着地した……その動き、いる?


「星月さん!?」

「にゃっはー」


 驚きの声を上げた佐々木に、セイラはピースサインで応じる。


「『クリエイター』だな!?」

「うん、ZPの残滓。ここが踏ん張りどころ!!」

「よっしゃ!!」


 この展開は想定の範囲内。一つ、試したいことがあった。


「みんな、下がれ!

 松本は誰かに操られている。あの黒い靄がその証拠だ!

 このまま放置すると危険だ。おそらく俺たちに無作為に襲い掛かってくるだろう。

 俺はそれを止めたい、だが俺だけでは正直厳しいんだ。

 だから、みんなの『アビリティ』を俺に貸してくれ!!

 『亜久津に自分のアビリティを貸す』って念じてくれるだけでいい!頼む!!」


 いきなり馬鹿正直にぶちまけて、被召喚者達のアビリティを全て借り受ける。

 作戦と言えるほどのものでもないが、それができれば一番強力だ。


「熱い展開!!拙者は信じるでござるよ、そう決めてた故!!

 亜久津殿、拙者の『瞬間移動』、受け取るでござる!!」

「サンキュー、森!!

 ある意味お前が一番凄い奴なんだぞ。クラスに伝わるといいんだけどな。『瞬間移動』!」


 俺は自身に向かって飛んできていた斬撃を、瞬間移動でテーブルに受け流した。


「あ、外した……君、誰?俺の設定したクラスメイトじゃないね」


 あっちの準備も整ってしまったようだ。

 ……お、奴が俺の右側に一瞬で移動して斬りつけてくる未来が見える。これは『天の声』か。


「『超超剣技・縮地閃塵(しゅくちせんじん)』」


 瞬間移動で背後に移動、剣を縦に振り下ろす。

 しかし奴は振り返りもせずに背後に剣を携え、俺の攻撃を難なく受け止めた。


「二階堂もサンキュー、助かった!

 お前は誰より辛い経験をした分、人の痛みを知っているよな。だから、お前の精神(こころ)は強い!どもり癖なんて気にすんな!!」


 ってあれ?松本がいない。


「『超超剣技・螺旋流星(らせんりゅうせい)』」


 あ、いた。超高速で弧を描きながら、だんだん俺に近づいているのか。『千里感知』のレーダーにガンガン引っかかるわ。

 奴が俺に接触するタイミングで、俺は左側に振り向きながら、得物の刃を奴の軌道上に添える。

 しかしその勢いとパワーに耐え切れず、俺は後方へ吹き飛ばされてしまった。


「だあっ、ステータス差かよ!!

 菅原、お前、自分のこと性格悪いって思ってるだろう?

 けどな、そう思えるってことは、悪い自分を見ている別の自分がいるんだよ。お前の仲間はそれが分かってるから、自信を持て!」


「……俺を無視してお喋りなんて、随分余裕だね」


 そう言いながら松本が横薙ぎに振るった剣を、俺は背後に瞬間移動して避ける。

 しかし、


「『超超剣技・月面離着』」


 奴は振るった剣を逆手に持ち替えて、そのまま背後に剣を一太刀。


「ぐっ……」


 左の太ももを斬られてしまった。

 だが俺は、『現象否定』でその傷をなかったことにする。


「影野!この学校とかクラスとかって奴は、なかなか変だよな。一緒にいたのは短い間だったが、別にお前ら、普通の生徒じゃねえか。陰キャとか陽キャとか言うの、俺も止めるわ。悪かったな!」


 そう言う間も奴は目まぐるしく動き、俺は適宜避けるか受け流すかで凌いでいくが……攻撃に転じる余裕がない。

 原因は分かっている、ステータス差だ。しかし、


「もう、亜久津、私の『アビリティ』も貸すわ!

 『オールバフ』をかけまくりなさい!!」

「私もです!」

「俺もだ!」


 佐々木が叫ぶと、橘、花田も追随してくる。


「拓真のこと、助けてあげてね!!」

「任せろ、そのために俺はいる!!」


 来た来た!

 脳裏に『唯一賢者』『偉大魔法師』『慈愛と友愛の癒し手』の詳細が流れてくる。


「『オールバフ』!!」


 『唯一賢者』のアビリティにより使える魔法だ。「魔法力」以外のステータスが1段階弱上昇、しかしこれでは足りない。

 俺は『オールバフ』を二重、三重にかけようとするが、


「ユーゴ君、ちょっと来て!!」


 セイラに止められた。

 おっと、どうした、いきなり。


「『分身』!」


 ひとまず分身を十体ほど用意して、松本の相手をさせる。その隙に瞬間移動でセイラの元へ。


「ユーゴ君、魔法力量に注意して。あの子たちのアビリティの魔法力消費は半端ないと思うから」


 確かにそうか……分身達はアビリティを使い過ぎないように注意させておこう。


「そんなときにセイラさんの出番、『魔法力増強』!」

「そういや、魔法力を一.五倍だったな。助かる!」

「×10!」


 はい?……あ、何だこれ、魔法力が圧倒的に増えたのが分かる!!


「十回分かけといたから、いつもの六十倍くらいに増えてるはずだよ」

「そのアビリティ、回数制限ないのかよ!」

「一見弱そうな能力を最強に仕立て上げるのは、『クリエイター』の常套手段だからね」


 うしし、とピースサインをするセイラ。

 全く最高だぜ、俺の女神様は!!


「っしゃあ、一気にケリをつける!!」


 松本によって、ちょうど、分身達が全員消えたところだ。


 『オールバフ』をかけまくってステータスを増強、『瞬間移動』で奴の背後に移動し、斬りつけると同時に『現象否定』!


「ギャア!!!い、いたい、痛い!!」


 反応すらできなかった攻撃にのたうち回る松本、いや『クリエイター』。


「な、何だ、アビリティが出ない!?」

「『現象否定』でお前のアビリティそのものを消し去ったからな」

「ち、ちくしょう!!」


 全く、この『現象否定』は強すぎる。

 やろうと思えばこいつの存在そのものを否定することもできたのだが、そうするとZPも消え去りそうだからな。


「さあ、まだやるか?ステータスもアビリティも圧倒的に不利だと思うがよ」

「……何でだよう、何でこうなるんだよう」


 あ、遂に泣き出した。


「陽キャなんて、こっちをバカにしてるし、上から目線だし、基本うるさいし……そんな奴らから逃れられる世界を創ったのに、何でここでも出しゃばってくるんだよう」

「だからさ、影野も言ってたように、陽とか陰とか決める方がアホらしいんじゃね?

 お前にはお前の現実があるんだろうけどさ。

 こんなとこで自分が嫌いな奴に『ざまぁ』しようとしてる奴は、『暗い』って言われても仕方ないぞ」

「うう……」


 セイラがつかつかと歩いてきて、瓶を取り出す。


「ZPの残滓、回収するよ」


 松本から靄が消えると、奴はそのまま気を失った。

 さて、あと少しで制限時間が終わり、借りたアビリティが返却されてしまう。


「みんな、聞いてくれ!」


 俺はクラスメイト達に声をかけた。


「俺は今、膨大な魔法力を所有している!

 今なら、『召喚そのもの』を『なかったこと』にできるが、どうする!?」


 クラスメイトの顔色が変わる。

 しかし影野が声を上げた。


「亜久津君、待ってくれ!」

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