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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース3/クラス転移:松本拓真(陽キャ)と影野深夜(陰キャ)の場合
32/63

光の正体

(日付越えてますが一応)2話連続投稿です。前話未読の方はご注意を!

 こちらは俺本体、ヒューマランド王国サイド。


 マニャール湿地帯への転移が終わると、先の交戦同様、佐々木が魔物の群れを見つける。

 そして松本が先行し、佐々木、花田、橘が追いかける形。

 残されたクラスメート達は、のろのろと更に後を追った。


 俺も二十体ほど分身を増やして、湿地帯を駆け抜ける。今回は二人一組だ。

 何故なら、分身体からの情報で、敵軍には不殺の令が敷かれていることが分かっているから。相手を倒すことより、事故で危機に陥る者がいないか、巡視行動に務めることにする。


 しかし足元はぬかるんでおり、思うほどのスピードを出すことができない……これは、出くわす魔物の種類によっては危険かもな。

 あと不安なのは、シュンフェイとかいう王の妹の動向だ。妹本人がどう動くかということもあるが、このまま行けば松本に狙われる。


 お、ガンディビル王国側の分身から情報。あっちも湿地帯への転移が終わったようだ。

 何々?菅原の『千里感知』から森の『瞬間移動』で、魔王軍は合流完了?

 はや。

 まあひとまず、あっちサイドの心配はほぼなくなったか……。


 俺が各所からの情報をまとめていると、


「キャーッ!!」


 女子生徒の悲鳴だ……って、こんな後方部隊から?

 悲鳴の方に振り返ると、そこには確かに大型のトカゲのような魔物がいた。


「委員長、みんな、逃げろ!!」


 ここにいるのは、直接戦闘には向かないアビリティの生徒ばかりだ。人数は五名程度。俺はクラスメート達に対し警告を発し、分身を五体ほど増やす。


 トカゲの魔物が尻尾で女生徒を強打した……彼女は生身でそれを受けてしまい、宙に放り投げられる。


 ええい、足場が悪い!!


 分身の俺一体で、別の分身の手を取り、女生徒の方にぶん投げる。


 間に合え!!


 間一髪、ぶん投げられた分身が女生徒の身体をキャッチ、そのまま落下。

 湿地なのが幸いして、落下時のショックはだいぶ泥と水面が吸収してくれた。だが、


「うう、痛い……」


 女生徒の腕は折れてるな。まあリューギリア王は、多少の負傷はやむなしって言ってたし、向こうの作戦の範疇内だろう。

 その証拠に、トカゲの魔物は生徒たちを威嚇しているが、それ以上の攻撃は加えてこない。

 だが、そんなことを生徒たちが知る由もなく、彼らはガチで怯えている。そうか、こいつら、今まで松本たちに頼っていた分、魔物と至近距離で相対するのもこれが初めてか。


 そう思っていると、宙に光が発生した。あの感じには見覚えがある。光は大きくなり、その中からトカゲの魔物が更に三頭と、魔族が一人現れた。


 ……なるほど、そういうことだったのか。

 ガンディビル王国の分身からの情報を、全俺が共有していく。あちらさんの思惑に乗っかってやろうじゃないの。


 ***********************


 ガンディビル王国サイド、分身体の俺。

 森の『瞬間移動』で王妹の部隊に駆けつけたはいいものの、菅原曰く、間もなく松本たちがここに来るようだ。


「兄貴!?」


 リューギリア王について魔物の間をかき分けていくと、軍の後方にいた少女が、心底驚いたような声を上げた。これまたかなりの美少女だな……セイラほどではないにせよ。


「シュンフェイ!」

「兄貴、どうしてここに!?」

「被召喚者の力だ。ここにいる五名、洗脳を解くことに成功した」

「そうなのか……。だが私は、お前らの手は借りんぞ!!」

「シュンフェイ、何を言う!!」

「兄貴は黙っててくれ!昨日の戦で、こいつらの仲間がシンパとスーザの兄妹を殺したんだ!

