面倒なシステム
「亜久津、お前は知らないだろうけど、この五日で、既に二回の戦いがあったんだ。
敵はホントに、ファンタジーの世界のモンスターたちだよ。ドラゴンとか、ゴブリンとか。
でも『アビリティ』はマジ強力だし、ステータスのおかげで身体能力もやべえ。オリンピック選手なんか目じゃないくらいに。
特に俺たちグループの活躍で、今んとこ二回とも圧勝したぜ」
「俺たちグループ?」
「ああ。分かるだろ、お前も。
俺、翔っち、あかりん、響香だよ」
ええと、待て待て。翔っちが花田翔、あかりんが佐々木朱莉、あともう一人は橘響香か。
確かに、クラスで完全に中心となっていた四人だ。全員美男美女。んーと、こういうの何て言うんだっけ……。
「俺は『超剣技』で、とにかく敵を斬りまくる。
翔っちが『偉大魔法師』、雑魚敵は攻撃魔法で一掃だ。
あかりんは『唯一賢者』、敵の弱点を突いてくれるし、ステータスアップや防御の魔法も得意。
それで『慈愛と友愛の癒し手』響香が、体力や状態異常を回復してくれる。
ま、今は俺たち四人がこの戦争のエースって感じ?
ただ、やっぱ戦争だからさ。俺たち四人が手が回る範囲には限りがあるし、そういうところで他のクラスメートも頑張ってくれてる。さすがC組、異世界に来たくらいじゃ、俺らのチームワークは崩れないんだな」
おうおう、すげー得意そうだな。
冒険者時代にもいた気がするな、こういう自信に満ち溢れたルーキーが。大抵数年後に思い出して死ぬほど恥ずかしくなるアレだから、ほどほどにしておいた方がいいぞ。……括弧本人談なわけだが。
俺が自分の黒歴史を掘り起こしかけて秘かにダメージを受けていると、松本は室内の一画を指し示す。
「でもさあ。
俺、驚いたんだけど、使えねえ陰キャって、異世界に来ても使えねえまんまなのな」
すると委員長が声を潜めて松本に言う。
「ちょっと松本君、そんなこと言わなくてもいいじゃない」
「いーや、いいんちょ。そりゃ平和な世界だったら、俺も何も言わんよ?
でもさ、状況は変わったんだ。いくら俺たちが強いとはいえ、この世界は死と隣り合わせ。
そんな中で仲間に役立たずがいるんじゃ、真面目にやってる奴らがとばっちりで怪我するじゃんか」
……否定はしきれん考え、だな。
「という訳で亜久津、あいつらには気を付けた方がいいぞ」
つられて俺も彼らに目を向けると、全員がそれとなく目を逸らした。
「だが彼らにも、『アビリティ』があるんじゃないのか?」
「それがさあ……いいんちょ、解説よろしく」
「え、僕が!?」
「いいじゃん、説明俺より上手いし」
「……はあ。では、僕は事実だけを述べるよ。
菅原拓斗君、『地獄耳』。遠方の様子を聞き取ることができる」
「確かに戦闘が始まったらどうか分からんが、諜報に向く能力じゃないか」
「いーや、亜久津。我らがあかりんの『唯一賢者』の力の一つ、『遠方視』があるからさ。正直このクラスでは要らん能力なんよ」
「そうか。それで、他には?」
「森凛太郎君、『瞬間移動』」
「それはめちゃくちゃ強力じゃないか?」
「それが、五百グラム以下の物しか移動できないらしい」
「ホント、消しゴム移動させてどうすんだって感じ?」
松本の発言は無視する方向で、委員長が続ける。
「二階堂晃君、『虫の声』。五秒先の危険を予知できる」
「五秒か……」
「『危険だ―』って言ってる間に五秒経つっつーの!」
「そして最後に影野深夜君、能力は『拒絶』」
「拒絶?」
「はい。対象に起こる事象を『拒絶』で『なかったこと』にできる……しかし、範囲は十センチメートル四方程度」
「小人でも攻めてくりゃ使えるかもな。ってか、『拒絶』って何か陰険じゃね?やっぱ普段のキャラが能力に反映されんのかねえ。
俺らみたいな陽キャには、陽キャに相応しいアビリティがついたみたいに」
あ、そうそう。陽キャと陰キャ。ドラマで言ってたから、覚えているぞ。正直よく分からんかったが、実際でもそんな話するんだな。
「いいんちょ、ありがと。
とまあそんな感じで、全然使えねえ奴らだから、次の戦いのときにあいつらだけは当てにしない方がいい」
「……忠告感謝するよ」
「ははっ、武士かよ、その言い方」
武士って何だ?
