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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース3/クラス転移:松本拓真(陽キャ)と影野深夜(陰キャ)の場合
36/63

影野の決心、松本への『ざまぁ』

「なあ、お前ら。王国が松本達に何かしようとしているとしたら、お前ら、どうするんだ?」


 ガンディビル王国にて、菅原の『千里察知』により、今回の侵攻計画を知った時。

 俺は影野達にそう尋ねた。


 影野、菅原、森、二階堂。

 四人の誰もが、即答することはなかった。


 そりゃそうだ、奴らは悪意を以て影野達を追放に追いやったんだからな。

 結果として何とかなってはいるが、あの時点では、影野達には明るい未来を想像できなかっただろう。

 そんな奴らが危機に陥っているが、それについてどう対処するのか。


 ぶっちゃけて言うと俺は、むしろ松本達の方を救わなければならない。

 おそらく、近々奴らには『ざまぁ』と呼べる出来事が襲い掛かるだろう。可能性が高いのは、ヒューマランド王国側からの掌返し。

 その時に影野達はどう動くのか。

 俺にはそれを知っておく必要があった。


 最初に口火を切ったのは、やはりと言うか森だ。


「拙者は、助けたいでござるよ。やっぱりクラスメイトだし、アニメの主人公ならきっとそうするでござる」


 菅原がそれに反応する。


「僕は反対。はっきり言って、彼らは僕らをいったん見捨てたんだ。クラスメイトって言うけど、今まで決していい態度を取ってくれてたわけでもないし。身の危険を冒してまで、助けに行く義理があるのかな」


 いきなり意見が対立。やや間があって、おずおずと手を挙げたのが、二階堂だった。


「ぼ、ぼくは、今の気持ちで言えば、助けたい、かな」


 しかし彼は、そう言ったまま縮こまってしまう。菅原がポツンと述べる。


「二階堂がそう言うのは、意外だな」

「そ、それは、僕が昔虐められてたから?」

「うん……あんまり触れられたくないだろうけど」

「わ、分かるよ。でも、松本君たちに虐められてたわけじゃないし。

 今はもう、危険が迫っていることを、知っちゃったから。知っていて見て見ぬふりをするのは、加害者と同罪だよ……」

「お前が言うと、重いよな……」


 俯く菅原。二階堂が続ける。


「で、でも、正直、影野君がどうしたいかだと思うんだ。

 だって四人の中で、どうにかできる力を持っているのは、影野君だけだから。僕らはサポートはできるけど、影野君なしでヒューマランドに行くのは難しいと思う……」

「……二階堂殿の言う通りでござる。拙者も立派なことを言っているけど、自分一人で松本氏達を救出できるほどの自信はないでござる……四人で行くとばかり考えてしまっていたでござるな。申し訳ない」

「確かに僕たち、力を手に入れたからこそ、こうして迷ってるんだ。以前だったら、行く行かない以前に、行っても何もできなかっただろうし。多分最初から諦めてたと思う。

 そう考えると、今の僕たちの気持ちって、結局のところ偽善にすぎないのかな……やっぱり、陰キャは陰キャらしく大人しくしといた方がいいかも」


 おいおい、どんどん暗い雰囲気になってくな……。

 三人とも言うことが無くなり、影野の発言を待っている状態だ。


「陰キャは陰キャらしく、か……」


 また少し間があって、影野がついに口を開いた。


「俺さ。以前までの自分なら、多分ここで助けには行かなかった気がする。

 菅原の言う通り、助けに行く義理はないし、所詮陰キャがそんなことしても無理だし、って」

「か、影野殿が行かないのであれば、それは仕方がないでござる。

 みんな、拙者はやっぱり行くでござるよ。もしあちらに危険があれば、瞬間移動でここにごっそり連れてくるでござる」

「いやいや慎太郎、その兆候を察知するのは、僕や二階堂の役割だろう。そんな単独行動は危険すぎる。それを聞いちゃうと、僕は『千里感知』の結果をお前に教えることはできないぞ」

