二転三転
二話連続投稿の二話目です。前話未読の方はご注意を!
俺が委員長の後頭部をぶん殴ると同時に、他の分身も次々とクラスメイト達に襲い掛かっていく。
「わー、身体が勝手にー」
「敵の新しい魔法かもしれない!!」
あくまで自身の意思ではないことを強調しておこう。
「わっ、そんな、やめて」
「キャー!!」
非戦闘員の生徒が悲鳴を上げ、場は阿鼻叫喚の図と化した。ちなみに委員長は既に気絶している。本体の俺は片手が微妙に塞がっているので、一撃で作戦遂行できて、何よりだ。
……楽に全員落とせるかと思ったが、そうでもなかった。
松本達ほどではないと言え、さすがの被召喚者。戦闘能力を有したクラスメイトは、俺の攻撃に耐え、反撃してくる。
「亜久津、いきなりどうしたんだ!」
「すまん、自分では止められない!」
「分身を解除してくれよ!」
「できないんだ!」
我ながら嘘八百。非戦闘員を大体仕留め……ゲフンゲフン、眠らせたので、残りのクラスメイトには複数人で当たらせてもらおう。
だがクラスメイトの一人が叫んだ。
「佐々木、花田、緊急事態だ!亜久津が操られている!!」
うお、でけー声!!
そういうスキルなのか……まずいな、あいつら二人を相手するのは、結構厳しいぞ。作戦第三段階――「俺が奇襲でクラスメイトを気絶させて、森が瞬間移動で移動させ、ガンディビル王国員が洗脳解除」は失敗かもしれない。
奴らに張っておかせている分身が会話を傍受している。
「ねえ、花田、聞こえた?戻るわよ!」
「ちっ、しょうがないな。亜久津の野郎、何やってんだ!?」
「待って、とりあえずデカいの放っとく!」
「そうしとくか!!」
「「エレメント・ストーム!!」」
二人が放った魔法は、七色の光を発し、渦巻く螺旋となって、これまでの最大規模でガンディビル王国軍へと向かっていった
……結構やばそうだが、王様、姫様、何とか持ちこたえてくれよ!!
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花田と佐々木から放たれた魔法は、ガンディビル王国サイドからもすぐに目視できた。
「シュンフェイ、デカいのが来る!出力を上げろ!!」
「了解、兄貴!!」
紫色の光が強さを増し、王国軍の前全体に広がる。
やがて、相手の七色の魔法が到達。
ガガガガガッッ!!と、それは螺旋を描いて魔法の壁を抉っていく。
「ぐおおおーーーー!!!」
「はぁぁーーーーーー!!!」
リューギリアとシュンフェイも気合の叫びを上げながら、何とか壁の強度を保つ。
しかし二階堂が叫んだ。
「だ、だ、ダメだ、こ、このままだと、突破される未来が見える!!!」
それに応じたのはシュンフェイだった。
「だから言っただろう、私は防御魔法は苦手なんだ!!兄貴、五秒持ちこたえてくれ!!」
「シュンフェイ、どうするつもりだ!!」
「攻撃魔法で吹っ飛ばす!!」
言うや否や、シュンフェイは螺旋の正面に移動。
その分防護壁が薄くなったようだが、リューギリア王が決死の表情で魔力を込め、何とか防御を繋いでいた。
しかしそれにもすぐに限界が来て、いよいよ防護壁が割れる……!!
「クダーターマ・ノンキャ!」
だがそれと同時。シュンフェイは真っ黒な球を発生させ、眼前の魔法に向かってぶっ放した。
闇の球体の勢いに霧散する、七色の螺旋。
「ハア、ハア、ハア……やったぜ」
流石の大魔法に相当疲弊したのだろう。シュンフェイはガッツポーズを取りながらも、片膝をついている。しかしリューギリア王は、何やら焦った様子。
「バッカもん、やりすぎだ!!」
ってさっきの魔法、そのまま佐々木達の方に向かって飛んでってるじゃねえか!!
