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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース3/クラス転移:松本拓真(陽キャ)と影野深夜(陰キャ)の場合
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キャラって何なんだ

 菅原の『地獄耳』によれば林から物音がするらしいが、正直俺には何も聞こえない。しかし能力とはそういうものだ、ここは菅原を信じるしかない。


「気を付けて、この音、一人じゃない……あ、まずい。囲まれたかも」

「囲まれた?」

「いくつかの音が後ろに移動した」


 なるほど、と思っていると、影野が言う。


「この世界のことは知らないけど、囲むなんて芸当をしてくるあたり、相手として可能性が高いのは人間。もちろんそういうモンスターな可能性もあるけど。

 とりあえず、五秒数えたら右手の草原にダッシュ」


 他の三人も軽く頷いて肯定の意を返した。


「五、四、三、二、一、ゼロ!」


 影野の合図と共に一目散に駆け出す四人。しかしその瞬間、


「やはり気付かれていたか!止むを得ん、皆の衆、取り押さえよ!

 絶対に怪我させるんじゃないぞ!」


 という声が聞こえて、同時に林から十名ほどの人影が飛び出した。

 俺はひとまず剣を抜くが……ん?こいつら、魔族か?


 特徴的な紫の肌、上に尖った耳、そして尻尾。戦場で相見えた敵国の連中にそっくりだ。

 一応、「取り押さえる」だの「怪我させるな」だの言ってたし、ひとまず様子見かな。何せ俺は分身体、ダメージを受けたら消えてしまうのだ。


 魔族の部隊は手甲やら肘当てやらを装備しており、徒手格闘で迫ってくる。俺は自分の所に来た奴に向かって両手を挙げた。


「抵抗の意思はない」

「我らの言葉が分かるのか!?」

「ああ……って、そうか」


 そうだった、王国の洗脳魔法の件があった。

 影野達の方を見ると案の定、全速力で逃げているのが分かる。とは言え悲しいかな、ステータスの低さ故か、もうすぐ追いつかれそうだが。


「おーい、お前ら、大人しく捕まっとけー!!」


 俺が叫ぶのと同時くらいで、魔族が影野達を捕らえた。


「放せ、放してくれ!」

「もう駄目でござる!せめて一思いに……」

「うう、まだ見れてないアニメいっぱいあるのに……」

「ちくしょう、こんな王都の近くにまでスパイが入ってるなんて……」


 おうおう、大騒ぎだな。


「落ち着け、大丈夫だから。抵抗するから押さえられるんだよ」


 俺がそう告げると、影野がこちらの様子を見て力を抜く。


「亜久津君……こいつらのこと、怖くないの?」

「えーと……」


 どう説明したものか迷っていると、部隊のリーダーらしき男が俺を手で制す。

 長髪、長身で、がたいがすげーデカい。尻尾は狐みたいだな。もふもふだ、ちょっとかわいい。


「どうやら其方は洗脳が解けているようだ。しばし待たれよ」


 男が俺にそう告げると、影野達を中心に、魔族十人が円形に広がった。


「な、何をするでござるか!?」


 叫ぶ森を無視して、十人が手で同じ様な印を結ぶ。彼らは印の形を変えながら、何やらブツブツ言っている。


「……インブレ、シングウォ、ペスルディ!!」


 男が最後にそう叫ぶと、


「くっ、何だ、頭が痛い……」

「せ、拙者もでござる……」

「僕も……」

「うう……」


 影野達が頭を押さえながら蹲った。


「洗脳解除の儀を行った。頭痛は一分ほどで収まる故、しばし我慢せよ」


 男がそう言うので、俺はひとまず待つことにする。すると確かに一分ほどして、


「あ、痛くなくなってきた」


 四人の様子が落ち着いた。


「本当だ」

「もう平気でござる」

「うん……って、ええ!?」


 二階堂が仰天の声を上げる。どうやら気付いたみたいだな。


「どうしたでござるか、二階堂殿……あれ、魔族の連中がいないでござる!!

 というか、この紫の人達は誰でござるか!?」


 森、ござるござる五月蠅いぞ。


「異世界からの使者達よ、我らの言葉が通じるか?」

「喋ったでござる!?」


 また叫ぶ森を影野が制止する。


「慎太郎、ちょっと静かにして。

 はい、分かります。先ほどのは魔法か何かですか?」

「うむ。お主たちには強力な洗脳の魔法がかけられており、それが我らとの意思疎通を阻害していた。まずはそれを解除させてもらった」

「なるほど……洗脳の魔法をかけたのは、王国?」

「その通りだ、話が早くて助かる。

 ゆっくり説明したいところだが、時間がない。洗脳が解けたことはヒューマランドにも伝わろう。追手が来る前に退散したい。我が国に招待しようと思うが、いかがか?」


 その申し出に、影野は少し考え込んだ。だがすぐに言う。


「……ダメだ、特に案は浮かばない。みんな、どの道俺たちには、選択肢がない。この人たちに従おうと思うんだけど、どう?」

「深夜殿が決めたなら、そうするでござる」

「僕も大丈夫」

「い、今のところ、『虫の声』は何ともないし……五秒より後に危険があるかもしれないけど」


 他三人も影野と同意見のようだ。影野が俺に向かって尋ねる。


「亜久津君、君はどうする?」


 そうなんだよなあ、どうするか……着いていきたいのは山々なんだけどな。


「すぐにバレるだろうから先に言っとく。

 今の俺は『分身』のアビリティで作り出した分身体、本体はヒューマランドの王城にいる。アビリティの力の一環として、本体と分身の精神は繋がっていて、情報を逐一共有している。

 俺がそっちに行くってことは、情報がヒューマランドにいる本体に筒抜けになるってことだ。

 とは言え俺もヒューマランド王国のやり方には懐疑的で、本体が情報を漏らす気はない。

 それを信じられるなら俺も連れてけ。無理ってんなら、ここで消えよう」


 とりあえず正直に述べてみた。まあでも、影野達とはここでサヨナラかな……。

 しかしそんな予想に反し、男が返答する。


「承知した。其方を信じよう。さあ、時間がない。転移扉を」


 え、そんなあっさり?

