光の正体
(日付越えてますが一応)2話連続投稿です。前話未読の方はご注意を!
こちらは俺本体、ヒューマランド王国サイド。
マニャール湿地帯への転移が終わると、先の交戦同様、佐々木が魔物の群れを見つける。
そして松本が先行し、佐々木、花田、橘が追いかける形。
残されたクラスメート達は、のろのろと更に後を追った。
俺も二十体ほど分身を増やして、湿地帯を駆け抜ける。今回は二人一組だ。
何故なら、分身体からの情報で、敵軍には不殺の令が敷かれていることが分かっているから。相手を倒すことより、事故で危機に陥る者がいないか、巡視行動に務めることにする。
しかし足元はぬかるんでおり、思うほどのスピードを出すことができない……これは、出くわす魔物の種類によっては危険かもな。
あと不安なのは、シュンフェイとかいう王の妹の動向だ。妹本人がどう動くかということもあるが、このまま行けば松本に狙われる。
お、ガンディビル王国側の分身から情報。あっちも湿地帯への転移が終わったようだ。
何々?菅原の『千里感知』から森の『瞬間移動』で、魔王軍は合流完了?
はや。
まあひとまず、あっちサイドの心配はほぼなくなったか……。
俺が各所からの情報をまとめていると、
「キャーッ!!」
女子生徒の悲鳴だ……って、こんな後方部隊から?
悲鳴の方に振り返ると、そこには確かに大型のトカゲのような魔物がいた。
「委員長、みんな、逃げろ!!」
ここにいるのは、直接戦闘には向かないアビリティの生徒ばかりだ。人数は五名程度。俺はクラスメート達に対し警告を発し、分身を五体ほど増やす。
トカゲの魔物が尻尾で女生徒を強打した……彼女は生身でそれを受けてしまい、宙に放り投げられる。
ええい、足場が悪い!!
分身の俺一体で、別の分身の手を取り、女生徒の方にぶん投げる。
間に合え!!
間一髪、ぶん投げられた分身が女生徒の身体をキャッチ、そのまま落下。
湿地なのが幸いして、落下時のショックはだいぶ泥と水面が吸収してくれた。だが、
「うう、痛い……」
女生徒の腕は折れてるな。まあリューギリア王は、多少の負傷はやむなしって言ってたし、向こうの作戦の範疇内だろう。
その証拠に、トカゲの魔物は生徒たちを威嚇しているが、それ以上の攻撃は加えてこない。
だが、そんなことを生徒たちが知る由もなく、彼らはガチで怯えている。そうか、こいつら、今まで松本たちに頼っていた分、魔物と至近距離で相対するのもこれが初めてか。
そう思っていると、宙に光が発生した。あの感じには見覚えがある。光は大きくなり、その中からトカゲの魔物が更に三頭と、魔族が一人現れた。
……なるほど、そういうことだったのか。
ガンディビル王国の分身からの情報を、全俺が共有していく。あちらさんの思惑に乗っかってやろうじゃないの。
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ガンディビル王国サイド、分身体の俺。
森の『瞬間移動』で王妹の部隊に駆けつけたはいいものの、菅原曰く、間もなく松本たちがここに来るようだ。
「兄貴!?」
リューギリア王について魔物の間をかき分けていくと、軍の後方にいた少女が、心底驚いたような声を上げた。これまたかなりの美少女だな……セイラほどではないにせよ。
「シュンフェイ!」
「兄貴、どうしてここに!?」
「被召喚者の力だ。ここにいる五名、洗脳を解くことに成功した」
「そうなのか……。だが私は、お前らの手は借りんぞ!!」
「シュンフェイ、何を言う!!」
「兄貴は黙っててくれ!昨日の戦で、こいつらの仲間がシンパとスーザの兄妹を殺したんだ!
