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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース3/クラス転移:松本拓真(陽キャ)と影野深夜(陰キャ)の場合
23/63

クラス転移の真っ只中へ

珍しく多忙になり、前回更新から間が空いてしまいました……すみません。

【新着】不具合報告

 ◆報告者:夢香様

 ◆作品名:『悪役令嬢として糾弾されたので学校を休学したけど、商会運営が楽しすぎてそんなことはどうでもよくなってきました。』

 ◆報告内容:作品が、想定していない展開に勝手に改変されています。バグか、誰かが操作したのではないでしょうか。原因の究明をお願いします。



 ***********************



 新しい任務が入ったという理由をつけて、貴族院の面々に別れを告げ、俺たちはまたあの黒い空間に戻ってきた。


「寂しい?」

「へっ、別に」

「まーた、強がっちゃって。いいじゃない。寂しいってことは、それだけ仲良くなれたってことだし、そんな人たちをユーゴ君は救ったんだよ」


 分かってるさ、そんなこと。ただ、好きな子の前では弱みを見せたくないのが男の(さが)なのだ。


「えー、たまには弱いところを見せられた方が、ギャップでキュンと来ちゃうと思うけど」

「それは女子側の都合だろ。

 さあ、それで、次はどんな世界に行くんだ?」

「それなんだけど、また予習をしてもらおうかな」


 セイラがパチンと指を鳴らすと、またテレビと箱が出現する。

 箱は前と違う形だが……コントローラはどこだ?


「ユーゴ君、これはディスクプレーヤー。今回はドラマを見てもらいます」

「ドラマ?」

「うん。テレビの中で演劇を見ると思ってもらったらいいよ」

「ほう」


 ***********************


「お゛ーいおいおいおい……」


 何度目かの号泣をするセイラ。

 はいはい、お顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃですよー。俺はティッシュでセイラの顔を拭う。


「ばびがと……」


 数分後には落ち着いたのか、セイラも元に戻る。


「いやあ、何度見ても『銀六先生』は感動するね」


 俺が見せられたのは『3年4組銀六先生』というタイトルのドラマだった。全二十二話の長丁場だったが、先ほどようやく最終回を見終わったところ。一話一時間で、最終話は二時間だったから……うわ、ほとんど二十四時間じゃねえか。

 疲れない、腹も減らない、眠くならない、この空間だからこそできる芸当だな。


「それで、今度はこの『銀六先生』の世界に行くのか?」

「ううん、違うよ」


 違うんかい。


「このドラマは、ボクたちクリエイターの世界感ベースの作品。この『学校』の感じを分かっておいてほしくてね。

 下位世界に移動した際、ボクの力で知識自体を備え付けることはできるけど、雰囲気みたいなものまでは分からないだろうから。

 次の世界も、世界観としてはユーゴ君の元いた世界に近い。剣と魔法の世界。そこに、ある学校の一クラス全員が転移してくる。その時に、みんなが何かしらの能力を授かってね」

「能力?」

「まあ、剣がすごい使えるとか、強力な魔法使いとか、そんな感じ。

 この転移は人為的なもので、その世界の住人が、魔王と戦う勇者として、別の世界から彼らを召喚したって設定かな」

「何だそりゃ、いい迷惑だな」

「まあ普通はそうなるんだけど、ボクらの世界には魔法とかないからさ。そういう世界への憧れって、特に十代の頃は強いんだよね。だから、結構みんなノリノリで戦うことが多いかな」

「そうなのか……大丈夫か、そいつら?」

「まあそこからのパターンは色々なんだけど、今から行く世界の子たちが実際どうなのかが大事だからね。これ以上は、行って見て判断するしかないかな。基礎知識は前みたいに身に着いた状態にしておくし」

「なるほど、分かった」

「じゃあ、早速」


 セイラがパチンと指を鳴らすと、周囲の暗闇が崩れていき、だんだんと世界が変わっていく。最初は驚いたが、今となっては慣れたものだな……つーか、めっちゃ眠いのだが……。

 俺は急激な眠気に身を任せることにした。



 ぐう。


 ***********************


「うーん……」


 柔らかいベッドの感触を確かめながら、俺は身体を起こす。何だか薄暗い部屋のようだ。ドアは開かれており、隣の部屋から灯りが差し込んでいる。


 すると、誰かがドアからこちらを覗き込み、叫んだ。


「おお、亜久津が起きたぞ!」


 ……そうか、俺は今、亜久津悠悟。公立石神高校二年C組の生徒だ。

 頭が覚醒していくにつれ、情報が頭に飛び込んでくる。セイラの仕込みだな。


 あれは、クラス遠足の途中。俺達のクラスのバスが山間のカーブを曲がる際、バイクが強引に内側を抜けようとして。慌ててバスの運転手がハンドルを反対に切ったところ、車輪が道を踏み外し、崖に転落……しかけたところまでは覚えている。女子の悲鳴が頭に残っているな。



 とりあえず俺は、明るい方の部屋へ移動することにした。


 ……やたら豪華だな。まずクラスの三十一名全員が寛げるほどの広さの空間。床には厚手の絨毯が隙間なく敷き詰められている。煌々と光を発するのは、天井からぶら下がる巨大なシャンデリア群。そこかしこにソファやテーブルが置かれており、そのどれもが一級品に見える。クラスメイト達は各々好きな場所で休んでいるようだ。全員が、ドラマで見たような制服姿だな……って、俺もか。

