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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース3/クラス転移:松本拓真(陽キャ)と影野深夜(陰キャ)の場合
34/63

新・奇襲作戦

二話連続投稿の一話目です。

 腕輪が配られてから三日間。

 クラスメートたちは、ヒューマランド王国主導の元、訓練に明け暮れた。訓練内容は前回に比べると多少ハードになっている。時間も長く、こういう訓練に慣れていない生徒たちは毎日疲労困憊だ。

 しかし王国サイドのケアも厚い。三食とも豪華なバイキング、訓練後は希望する者にはマッサージ、豪奢な大浴場使い放題など。そうした手当のおかげか、クラスメートの不満もそれほど募っているわけではない。

 ただし毎日忙しく、余分なことを考える余裕もないようだが。


 一方のガンディビル王国サイド。

 影野達は、松本たちを救うことに決めた。その意思を確認し合うと、来たるべき決戦の時に備え、入念に作戦を練った。

 ちなみにその期間、シュンフェイが影野にやたらとちょっかいをかけ、影野が顔を赤らめるシーンが度々あったのだが、俺には関係ないので詳細は割愛する。


 そして先程。


「みんな、松本たち、遂に転移するみたいだ」


 菅原が報告する。


「場所は分かるか?」

「はい、リューギリア王。ヒルブラスト平原と言っています」

「承知した。あそこは障害物が少なく、奇襲を受けにくい。面積も広く、大軍が侵攻しやすいから、ヒューマランドにとっては攻め始めやすい地形なのだ。逆に我らにとっても侵攻が分かりやすいから、お互いに有利不利は少ない」

「なるほど。こっちも作戦遂行ですか?」

「うむ。出陣するぞ!!」


 ***********************


 何の変哲もない平原に転移した二年C組。


「ようし、みんな、行くぞ!」


 松本が颯爽と声をかけ、小走りで進み始める。その横には佐々木が。

 二人の後ろを、団子になって追いかけるその他クラスメート達。些か緊張の色が見て取れる。

 その真ん中に橘。そして最後尾に花田。


 多くの者は前方よりも上方を見上げている。転移の光が怖いのだろう。


 しかしガンディビル王国サイドの作戦では、まだ光は発生させない。もともとあれは奇襲魔法なのだ。警戒されている奇襲など、効果が半減するではないか。

 そう、もっと効果的な奇襲作戦が用意されているのだ。


 しかしそんなことなど露知らず、いつ来るか分からないモンスターの奇襲に怯えながらも、クラスは敵陣へと進んでいく。佐々木の千里眼から、進行方向を誤ることはない。

 なお影野達は、仮面で顔を隠している。千里眼に捕捉されたとき、人間がいることは伝わるだろうが、影野達と気付かれることはあるまい。


「もうすぐ射程距離に入るわ」


 佐々木の報告の通り、向こうには魔物の群れが見えており、そろそろ佐々木・花田の遠距離範囲魔法が届く範囲になってくる。


 それと同時に、ガンディビル王国側の魔族魔物も、こちらに向かってゆっくりと進行を開始したようだ。


「来たわ!」


 佐々木と花田が前線に出て、大規模な炎魔法を繰り出す。


「行っけーーー!!!」


 佐々木の気合いに現れるように、威力、速度共に申し分ないレベルだ。普通の人間や魔物があれを喰らったら、一たまりもないだろう。しかし――


「なっ、防がれた!?」


 彼らの放った炎魔法が直撃する直前、魔物たちの前に発生した紫色の光。炎魔法は、壁に当たったかのようにそこで消滅してしまう。


「もう一度!!」


 今度は冷気と氷の魔法を放つも、


「また!?」


 同じく紫色の光が発生し、魔物たちに命中する前に魔法が無効化される。

 まあ、あそこの守りは相手のトップ二人だからな。そんなに簡単に抜かれることはあるまい。


 花田と佐々木の魔法が効かないことが分かると、松本が叫ぶ。


「あかりん、翔っち、守りを交代してくれ!

 俺が直接攻撃で行った方がよさそうだ!」

「そんな、でも、もし奇襲を受けたら!?」

「いや佐々木、奇襲は俺たちで対処できる。おそらくあのバリアを張っている奴がいる、そいつを拓真に仕留めてもらうのがいいだろう」

「さっすが翔っち、話が分かる!」

「もう、仕方ないわね!拓真、無茶しないでよ!」

「当然!」


 松本は言うや否や、集団から飛び出した。

 よし、まずは作戦第一段階クリア。


 俺は分身を三十体ほど発生させ、陽キャ二人に告げる。


「花田、佐々木、奇襲には俺が対処する、攻撃を続けろ!