特にスーザなんか、相手に手を出していないのに、スーザの死体に駆け寄ったところを、背中から斬られたんだぞ!」
「報告は受けている!お前が逆上して、ファボヤ・イールをぶっ放したこともな。
しかし今からここに来るのは、昨日前線に辿り着いた者達だ。スーザほどの手練れを上回る剣技の持ち主と、強力な範囲魔法の使い手。お前は大丈夫かもしれないが、また仲間を失うやもしれんぞ!」
リューギリア王の叱責に、少女はしゅんと項垂れた。尻尾も力なく垂れている……王と同じくもふもふだ。やっぱり兄妹なんだな。
「ここからは私が指揮を執る。
まず影野殿方は、相手の範囲攻撃からの防衛を。これは其方たちにしか頼めない。ここの防衛如何で、被害の総量が大きく変わってくる。頼めるか?」
「花田達ですね。分かりました」
影野が答える。
「次に、剣使いの被召喚者。これには私が行く!!」
え、マジで!?俺が驚いていると、
「いやいや、ありえませんって!!」
「兄貴、それはない!!」
影野とシュンフェイも同時に否定した。
「あなたがやられたらこの国は終わりでしょう。何故王自ら危険を冒すんですか」
「こいつの言う通りだ、それなら私が行く!」
「だが、シンパ以上の使い手となると、私かお前かしかいない。
お前の身を危険に晒すわけにはいかんから、必然的に私しかいないだろう。
それにこれは作戦の肝ではない。剣使い相手には、時間稼ぎだけでよい」
「時間稼ぎ?」
「うむ。転移の光をかき消していた張本人が、この影野殿達なのだ。当初作戦が使える。いや、既にオオヘビトカゲ四体とリックスを行かせている」
影野が話を遮る。
「ちょっと、話が見えません!」
「おお、すまん。其方らが戦場で消していたあの光は、我が仲間を送り込む転移魔法なのだ。
転移は本来転移陣を用意したところにしか移動できないが、あの光は、近距離なら任意の場所に移動できる。
本来、被召喚者の軍団を相手取る際は、非戦闘員を人質に、退却を促す作戦だったのだ。
……誰かさんのおかげで、奇襲は悉く失敗だったがな。
湿地帯に到着した直後、転移の光を用いて、魔物四体と我が部下一人を敵軍の後方に送り込んだ」
あー、そういうこと。もちっと早く教えてほしかったな……本体の方がすげー焦ったじゃねえか。
菅原も反応する。
「あ、ホントだ!今まであんまり戦いに参加していなかった人たちの所に、魔物がいるよ!」
「なるほど、その情報が前線に伝われば、松本達は戻らざるをえないですね」
「うむ。それまであの剣使いの攻撃を凌げばよい。だから、最も確実に対処できる私が」
うーん、この王様、責任感が強すぎるんだな。
「だから、兄貴が行くのはおかしいって!!私が行く!!」
妹の方もギャアギャア喚いている。
「時間がありません!松本が到着するまで、あと三分くらいかと!」
菅原が報告する。つーかその役目、俺が適任じゃね?
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森の瞬間移動で、部隊とは少し離れたところに連れていってもらい、森は俺を残してまた瞬間移動。あいつは影野達も移動させなきゃいけないしな。
さて、向こうの方からすごいスピードで突っ走ってくる奴がいる……松本だ。
「おーい、松本!!」
俺が声をかけると、奴は急ブレーキをかけて止まった。
「亜久津じゃん、もうこんなところに?」
「ああ。それよりも大変だ!!