 特にスーザなんか、相手に手を出していないのに、スーザの死体に駆け寄ったところを、背中から斬られたんだぞ!」

「報告は受けている!お前が逆上して、ファボヤ・イールをぶっ放したこともな。

 しかし今からここに来るのは、昨日前線に辿り着いた者達だ。スーザほどの手練れを上回る剣技の持ち主と、強力な範囲魔法の使い手。お前は大丈夫かもしれないが、また仲間を失うやもしれんぞ!」


 リューギリア王の叱責に、少女はしゅんと項垂れた。尻尾も力なく垂れている……王と同じくもふもふだ。やっぱり兄妹なんだな。


「ここからは私が指揮を執る。

 まず影野殿方は、相手の範囲攻撃からの防衛を。これは其方たちにしか頼めない。ここの防衛如何で、被害の総量が大きく変わってくる。頼めるか?」

「花田達ですね。分かりました」


 影野が答える。


「次に、剣使いの被召喚者。これには私が行く!!」


 え、マジで!?俺が驚いていると、


「いやいや、ありえませんって!!」

「兄貴、それはない!!」


 影野とシュンフェイも同時に否定した。


「あなたがやられたらこの国は終わりでしょう。何故王自ら危険を冒すんですか」

「こいつの言う通りだ、それなら私が行く!」

「だが、シンパ以上の使い手となると、私かお前かしかいない。

 お前の身を危険に晒すわけにはいかんから、必然的に私しかいないだろう。

 それにこれは作戦の肝ではない。剣使い相手には、時間稼ぎだけでよい」

「時間稼ぎ?」

「うむ。転移の光をかき消していた張本人が、この影野殿達なのだ。当初作戦が使える。いや、既にオオヘビトカゲ四体とリックスを行かせている」


 影野が話を遮る。


「ちょっと、話が見えません!」

「おお、すまん。其方らが戦場で消していたあの光は、我が仲間を送り込む転移魔法なのだ。

 転移は本来転移陣を用意したところにしか移動できないが、あの光は、近距離なら任意の場所に移動できる。

 本来、被召喚者の軍団を相手取る際は、非戦闘員を人質に、退却を促す作戦だったのだ。

 ……誰かさんのおかげで、奇襲は悉く失敗だったがな。

 湿地帯に到着した直後、転移の光を用いて、魔物四体と我が部下一人を敵軍の後方に送り込んだ」


 あー、そういうこと。もちっと早く教えてほしかったな……本体の方がすげー焦ったじゃねえか。

 菅原も反応する。


「あ、ホントだ!今まであんまり戦いに参加していなかった人たちの所に、魔物がいるよ!」

「なるほど、その情報が前線に伝われば、松本達は戻らざるをえないですね」

「うむ。それまであの剣使いの攻撃を凌げばよい。だから、最も確実に対処できる私が」


 うーん、この王様、責任感が強すぎるんだな。


「だから、兄貴が行くのはおかしいって!!私が行く!!」


 妹の方もギャアギャア喚いている。


「時間がありません!松本が到着するまで、あと三分くらいかと!」


 菅原が報告する。つーかその役目、俺が適任じゃね?


 ***********************


 森の瞬間移動で、部隊とは少し離れたところに連れていってもらい、森は俺を残してまた瞬間移動。あいつは影野達も移動させなきゃいけないしな。


 さて、向こうの方からすごいスピードで突っ走ってくる奴がいる……松本だ。


「おーい、松本!!」


 俺が声をかけると、奴は急ブレーキをかけて止まった。


「亜久津じゃん、もうこんなところに?」

「ああ。それよりも大変だ!!

 魔物が後方にも出現して、クラスメート達を襲っている!!」

「え、マジで!?」

「ああ、知っての通り、俺は分身達同士で情報を共有しているからな。

 すぐに戻ってくれないか!?」

「ええ、でも、ここまで来て……」


 松本の奴、まだ武勲が欲しいんだな……。


「迷ってる場合かよ、仲間が死ぬかもしれないんだぞ!!」

「……そうだな。仕方ない、戻るか!!」

「俺は他の奴らに声をかけながら行くから、先に行ってくれ!!」

「分かった、任せたわ!!」


 ふう、これで一仕事完了。

 あとは花田と佐々木の方だが、あっちも時間の問題だろ。


 ***********************


 ヒューマランド王国側、俺本体。

 俺はこの場で増やした分身達で、魔物と魔族を相手取る振り(・・)をする。

 