 ま、まあ、信じてくれるって言うんなら、わざわざ反対することもない。


 部下らしき魔族が何やら呪文を唱えると、空中に、人ひとり通れるくらいの長方形の光が発生する。


「ここをくぐればひとまずは我が国だ、詳しい話は移動してからにしよう。

 そうだ、申し遅れたな。我が名はリューギリア、ガンディビル王国の第十五代国王である」


 え、王様本人が出張ってきてるの?この国大丈夫?


 ***********************


 転移先は城だった。客間らしきところに通されると、国王を名乗った男はさっさと退散してしまう。部屋には魔族らしき者が数名配置されているが、リューギリア曰く雑用係だそうだ。


「みんな、ここに来たこと、勝手に決めてごめん」


 影野が改めて皆に謝る。


「いやいや、深夜殿は簡単にでも確認をとってくれたではないでござるか。

 それに、あの王様もいい人そうでござる」

「それにしても、洗脳魔法だなんて、ビックリだね……」

「ぜ、全然気付いてなかった」


 三人は口々に言うが、影野はまだ浮かない表情のままだ。


「洗脳魔法が存在するってことは、今この時、俺たちがまだ洗脳されていないと証明する手段はない。俺たちは今、敵国に利用されようとしているのかもしれない。

 ただ、もしリューギリアって王様の話が本当なら、ヒューマランドの方の追手に捕まってまた何かされた可能性もある。それよりかは、こっちの方がマシに思えたんだ」

「なるほど、さすが深夜殿、そこまで考えていたのでござるな」

「ぼ、僕は、手荒なことをされてない分、この国の方が信用できると思う」

「確かに、二階堂の言う通り、何かしたければ、力ずくで連れてきたらいいだけだしな」

「おお、二人の言うことももっともでござるな!深夜殿、考えすぎもよくないでござるよ」

「……そうだな。ただみんな、警戒だけは怠らないでくれ」


 なるほどこの四人、やはり影野がずば抜けて状況判断力が高い。そんな影野を他のメンバーは信頼していて、実質のリーダーとみなしている。だが影野自身も完璧という訳ではなく、彼の考えの至らない点や、逆に考えすぎな点を、他のメンバーがフォローする、と。

 なかなかいいチームじゃないか。


 そんなことを考えていると、影野が話しかけてくる。


「亜久津君、さっきの話のことだけど」

「分身と本体のことか?」

「先に謝っとく。申し訳ないけれど、君のこと、俺はまだ信用していない。あの道で会ったときから、王国のスパイなんじゃないかって思ってた」

「はっきり言うなあ」

「でも影野殿、その点については亜久津殿が自分で説明していたでござる。それこそ、本当にスパイならそんなことする必要ないのでは?」

「いや、逆にそう思わせる作戦かもしれない。亜久津君が言っているのは、『自分はスパイ活動ができるけれど、しないですよ』ってことだけだから。それを証明する手段がない以上、彼を無実だとは言えない」

「それは確かにそうでござるが……」

「ただ不思議なのが、あの国王がそれをあっさりと承諾したことだ。ひょっとしたら、この国には何か証明する手段があるのかもしれない。俺はそれを待つことにする」

「ああ、それでいいぞ。俺も正直、あの国王の態度には拍子抜けしたんだ」


 俺がそう答えたところで、森がパンと手を叩いた。


「二人の言い分は分かったでござる!」

「慎太郎、何が分かったって?」

「深夜殿。亜久津殿を疑うのは、深夜殿に任せるでござる。拙者は、亜久津殿を信じる側に回る故」


 森の奴、よく分からんことを言い出したな……。


「だって、亜久津殿が本当のことを言っているとすると、誰にも信用されないのは辛いと思うでござる。

 拙者は深夜殿のことも信じている故、疑う側の思考は深夜殿に従うでござる。状況が状況だから、そういう思考が必要なのは仕方がないですな。拙者はちゃんと亜久津殿を信じる故、亜久津殿はどうか落ち込まないでほしいのでござる」


 いや落ち込むも何も、俺は無条件で信じられる方が不安になる性質だから、これでいいのだが……。


「俺が嘘を吐いていたらどうする?」

「それでもいいでござる。仮に何か危険があれば深夜殿が助けてくれると信じているでござるし、もしそれでも無理で結果死ぬことになるのなら、それはもう仕方ないですな。

 亜久津殿も、あまり気にしなくていいでござるよ。これは拙者の生き様の問題故」

「慎太郎……」


 皆が森のことを見つめると、


「だ、だから、この話はお終いにするでござる!何だか恥ずかしくなってきた故!!」


 と、わちゃわちゃと慌てだす森。


 ふむ……森のこのスタンスは、ある意味最も勇気が必要かもな。既にひねくれた俺には真似できる気がしない。


 俺は初めて、この変な奴に尊敬の意を抱いた。

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