「そ、そうでござった……」


 頭を抱える森を、影野が制止する。


「ちょっとみんな、話を聞けって。「以前までの自分なら」って言っただろう」


 頭を上げる森。


「じゃあ!」

「ああ。俺もちょっと欲が出てきた。

 このまま松本達に死なれるのも、何だか癪だと思わないか?完全に下だと思っていた陰キャに助けられる。それでちゃんと、言いたいことを言う。それが俺たちの、あいつらへの仕返しだ」


 ***********************


 そんな意思統一の元、彼らは今、倒れた松本達の前に現れた。

 

 影野はクラスメイト達の間を駆け、次々とタッチしていく。

 俺はその間に分身の数を増やし、協力して天井へとジャンプして、水晶を殴ってみた。しかし、


「やっぱり、ちょっとやそっとでは割れん!森、頼む!」

「押忍、でござる!強化された筋力Sの威力、とくとご覧あれ!!」


 森はそう叫んで、瞬間移動で天井へと移動し、水晶をぶん殴る。


「痛いでござる!!」


 森のパワーでも無理か、となると最終手段。


「お前ら、プランCに移行する!」

「「「「了解!」」」」


 俺の合図とともに、まずは森が影野の元へ瞬間移動し、そのまま天井付近へと戻る。


「『現象否定』」


 影野に触れられ、その光を失う水晶。おそらくこれで、集められた魔法力が消失。ヒューマランドが召喚の儀をすぐに行うのも難しくなるだろう。

 水晶を破壊できていたら、魔法力が持ち主の元へ返ってきた可能性もあるが、まあ仕方あるまい。


 同時に俺は分身達で動き、クラスメイト一人一人を抱きかかえ、一か所にまとまった。

 全員力を抜かれており、強い抵抗はできないようだ。


 分身その16にセイラが抱きつく。おのれ、その16め……。


「森、準備ができた!」

「了解でござる!みんな、しっかり手をつなぐでござるよ!!

 『瞬間移動!!』」


 ***********************


 移動してきたのは、ガンディビル王国内の大広間。ここまでくれば安心だろう。


「菅原、あっちの様子は!?」

「大丈夫、誰も残ってない!王国の連中はめっちゃ焦ってるけど!」


 まあ実質、影野達が現れてからここに至るまで、三分程度だ。ヒューマランドにとってはほとんど「瞬きする間に」という具合だろう。


 影野が残りの生徒にタッチを続け、洗脳魔法を次々と解除していく。

 ほぼ全ての生徒が浮かない表情で、中には泣いている女子もいる。

 体力的にも疲労困憊の中、信じていたヒューマランドに裏切られ、自身の仕出かしに気付かされた訳だからな……。しかしそれらはどれも事実だ。彼ら自身で消化してもらうしかあるまい。


 よれよれと立ち上がる生徒がいた。佐々木だ。


「影野君、菅原君、二階堂君、森君……」

「佐々木殿、今は疲れているでござろう。休んでいた方がいいでござるよ」

「……いいえ。私たちは、あなた達に本当にひどいことをしてしまったわ……ごめんなさい。

 そして、そんな私たちを助けてくれて、本当にありがとう」

「わ、私も……」

「俺もだ……」


 佐々木の言葉に引き寄せられたのか、花田と橘も立ち上がった。


「ごめんなさい」

「すまなかった」


 頭を下げる陽キャ三人。


「いいよ。君らが追放してくれたおかげで、俺たち洗脳が解かれて、強力な力も手に入れたし。君たちを助けられたのも、この力あってこそだからね」


 影野が皮肉気に言い放つ。


「深夜殿!そういう言い方はよくないでござる!!」

「いや、今回助けたのは、俺たちが受けた仕打ちをそのままにはできないと思ったからだ。

 別に復讐しようなんてつもりはないけどさ。精々、反省はしてほしいよね」


 影野はそう言うとそっぽを向いて、明後日の方向を向いてしまった。


「……それで、いい気分かよ」


 全員の視線が発言者に向く――松本だ。


「陰キャが陽キャを救ってさ。スクールカースト下剋上だな。

 だが俺は悪いとは思ってないぞ!あの状況では、事実アビリティもステータスも使えなかったんだからな!お前らが足を引っ張ってるように見えても、仕方なかったんだ!

