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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース3/クラス転移:松本拓真(陽キャ)と影野深夜(陰キャ)の場合
26/63

お前は何を見ている?

 影野達の話を聞くのと並行して。


 俺その11~14が、魔物の軍勢の後方まで辿り着き、数名の人型の魔物?がいるのを発見した。見た目から察するに、男四人、女二人といったところか。

 しかしよく見ると所謂人間とは異なり、縦長の耳が頭の上の方についている。皮膚の色も紫色に近い。また、各々に尻尾が生えていた。形は色々だ。


「ほう、ここまで来れる者があの少年以外にいるとはな」


 あ、見つかった。

 ロングコートのような服を着た長身の男が、真っ直ぐこちらを見据えている。髪の毛は緑、短めだ。尻尾は短いが太く、見た感じは爬虫類のそれに似ている。

 腰に剣を差しているのは分かるが、鞘が長い……刃渡りが普通の剣の二倍くらいはありそうだ。


 俺は一瞬退避を検討するも、すぐに却下した。とりあえずは分身だ、ひとまず交戦してみて、相手の実力を測ってみようではないか。


 サイクロプスの時と同様、四人ばらけながら相手の方に駆ける。

 向こうも、最初に目が合った長身の男一人、俺たちに向かって走ってくる。


 俺たちは剣を抜き、同時に奴に飛びかかった。しかし奴も剣を抜いて叫ぶ。


「ギユジブノ・アラス!!」


 うお、あぶね!!

 叫んだ言葉の意味は分からなかったが、奴の長剣の一振りは鋭く、俺は慌ててその12の剣で受け止める。


「ヒューヴァラ・ゴエガ!」


 あ、斬られた……その13があえなく消滅。

 あいつ、その12に受け止められた時の反動をそのまま利用して、その13に刃を返してきやがった。


 俺はこれで三人になる。

 うーん、こいつは格上だ……仕方がない。今ここにいる三人は、仕留めることよりも、足止めを優先しよう。

 そのうちに、他のクラスメートなり追加の分身達なりが訪れるのを待つことにする。


 三人で奴を囲み、じりじりと距離を詰めていく。しかし、


「トリプヒャト・ジグマ!!」


 また謎の技名を叫ぶと、今度は俺その14に向かって斬撃が飛ぶ。


「危ね!!」


 その14は身を捩って避けるが、


「え、何で?」


 避けたつもりが、改めて真っ二つにされた……地面に残った斬撃の痕をよく見ると、俺の手前で三手に分かれている。そうか、避けたつもりが分かれた斬撃に斬られたわけね。

 そうして俺その14も消滅。


 残された俺が二人になったのを確認すると同時に、奴が高速で近寄ってくる。

 ちくしょう、こいつの長剣、リーチが長いうえに、速すぎる!!

 俺は防御に徹して何とか致命傷を避けていくが、こちらの攻撃を当てられる気がしない。人数がもう少しいれば隙を演出できるかもしれないが、分身の増援が来るのにはもう少しかかりそうだ。


「……時間稼ぎ、か」

「まあな。悔しいが、今の力でお前に勝つのは無理そうだ!」


 そう応じると、奴は一瞬目を見開いた。


「言葉が通じるのだな」

「そうだけど?」


 すると奴は後方に跳躍し、構えの力を緩める……しかし残念ながら、俺ではその隙でもつける気がしない。


「其方はなぜ戦う?」

「魔王を倒すため?」

「なぜ我らが王を打ち倒す必要が?」

「世界の平和を守るため?」

「……そういうことか、哀しき被召喚者よ」


 奴は物憂げな顔で改めて剣を鞘に納めた。


「其方は他の者共とは違うようだ、できることならこの地を去るがよい。

 次に出会ったときも我らに刃を向けるのなら、その時は容赦せん」


 いやいや、それだけ言われても分からんし、もうちょい説明が欲しいのだが。

 ところが、


「どりゃーーー!!!!」


 派手な雄叫びと共に、猛スピードで突っ込んできた奴がいる。


「松本か!」

「よう、亜久津。手柄を独り占めしようったって、そうはいかないぜ!!」

「いや、俺ではこいつには勝てんから、足止めに徹するしかできなかった」

「あ、そうなん?ならグッジョブ!俺が来たからにはもう安心だ!」

「いや、それが、相手も引くってよ」

「はあ?何言ってんの?」

「だから、あいつは俺に対して、『逃げろ』って」

「ええ~、亜久津、あんなキモいのと意思疎通しようとしてんの?」


 確かに人間とは見た目が異なるが、キモいは言いすぎじゃないか?むしろあいつは割と、美形な顔立ちだと思うのだが。


「無駄だ、分身の異能を持ちし者よ」

「え、無駄って?」


 しかし松本は、


「ほらあ、あのグギャグギャ言う声もキモいし、何か全身ドロドロじゃん?顔もモロ化けもんだし、まさに悪魔って感じだろ」


 何を言ってるんだ?しかし相手も、


「普通はこうなのだ」


 というだけで、改めて剣を構え直す。


「来るぞ!」

「任せな、手出しすんじゃねえぞ!」


 松本に向かって突っ込んでくる相手の男。相変わらず長剣のリーチを活かしながら、高速で斬撃を飛ばす。

 しかし松本の方もそれは見えているのか、身を屈めて横へと移動。相手の斬撃はまた三つ又に分かれるが、俺その13と違い、松本はしっかりと剣の脇腹で受け流して、反撃に転じる。