「森、影野のところに移動して、あいつと共にあの魔法の前へ!あれを防げるのは影野しかいない、急げ!!」
「わ、分かったでござる、亜久津殿!!」
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ちくしょう、あの姫さん、やってくれやがる。これは演技してる場合じゃねえな。
「みんな、すまん、身体の自由が戻った。
だが見ろ、あっちからヤバいのが来るぞ、逃げろ!!」
俺が指さす方向、シュンフェイの放った闇魔法が向かってくる……しかし俺が気絶させた奴らもいるから、全員が逃げるのは無理だ!!
「私が防ぎます!!」
そんな中矢面に立ったのは、『慈愛と友愛の癒し手』橘響香。
「ブリリアント・サンクチュアリ!!」
橘が両手を翳して魔法を叫ぶと、白い光のドームが出現して皆を包む。
そしてすぐに闇魔法が激突するも、ドームがそれを受け止めた。
「響香、頑張って!!」
「な、何とか、守ってみせます……!!」
佐々木の檄に応える橘だが……厳しいだろうな。
何せ、あの七色の螺旋型の魔法はリューギリア王とシュンフェイですら防ぎきれなったが、この闇魔法は更に強力なのだ。橘一人でしのぎ切るのは厳しいだろう。
しかし数秒、時間を稼げれば十分だった。
闇魔法の側面に、突如として二つの人影が出現する。
「現象否定」
すると一瞬にして消え去る、闇の球と光のドーム。
「な、何ですか!?」
訳が分からず叫ぶ橘。
しかし人影はそれには構わず、橘、佐々木、花田の肩をそれぞれタッチしていく。
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一方のガンディビル王国サイド。
やむを得ずとは言え、シュンフェイが加減を考えずに放った闇魔法。向こうの方でそれが消滅するのを確認すると、各自がほっと胸を撫で下ろした。
しかし今度は菅原が叫ぶ。
「まずい、深夜がいなくなったから、松本がこっちに向かってる!!」
ステータスを増強された松本の脚力は尋常ではなく、みるみるうちにガンディビル王国軍へと辿り着いてしまった。
「……仕方あるまい」
リューギリア王が剣を抜く。
「待て、兄貴!」
「シュンフェイ!お前はクダーターマ・ノンキャを使ったばかりだろう、休んでおけ!」
「そんなことできるわけねえだろ、私が相手する!!」
「ならぬ!!」
おいおい、今兄妹喧嘩しても仕方ねえぞ。
「ちくしょう、魔族どもめ、俺が全滅させてやる!!」
松本が走り込んだ勢いのまま、リューギリア王に向かって斬りかかった……しかし。
「消えた?」
急に跡形もなく消え去った松本。
すると瞬間移動で、影野と森もこちらに合流してきた。影野が叫ぶ。
「クラスメイト達が全員姿を消した!!みんな、作戦第四段階だ!!」
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「うおーっ!!って、どこだここ!?」
松本の叫びが室内に反響する。
薄暗い空間……どうやらクラスメイト全員がここに集められているようだ。俺が気絶させた子らも一緒だな。
足元には幾本もの蝋燭が置かれ、何やら規則的な模様を描いている。灯りと言えるものはそれらの蝋燭だけで、それより奥を目視することができない。
それでも辺りを見渡すと、天井に何やら水晶のような球体が埋め込まれているのが確認できた。
「拓真……」
佐々木が松本に話しかける。その声は震えていて、ひどく弱々しい。
「あかりん、どういうことだ、これ?」
訳が分からないという表情の松本。佐々木はかぶりを振りながら答える。
「分からない。でもそれより、聞いて。魔族のことなんだけど……」
「あいつらがどうした?」
「人間だった……」
「人間……?そういや、仮面を被った人間っぽい奴がいたな」