 陰キャは陰キャらしく、陽キャの陰に隠れてればいいんだよ!」

「陰キャは陰キャらしく、か……ははっ」


 何故か笑う影野。


「俺もずっと、そう思ってたんだけどな。「俺はどうせ陰キャだし」って。

 でもさあ。陽キャとか陰キャって、何なんだろうな。

 亜久津君と出会ってから、今はそんなことを思うんだ」


 俺か?

 影野が続ける。


「学校ってさ。何でか、陽キャは陰キャより偉くて、スクールカーストがあって、カースト上位の言うことは絶対になるよな。

 そんな中で、亜久津君は本当に変な人だった。

 あんまり喋ったことなかったけど、カッコいいし、可愛い彼女もいるし、コミュ力も高いじゃん。明らかに陽の側で、カースト上位の人だよね。松本も一目置いてるしさ。

 でも、俺らが追放された後、分身で追いかけてきてくれて。話してみたら、すっごく話しやすいんだよ。何でだろうって思ったんだけど、何となくわかってきた。

 彼は多分、カーストとかキャラとか、全然意識してないんだ」


 まあ、本当は俺、異世界人だしな……。


「それで俺もさ。このカーストとかキャラとか、だんだんどうでもよくなってきた。

 別に俺が変わる訳じゃないよ。今後もアニオタは続けたいし、多分女子に対しては挙動不審になる。

 俺だけじゃない、他の三人だってそうさ。

 森とか、あんな喋り方で、お前らにとっては一番変人に見えるかもしれないけど。あいつが真っ先に、お前らのこと助けたいって言ったんだぜ?お前が逆の立場だったら、そう思えるか?

 まあそんなわけだから、これからも俺たちは俺たちなりに生きていく。お前たちとは平等。言うことを聞く必要もなければ、こっちの意見を押し通すつもりもない。

 俺が言いたいことは以上。

 そっちは納得できないだろうけど、これを言えずに死んじゃわれるのも嫌だったから、助けたまでだ」


 影野は言いたいだけ言って、仲間三人の元へと歩いていく。うん、なかなか清々しい笑顔だ。

 一方松本は、苦虫を嚙み潰したような顔のままだ。


 すると広間の扉が開けられた。入ってきたのは、シュンフェイか。


「被召喚者達ー、ちゅうもーく!。

 ここはガンディビル王国。私たちは魔族、お前らが洗脳で目の敵にしていた、魔族だ」


 シュンフェイは順番に、二国の辿った歴史、松本達が召喚された経緯、影野達の能力解放の件などについて説明していく。


「――という訳で、お前たちがここに来る元凶を作ったのは私たちガンディビル王国。本当にすまないと思っている。

 とは言え、私たちの同胞がお前らに殺されているのも事実。それについてとやかく言うつもりはもうないが、事実は事実として受け止めてくれることを願う。

 ガンディビル王国は、向こう三年間、お前たちの衣食住を保証する。ただし贅沢をさせることはできない。三年の間に、就職先を探してほしい。

 とりあえずは以上!

 客間も人数分あるから、今はゆっくり身体を休めるといい」


 シュンフェイは、早口でそう述べると、クラスメイトの間をつかつかと歩いていった。


「ええとあと、松本って奴はどこだ?」

「あ、俺だよ。本当にごめん、俺、ヒューマランドに騙されてたんだ。

 シュンフェイちゃん、だったよね?助けてくれてありがとう!これから俺、汚名挽回のために頑張るからさ。見ててくれよな!」


 うわー、確かにシュンフェイは美少女だが、こうも掌を返せるものかね。

 シュンフェイは一瞬じとっと松本を睨むと、影野に声をかけた。


「おーい、影野ー、ちょっと来て―」

「な、何ですか……」


 呼び戻された影野は、心底嫌そうだな……。


「いやー、影野から大体の話は聞いてたからな。一個やりたいことがあって」


 影野の手を取るシュンフェイ。そのまま、そっと頬に唇を重ねた。

 影野は……固まってるな。


「ま、こういうことだから!

 お前には興味ないけど、もう悪さすんなよ!

 あと、汚名は返上してくれよ、挽回したらダメだぞ!

 じゃ、私は忙しいんで、これで。影野達は落ち着いたら来てくれ~」


 身を翻し、颯爽と去っていくシュンフェイ。


 ……こんな『ざまぁ』はありかもな。

 俺は初めて、そんなことを思った。

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