 お前らが手を緩めると、あの魔物たちがこちらに来る。ここで乱戦は避けたい!

 もう少し距離を詰めてもいいぞ、近づけば威力もその分上がるだろ!」

「……そうね、亜久津、分かったわ!」

「助かる!」


 これで、厄介な賢者と魔法使いを釘付け、と。

 作戦第二段階完了だ。

 分身のうち二人を松本の方へ。

 そして残った分身達でクラスメート達を囲いながら、佐々木、花田との距離を少しずつ広げていく。


 ***********************


 ガンディビル王国サイド。


「来たぞ、範囲魔法だ!シュンフェイ、防御魔法の準備はいいか!」

「あんまり得意じゃないけど、兄貴の補助くらいならできる!」

「上等だ、いくぞ!!」


「「メッティルア・ルーウォト」」


 リューギリア、シュンフェイの王族二人が協力して、大掛かりな防護壁を創り上げる。

 紫色に光るそれは、二年C組の主力たちの殲滅魔法を防いでいく。しかし、


「さすがに強力だ!!」

「うん、気を抜くと壊されそう!!」


 とのことで、余裕綽々という訳ではないみたいだ。

 お、松本が近付いてくるのが見える。


「深夜、来たよ、松本一人だ!」

「影野殿、頼む!!」


 菅原からの報せを聞いて、リューギリア王が叫んだ。


「はー……自信ないけど、行ってきます!」


 ローブと仮面を纏った影野が、溜息と共に叫ぶ。

 そう、この作戦の主軸は影野。松本の対処を担当する。


「では深夜殿、しっかり掴まってるでござるよ!」


 森の『瞬間移動』で、影野は松本の眼前へと移動していく。


 ***********************


「だ、誰だ、お前ら!」


 急に現れた人影に、慌てて足を止めた松本。俺の分身もおおよそ松本に追いついている。


「人間か!?」

「……」


 影野を松本の元に送り届けると、森はすぐに瞬間移動で消え去った。

 下手に情報を与える必要はないので、クラスメート、特に松本達とは、一切会話しない方針になっている。とは言えここで影野が正体を明かしても、松本は何も納得しないだろう。


 影野は短めの剣を二本手にしている。いわゆる二刀流だ。

 とりあえず、といった感じで、影野が松本に斬りかかった……剣術的なスキルはないはずだが、ステータスが上がったおかげか、ある程度様にはなっている。


「わっ、いきなり何だ!」


 松本は影野の攻撃を右手に持った剣で受け止めると、ひとまず距離をとった


「君、多少やるみたいだけど、たぶん俺には勝てないよ。何だか人間みたいだし、大人しくしてるなら命までは取らないけど?」


 余裕で言い放つ松本。だが影野は何も言わず、またもや松本に斬りかかる。


「……ああもう、鬱陶しいなあ!」


 何合かの打ち合いが続く。影野はほとんど防御に回っているが、どう見ても松本が優勢だ。

 松本の振るう剣が掠り、影野の肌が切り裂かれる。


「くっ……『現象否定』」


 しかし影野は『現象否定』で、傷を負った箇所を時間遡行させ、傷を消し去ってしまう。そうしてまた二本の剣で手数を稼いでいく。


「回復魔法持ちかよ、ますます鬱陶しい!」


 松本は攻撃を激化させていくが、影野の方もめちゃくちゃとは言え二刀流だ、どうにかこうにか、致命傷を喰らうのを防いでいる。多少の傷は現象否定で回復してしまう。

 こうして、剣の腕には天と地ほどの差があろうが、何とか時間は稼いでいるくらいの状態にまで持ち込んだ。


 しかし、松本に対し用意していた第一プランは無理そうだな……。

 

 第一プランとは、松本の洗脳を『現象否定』で解除すること。

 そのためには、対象に触れることが必要なのだ。

 戦闘力にここまで差があると、触れること自体が厳しいだろう。


 という訳でここは第二プラン――「シンプルに足止め」で行くしかあるまい。


 俺は分身ネットワークを通じて、その旨をガンディビル王国側に伝達しておく。


 さて、そろそろ場が出来上がってきた。ふむふむ、リューギリア王からの伝言だ。作戦の第三段階に移る、とな。了解!!


 ***********************


 ヒューマランド王国サイド。

 分身体を多数発生させた俺は、作戦が第三段階に移ることを確認すると、分身達を手近なクラスメイトにそれぞれ近づけていく。


「亜久津君、どうしたの?」


 本体の俺には委員長が暢気に話しかけてくるが……悪いな。


 俺は、委員長の後頭部をぶん殴った。



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