「ううん、そうじゃないの。頭の中が急にはっきりして、今まで見てきた記憶の中の魔族の姿が浮き彫りになったの。肌の色とか耳の形とか、私たちとは違うけれど、確かに人間なのよ!」
肩を抱きながら震える佐々木。
他の連中の様子を見ると、花田は浮かない表情をしているし、橘は涙を流していた。
そう、洗脳が解けたのだ。影野が三人に触れた際、『現象否定』で魔法を解除したようだ。分身からの情報でそれは確認済み。
リューギリアが言うには、洗脳が解けるとヒューマランドにはそれが伝わるらしい。となると、クラスをここに転移させたのは、おそらく――
「勇者様方」
「グロリア!」
案の定、見計らったかのように姫様登場。松本が反応した。
「グロリア、あかりんたちが変なんだ!」
しかし姫様は、松本になど全く無関心という表情のまま、何も言わずに、後ろにいた部下たちに手で合図する。
部下たちは蝋燭の外側に立ち、何やらブツブツ言い始めた。
すると俺たちの身体がぼんやりと黄色に光り、その光が天井の水晶へと吸い込まれていく……まずいな。
俺はひとまず、手に持っていた腕輪をこっそり地面に置いた。すると俺から出ていた光も消える。やっぱりな。
影野の疑心は当たっていたわけだ。この腕輪はおそらく触媒。装着者の魔法力を強制的に引き出す効果があるのだろう。ステータスが上がっていたのはその副作用だろうか。プラスして強制転移魔法も付与してある、と。
俺?
俺は、最初から腕輪を装着しなかった。正確に言うと、分身にいったんつけさせてヒューマランドの確認をやり過ごし、適当なタイミングで分身を解除。腕輪だけが残るので、それを腕には完全にはめ込まず、すぐに取れるようにしておいたのだ。
そう言えば、セイラはどうしているんだろう……あ、いた。お姫様座りで両手をつき、苦悶の表情を浮かべている。おいおい、腕輪外さなかったのかよ。
いや、違う。何だか俺の方を見て、ちょいちょい瞬きをしている。やけに力強い瞬きだな……って違うわ、あれ、ウィンクしたいのだろうか。下手か。
ともあれ、セイラの方は大丈夫そうだ。
確認していると、松本がどうにかという体で立ち上がっている。
「グ、グロリア、これは、どういうことなんだ……力が、入らない……」
やれやれといった表情で嘆息する姫様。
「この状況に至ってもまだ真実が見えないとは……ある意味、これ以上使いやすい駒はないかもしれませんね。まあ、これから切り捨てるのですが」
「な、駒……?切り捨て……?」
「あなた達の限界は、もう見えました。このままでは、ガンディビルには敵わないでしょう。より強力な駒を召喚することにします」
「どういう、ことだ……」
「これは十年前から決まっていたこと」
「じゅうねん……?」
「ええ。召喚の儀に必要な魔法力、その量は甚大です。それこそ十年ほど、コツコツと魔法力を蓄える必要があるほどに。しかし、我々も愚かではありません。この召喚が失敗に終わったとして、再び十年間待つわけにはいかない。そこで立案されたのが、被召喚者の魔法力を利用する方法です……まったく、あなた達だけで勝てれば、こんなことにはならなかったのに」
そこで佐々木が叫んだ。
「そんな、勝手に呼び出して戦わせたのは、あなた達じゃない!」
「ええ、そうですよ。所詮、駒ですからね。どう使おうと我々の勝手です。
さあ、そろそろ意識を保つのも難しくなってくるでしょう。真実を告げたのは、せめてもの情けですよ」
そう言い放って身を翻す姫様。
しかし部屋の奥から、何やら話し声が聞こえる。
「全く、そういうことだと思ったよ」
「アニメでも典型的な黒幕ですな」
「い、いい迷惑だよね」
「ホント、平和に過ごせてれば、僕たちはそれでよかったのに」
やっと来たか、陰キャ達よう。