魔物が後方にも出現して、クラスメート達を襲っている!!」
「え、マジで!?」
「ああ、知っての通り、俺は分身達同士で情報を共有しているからな。
すぐに戻ってくれないか!?」
「ええ、でも、ここまで来て……」
松本の奴、まだ武勲が欲しいんだな……。
「迷ってる場合かよ、仲間が死ぬかもしれないんだぞ!!」
「……そうだな。仕方ない、戻るか!!」
「俺は他の奴らに声をかけながら行くから、先に行ってくれ!!」
「分かった、任せたわ!!」
ふう、これで一仕事完了。
あとは花田と佐々木の方だが、あっちも時間の問題だろ。
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ヒューマランド王国側、俺本体。
俺はこの場で増やした分身達で、魔物と魔族を相手取る振りをする。
「リックスさん、ですね」
「亜久津殿、そういえば分身能力でしたな」
鍔迫り合いしながら、リックスとかいう魔族と小声で情報交換。
「作戦は理解しました。松本――剣使いの方は撤退し始めています。
俺の分身はやられる振りをするので、後は適当に。怪我くらいなら、治せるアビリティ持ちがいるんで大丈夫です」
「承知しました」
これでオッケー。
「ぐわー、やられたー!」
「俺もだ……」
「つ、つよいー」
俺の分身達は攻撃を受けて消滅していく……正確には自ら消えているだけだが。
「そ、そんな、亜久津君までやられちゃうなんて。
わ、わ、僕は戦闘能力はないんだ、こ、来ないでくれ」
尻餅をつく委員長……すまん。死にはしないから、ちょっとの間我慢してくれ。
オオヘビトカゲの前脚の一撃が、委員長を吹っ飛ばした。
これで、ここにいた五人は俺以外全員気絶。あとは、人質として確保しておき、前線が撤退したことを確認したら転移で離脱すればよい。
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結果として、ガンディビル王国の作戦に見事に嵌ってしまった二年C組。
松本、花田、佐々木、橘の四人が近付くと、リックス達は離脱。
その頃にはガンディビルの軍勢も撤退しており、彼らは仕方なく王城へと戻っていった。
いつもの待機部屋に通される。
気絶した五名の負傷は、すぐに橘が治療した。あとは安静にしてれば、そのうち目を覚ますだろう。
「くそ!!」
松本が苛立ちを隠さず、部屋にあった椅子を蹴り飛ばす。
「何なんだ、どういうことだよ!」
「拓真、落ち着いて」
松本を宥めるのは佐々木だ。
「今回は、明らかに今までとは違ったわ。ねえ、花田」
「ああ。俺たちの範囲魔法が、全く効果を発さなかった」
それは影野の『現象否定』だろうが、ここは素知らぬ振り。
「そうなんだ……つーかそれよりも、何であんなところに敵がいたんだよ!
そうだ、亜久津、お前、分身で何かわかったんじゃねえの!?」
俺か。
「……宙に光が現れたと思ったら、そこから魔物が出てきた。奴らは強力で、俺では太刀打ちできなかった……面目ない」
「何だよそれ、意味分かんねえよ!!」
口調を荒げる松本。すると背後から話に加わる声が。
「亜久津君の話は、本当だよ」
「委員長!」
「もう大丈夫なの!?」
「ええ、心配かけて申し訳ない。それより、後方で起こったことは、先ほど亜久津君が言った通り」
「そうか……いいんちょまでそう言うなら、そういうことなんだろうな」
「うん。ただそれよりも、状況が非常に悪い……」
そういや委員長のアビリティ、『状況分析』だったな。
「どういうことだ、いいんちょ?」
「知っての通り、僕たちC組のメンバーの能力は様々だ。そんな中、お互いに長所と短所を掛け合わせて戦ってきた。
しかし今回、あの光は明らかに非戦闘員を選んで襲ってきた。そうなると今後、僕らのような弱い人の命の危険が格段に上がってしまう」
「それは、俺たちが守るから……!!」
「そうすると、誰も前線に行けなくなるよ?」
「うっ、それは……そもそも、何でいきなり、そんな光が出てき始めたんだよ!?」
うわー、こいつ、気付いてねえ。
するとクラスの誰かが呟いた。
「影野達が消してた奴じゃね?」
「な、あの陰キャ……?」
委員長が合点が行ったように手を叩く。
「ああ、そうだ!影野君たちは、協力して光を消していた。
彼らがいなくなった今、あの光が機能し始めてしまったと考えると辻褄が合う!」
そんな委員長の説明を聞いて、また誰かが呟いた。
「でも、影野達を追放したのって……」
皆の眼が、一斉に松本の方に向き始める。