……しかし、こんだけ言いたい放題されているのに、あの影野って奴らは反論しないし、縮こまってばかりだな。俺としては正直松本がうざいんだが、他のクラスメートを見ると、明らかに見て見ぬふりって奴だ。
松本が手をヒラヒラと振りながら去っていく……佐々木朱莉と橘響香に、得意げに声をかけてるな。
「目覚めた奴にはちゃんと説明してあげないとな」
「さすが拓真、親切ね」
「本当、みんなを引っ張りながらフォローもできる、さすがクラスのリーダーです」
「へへっ」
へへっ、じゃねえよ。三人の様子を眺めていると、委員長が申し訳なさそうに声をかけてきた。
「ごめんね、亜久津君、目覚めた早々に変なことになっていて。
松本君、ホントに強くて、お姫様からも注目されていてさ。ちょっと調子に乗っちゃってるんだ」
「いや、委員長が謝ることではないだろう」
だがそう言う委員長も、明らかな悪口を否定することはないんだな……。
これもドラマで見た。第八話。クラス内で暗黙の地位が決まっていて、上位の奴の言うことは絶対になる。「スクールカースト」って言うんだっけ?なかなか面倒くさいシステムだ。
「それで、今はどうしていたらいいんだ?」
「作戦や出兵は、僕たちを召喚した王族達によって管理されている。
作戦の詳細が決まったら、そのうち説明があるよ。それまでは休んでいて大丈夫。
ただ、二回目は相手が攻めてきて、いきなりの出兵だった。防衛に関しては急ぎになるから、あまりだらけ過ぎない方がいいね」
「なるほど、了解した」
そんな会話をしていると、
「皆さん、敵襲です!」
広間の大扉が激しく開けられ、飛び込んできた女性が叫んだ。
かなり上等なドレスを着込んでいるから、恐らく王族か、そうでなくても上の地位の者だろう。
「お、姫さん、あいつら、また攻めてきたのか!」
「松本様、そうなのです!
戦場はアーテクト平野!準備ができている方から、転移陣へ移動を!!」
「おう、今回も俺がぶった切ってやるから、安心してくれよ。
さあ、みんな、四十秒で支度しな!!」
できるわけないだろ。
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松本の仕切りの元、各々が武器や防具を装備する。
俺も促されるままにロングソードを帯刀しつつ、部屋を移動した。
「やあ、ユーゴ君」
どさくさに紛れて話しかけてくる、制服姿の女子。
「お、セイラ。いたのか」
「うん、一応三日前に目覚めたことになってる。どう、この世界は?」
「今までとはまた毛色が違うな。このクラスって奴がやり辛い」
「はは、そうだろうね。ま、とりあえずは様子見で大丈夫だよ。多分次の戦闘で負けることはないだろうし……ストーリー的にね。今は序盤も序盤だから」
「また今後の見通しを教えてくれ」
「うん、この戦いが終わったら話そう」
「頼む」
転移陣とやらの部屋は、先ほどの広間ほどではないものの、二十八人プラス、王国側と見られる兵士数名が、十分に入れる大きさだ。床に複雑な模様が描かれている。
「では、転移を開始します!」
「亜久津君、ここからいきなり戦場にワープするから、心しておいてね!」
委員長が向こうから叫んでくれている。良い奴だな。俺は手を挙げて了解の旨を示した。
床の模様が輝く。眩しさに思わず目を細めていると、目の前が一瞬真っ白になった。
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……終わったか?
ひとまず周囲を確認……向こうの上空に魔物が見える。鳥型のものから、ドラゴンまで。
佐々木が叫んだ。
「見えたわ、二時の方向、前回と同じくらいの数のモンスター!」
「ありがと、あかりん!
さあみんな、ひとまずこれまでと同じで、モンスターの殲滅だ!俺に続けーー!!」
猛スピードで突っ込んでいく松本。
「ちょっと拓真、油断しないでよ!」
「……まったくあいつは。佐々木、フォローに行くぞ!」
「ええ、花田!響香、バックアップお願い!」
「了解です!皆さんも、怪我したらすぐに私の所に来てくださいね!」
花田、佐々木、橘も松本のことを追いかけていき、その他メンバーもそれに続く。
「亜久津君」
「お、委員長」
「初めての戦いだから怖いかもしれないけど、とりあえず僕らは松本君に続いて、倒せそうな奴らを倒していったら大丈夫だから。運動部中心に、彼ら以外にも強い人がいるし」
なるほど、そういう感じなのね。だがまあ。
「いや、俺は『アビリティ』があるから、まずは分身を行かせる」
という訳で、『アビリティ』発動!
さて、まずは分身達で小手調べだ。俺がついていけるレベルの戦闘だといいのだが。