「リックスさん、ですね」

「亜久津殿、そういえば分身能力でしたな」


 鍔迫り合いしながら、リックスとかいう魔族と小声で情報交換。


「作戦は理解しました。松本――剣使いの方は撤退し始めています。

 俺の分身はやられる振りをするので、後は適当に。怪我くらいなら、治せるアビリティ持ちがいるんで大丈夫です」

「承知しました」


 これでオッケー。


「ぐわー、やられたー!」

「俺もだ……」

「つ、つよいー」


 俺の分身達は攻撃を受けて消滅していく……正確には自ら消えているだけだが。


「そ、そんな、亜久津君までやられちゃうなんて。

 わ、わ、僕は戦闘能力はないんだ、こ、来ないでくれ」


 尻餅をつく委員長……すまん。死にはしないから、ちょっとの間我慢してくれ。

 オオヘビトカゲの前脚の一撃が、委員長を吹っ飛ばした。


 これで、ここにいた五人は俺以外全員気絶。あとは、人質として確保しておき、前線が撤退したことを確認したら転移で離脱すればよい。


 ***********************


 結果として、ガンディビル王国の作戦に見事に嵌ってしまった二年C組。

 松本、花田、佐々木、橘の四人が近付くと、リックス達は離脱。

 その頃にはガンディビルの軍勢も撤退しており、彼らは仕方なく王城へと戻っていった。


 いつもの待機部屋に通される。

 気絶した五名の負傷は、すぐに橘が治療した。あとは安静にしてれば、そのうち目を覚ますだろう。


「くそ!!」


 松本が苛立ちを隠さず、部屋にあった椅子を蹴り飛ばす。


「何なんだ、どういうことだよ!」

「拓真、落ち着いて」


 松本を宥めるのは佐々木だ。


「今回は、明らかに今までとは違ったわ。ねえ、花田」

「ああ。俺たちの範囲魔法が、全く効果を発さなかった」


 それは影野の『現象否定』だろうが、ここは素知らぬ振り。


「そうなんだ……つーかそれよりも、何であんなところに敵がいたんだよ!

 そうだ、亜久津、お前、分身で何かわかったんじゃねえの!?」


 俺か。


「……宙に光が現れたと思ったら、そこから魔物が出てきた。奴らは強力で、俺では太刀打ちできなかった……面目ない」

「何だよそれ、意味分かんねえよ!!」


 口調を荒げる松本。すると背後から話に加わる声が。


「亜久津君の話は、本当だよ」

「委員長!」

「もう大丈夫なの!?」

「ええ、心配かけて申し訳ない。それより、後方で起こったことは、先ほど亜久津君が言った通り」

「そうか……いいんちょまでそう言うなら、そういうことなんだろうな」

「うん。ただそれよりも、状況が非常に悪い……」


 そういや委員長のアビリティ、『状況分析』だったな。


「どういうことだ、いいんちょ?」

「知っての通り、僕たちC組のメンバーの能力は様々だ。そんな中、お互いに長所と短所を掛け合わせて戦ってきた。

 しかし今回、あの光は明らかに非戦闘員を選んで襲ってきた。そうなると今後、僕らのような弱い人の命の危険が格段に上がってしまう」

「それは、俺たちが守るから……!!」

「そうすると、誰も前線に行けなくなるよ?」

「うっ、それは……そもそも、何でいきなり、そんな光が出てき始めたんだよ!?」


 うわー、こいつ、気付いてねえ。

 するとクラスの誰かが呟いた。


「影野達が消してた奴じゃね?」

「な、あの陰キャ……?」


 委員長が合点が行ったように手を叩く。


「ああ、そうだ!影野君たちは、協力して光を消していた。

 彼らがいなくなった今、あの光が機能し始めてしまったと考えると辻褄が合う!」


 そんな委員長の説明を聞いて、また誰かが呟いた。


「でも、影野達を追放したのって……」


 皆の眼が、一斉に松本の方に向き始める。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何人か確保して、洗脳解くべし 想定外のざまあ劇が始まった!?
2021/08/14 23:41 退会済み
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