 すぐに二人は激突。

 チュイン、チュイン、と、金属同士が高速でぶつかり合う音だけが戦場に響く。長剣のリーチ分、奴が押しているようには見えるが、速さは松本の方が上だ。

 奴の表情から感情は読めないが、松本の方はまだ余裕がある。


「まだまだぁ!!

 『超剣技・瞬連牙(しゅんれんが)』!」


 松本が技名を叫ぶと、途端に剣速が増す……これには奴も焦りを感じたようだ。松本の攻撃を捌きながら、だんだんと後退を始める。


 しかし松本の剣は速さを増し、


「おらあ!」


 気合一閃、ついに相手の長剣を弾く。

 奴の長剣が松本から逸れた、一瞬の隙。


「今だ!『超剣技・豪鋼両断(ごうこうりょうだん)』!」


 松本は振り被った剣を一気に振り落とす。奴も長剣で受け止めようとするが、


「く……」


 松本の剣技は、長剣を真っ二つにしていた。


「む、無念……」


 最後の呟きと共に、奴は胸から血飛沫を飛ばし、そのまま倒れ込む。


「ふう……」


 一息ついている松本……ここまで強いんなら、確かに戦争のエースと自称するのも分かる。


兄様(にいさま)ーーーー!!!」


 あ、向こうから仲間が走ってきた……女の子一人。奴らのことは知らんが、こっちの基準で見るとなかなかの美人だ。髪の色は男と同じ緑、尻尾は蛇みたいでチロチロしている。


「兄様、兄様、しっかり!!」


 発言から察するに、奴の妹だろう。倒れた兄に寄り添い必死に声をかけている。しかし気の毒だが、戦争とはこういうものだ。死ぬときはあっさり死ぬ。


 俺がそんなことを思っていると、


「『超剣技・一刀両断』!!」

「か……は……」


 松本が妹の背中を斬りつけた!?


「おい、松本、何やってんだ!?」

「何って、魔族は殲滅だからな。相変わらず何言ってるか分からんし、俺、こいつらのこのキモい感じ、生理的に無理なんだわ」

「いやいや、女だぞ!?しかもそいつは妹で、兄の死に駆け付けただけだ!」

「はあ?お前こそ何言ってんの?もしかして妄想かなんか?」


 ……話が通じない。ひょっとすると本当に、俺と松本では見えている物が違うのか?

 これは確認が必要だ。本体の方に動いてもらおう。


 ***********************


「ぶは!」


 こちらは俺本体。


「なあ、委員長」

「どうしたの?」

「人型の魔物はいるのか?」

「一応、一種類は確認されている。と言っても、肌がドロドロで顔も鬼のよう、なかなかグロテスクな見た目だよ。声も聞いてて不快になるような感じ。亜久津も、見たらすぐにわかるよ」


 委員長も、か。

 俺の脳裏に「洗脳」という言葉が浮かぶが、今はこれ以上確かめようがない。

 

 魔物たちが退却していく。やはり、松本の斬った人型は敵軍の主要人物だったのだろう。


 ……ん?


 ***********************


 こちらは俺その11、12。最前線にて、松本と敵の様子を伺う。

 人型のうち、残った女の一人が、俺たちとは別方向に手を翳した。


「ファボヤ・イール!」


 すると直径三メートルほどの火球が発生、それが高速度で前方へと進んでいく。

 直撃したらやばそうだぞ、軌道上には誰がいる!?


 ***********************


 俺その11達の情報を受けて、残っている分身たちで情報を共有する。

 魔物たちは火球を避け、退却に徹している。今のところクラスメート達は被害にあっていないが……。


「おい、影野達。やべえのが来る、ここにいると直撃だ」


 そう、火球の軌道上にいるのは、俺その23~26と、影野達四人だ。

 俺は退避を彼らに促すが、


「待って、またあの光が!」


 二階堂の『虫の声』か!


「どうする、二階堂!?」


 逃げかけていた影野が、焦った表情で叫ぶ。


「ごめんだけど、潰しておいた方がよさそう!」

「分かった、お前を信じる!

 菅原、頼む!」

「ええと、ええと……後ろ上方七十度、四十メートル!」

「『拒絶』!」

「『瞬間移動!』」


 おいおい、光は消せているが、いよいよ目前に火球が迫っているぞ!


「に―げーろーー!!!!」


 俺たちは一目散に駆け出す。ギリギリ避けられそうだ!


「あっ……」


 って、菅原がこけた!?

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