 この世界の生活基準は分からんが、俺の元いた世界なら、こんな部屋、大貴族の邸宅か、下手したら王城にしかないぞ。


 俺が面食らっていると、眼鏡をかけた男子が話しかけている。ええとこいつは、黒田。学級委員長だ。


「亜久津君。気付いたらこんなところにいて訳が分からないだろうが、状況を説明させてくれないか?」


 確か学級委員長ってのは、クラスのまとめ役だったな。それを務めるだけあって、さすがに面倒見がいい。


「ああ、頼む。バスが落ちたところまでは覚えているんだが……」

「そう、僕らを乗せたバスは、崖に落ちかけた。

 だが僕らは全員生きていて、その部屋に寝かされていたんだ。起きる時間には個人差があって、僕は三番目だった。亜久津君、君は二十八番目だよ」

「となると、ほとんど最後の方だな」

「うん。僕が目覚めてからは、既に五日が経つ」

「五日!?そんなに寝てたのか」

「そうなるね。そして、今から言うことが一番非現実的に思えるかもしれないけど……」

「何だ?もったいぶってないで、教えてくれよ」

「うん。ここは、いわゆる異世界にあたる場所だ」

「異世界?」

「最近マンガやアニメでも流行っているだろ?現実とは違う、剣と魔法の世界に行ってしまうような物語が」

「そうなのか?」


 やべ、素が出た。


「亜久津君はそういうの読まないんだな。とにかく、この世界には剣と魔法がある。

 僕らは召喚されて、ここにやってきたんだ」

「な、何だって!?」


 とりあえず驚いてみるが……不自然じゃなかったかな。


「その証拠に、僕らには一人一人『アビリティ』が備わっている」

「アビリティ?」

「うん。例えば僕の『アビリティ』は『状況分析』。その名の通り、状況を的確に分析して、作戦を立案する力さ。

 自分のアビリティについては、意識すれば自然と頭に情報が流れてくるんだ。やってごらんよ」


 委員長の言う通り、『アビリティ』とやらについて意識してみると……なるほど、確かに、俺のアビリティ――『分身』についての情報が把握できる。


「俺の『アビリティ』は『分身』みたいだ。ほら」


 とりあえず、自分のコピーを二つ発生させる。


「俺が本体」

「「俺たち二人がコピー」」

「「「戦闘能力や思考能力は全員全く同じ。コピーの受けたダメージはそのコピーの身に返り、死亡するとコピーは消える。本体への影響はなし。コピーを増やせる人数は込める魔法力量次第」」」


 俺はそこでコピーを消す。


「二人くらいなら、ほとんど魔法力を消費した感じがしないな……十人くらいなら余裕で行けそうだ」


 そこまで言うと、委員長が慌てたように言う。


「ま、待って。その能力、ステータス次第ではかなり強いかも」

「ステータス?」

「うん。ステータスウィンドウを出してみてよ。これが僕の」


 お、何だ?黒田の前に文字が浮かんでいる。ステータスウィンドウ……俺もできるのか?


「お、できた」


 俺の前にも、黒田と同じような文字が並んだ。ええと、何々?


 体力 :B

 筋力 :A

 敏捷 :A

 防御 :B

 魔法力:C

 知力 :B


「らしいぞ」

「す、すごいよ!Sステこそないけど、ほとんどがAとBだし!

 アビリティの魔法力消費量が少ないみたいだから、魔法力がCなのはマイナスにはならないよ」

「そうなのか?」


 俺がピンと来ないでいると、他の男子生徒が声をかけてきた。


「いいんちょ、亜久津はそんなイケそうなのか?」

「松本君」


 そうか、こいつは松本拓真。委員長が役割としてのリーダーなら、松本はクラスの実質的リーダーだった。スポーツが得意なイケメンで、明るい性格から、男女ともに人気がある。

 そんな松本が得意げに言う。


「俺の『アビリティ』は『超剣技』!見ろよ、このステータス」


 体力 :A

 筋力 :S

 敏捷 :S

 防御 :A

 魔法力:B

 知力 :B


 ほう、俺より全然よさそうじゃないか。


「何だかすごそうだな。だが、このステータスやらアビリティやらは、何に使うんだ?」

「そりゃあ、魔族との戦いだよ」

「戦い?」

「あ、松本君、そこはまだ説明できていないんだ。

 亜久津君、僕らはこの世界に召喚されたって言っただろう?」

「ああ、そういう話だったな」

「召喚したのは、ヒューマランド王国の王族達。この国は長年、魔王の支配するガンディビル国と、戦争状態にある。僕たちは、魔王の手から人間たちを守るためにこの世界に召喚されたんだ。世界を超える時に、強力なステータスとアビリティを得る例が多いらしい」

「……」


 俺はその話の時点で碌な想像ができないが、こいつらはそうでもないのだろうか?どう反応したものか迷っていると、松本が言う。


「ゲームで言えば勇者だよ、俺たちは。悪の魔王から世界を救うんだ。

 それでいいんちょ、結局亜久津の能力ってどうなん?Sステはないんだろ?」

「そうなんだけど、アビリティの『分身』で、自分の数を十人とかにできるからね。当然、全員が筋力も敏捷もA。そんな分身達と一緒に、一斉攻撃ができるんだよ」

「あ、なるほど!それは確かに強そうだ!!」


 得心がいったような松本。


「じゃあ、亜久津。共に戦う仲間として、これからよろしくな」


 そう言って松本は、手を差し伸べてきた。まあ一応その手を取ってやるか……。


「ああ、頼む」


 松本は満足げに頷くが、一転、あちらのテーブルにいる男子数名を睨みつけた。


「ほらあ、亜久津も期待できる能力を持ってきたぞ。それに比べてお前らはさあ」


 何だ?何が始まるんだ?

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― 新着の感想 ―
[一言] 報告がいっちゃったね これからが正念場?
2021/07/25 12:59 退会済み
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