神々しい光線の聖なる雨
※2話同時投稿の1話目です!
「ハットリミサコ?」
「ミリアに宿っていた、現世の魂の元の名だよ。その魂がミリアと分離したんだ」
そう言えばミリアとエリザには、ゲームの外側の世界から転生してきた魂が宿っているって話だったな。
「何で急にそんな現象が」
「これまでのミリアの所業は、言ってみれば現世魂である服部美沙子の仕業だ。ユーゴ君がこの場を丸く収めてしまったことで、『ざまぁ』の未来が消滅、溜まっていたZPの残滓が発生。おそらくだけど、それが本来のミリアでなく、服部美沙子の魂に宿ったんじゃないかな。結果、ZPの力を得て今、『クリエイター』の化身として顕現している」
セイラの説明を聞いて、ハットリミサコ……?うーん、何だかしっくりこないな、黒ミリアとかでいいだろ。
その黒ミリアが反応する。
「……ZPのことを知っているなんて、あなた達、何者?」
「さあね。世界への叛逆者、とでも言っておこうか?」
っておいセイラさん、なして敵を煽っちゃうん!?
「えへへ、前回ユーゴ君もやってたから、真似したくなっちゃった」
セイラは自分の頭をコツンと叩き、ペロリと舌を出す……いや、可愛い仕草で誤魔化すんじゃありません!!
「……私の真の敵はあなた達、ということは分かったわ」
ほらあ、敵認定されちゃったじゃねえかよう。
「行きなさい、我が下僕共よ。あの二人を捕らえるの!!」
黒ミリアが命令すると、
「う゛、う゛う゛」
「お゛ー、お゛お゛ー」
「ぐ、が、が」
衛兵たちが呻き声を上げながらこちらに向いた。こわ……目に生気が宿っていない。
「ちぃ!!」
俺は仕方なく剣を抜く。今回もセイラを信じて、強化された肉体の力で戦うしかない……!!
衛兵たちの戦闘力は知らないが、この世界の学生のレベルを見るに、前世の経験がある俺にも分があるはずだ。今回は使い慣れたロングソード、変な手加減はなし。
「おらあ!!」
集団で襲い掛かってくる衛兵たちに対し、全速力で太刀を浴びせる。
一人、二人、三人……とにかく数が多い!!
一人一人に丁寧に対処している暇はない。囲まれないよう動き回って、なるべく短時間で動きを封じるようにしないと。
幸い俺の読みは当たり、衛兵一人一人よりも俺の方が強い……おっと!!
「ユカリザ!?」
「う゛、あ゛、あ゛」
危なくユカリザの奴も斬るところだったが、寸前で刃を止めて、隣にいた衛兵を斬る。
「ユーゴ君、黒ミリアが使っているパーソナリティは、【絶対邪悪】だ!」
「あー、聞いたことある気がするけど、何だっけ!?」
衛兵たちとの立ち回りは維持しながらも、俺はセイラと大声で情報を交わす。
「魔王ロットガルド!演劇でも出てた!」
「そういや、そんなんいたっけな。あれ、実在したのかよ!」
「言ったでしょ、裏ストーリーモード!
あれのボスがロットガルドで、そのパーソナリティは【絶対邪悪】!効力は、少しでも邪心がある人間を操る力なんだ!」
「何だそりゃ、多少の悪い心くらい誰にでもあるだろう!」
「だから、ほとんどの人間が敵になってしまう!!」
「そんなん、どうやって倒すんだよ!!」
「ボクもクリアしてないから、分からないんだってば!!」
するとそこへ、別の声が乱入してくる。
「裏ストーリーモードなら、正しい手順を踏んでいれば、主人公の【魅力的な少女】が覚醒して、【うら若き女神】に変化するの!!」
「エリザ!?」
一瞬驚くが、
「エリザ……いや、川島さん。あなたは裏ストーリーモード、クリアしたんですね?」
セイラがエリザに尋ねる。そうか、エリザにも現世知識が。
「当然よ、私のノブオブ愛を舐めないで!」
「ユーゴ君、『ノブオブ』は『ノブレス・オブリージュ・ラブ!』の略ね!」
「今はそんなことどうでもいいわ!それより『正しい手順』って!?」
「魔王との戦いに至る過程で、いくつかキーとなる選択肢があるの。それら全てで正しい選択をして、人としての徳を積んでおく必要がある!」
「それってつまり、今のミリアの場合は」
「ええ、その手順は踏めていないはずよ」
そこで黒ミリアが勝ち誇ったように笑う。
「裏ストーリーモードの攻略ルートにそこの女は至っていないわ。
つまり、この【絶対邪悪】を破れる者は、この世界に存在しない!
大体そこのエリザも、誰だか知らないその女も、何でそんな美少女なのよ!!どうせ恋愛に傷ついたことなんてないんでしょ。みんな死んでしまえばいいのに!」
またか、後半は意味不明なことを喚き出す。ガリムの時と一緒だな。
だが、まだ手が無くなったわけではないぞ。
俺は起死回生を信じて、衛兵たちから逃げ回りながらも、キーとなる人物の元へ向かう。
まずは白ミリアだ……何だ何だミヒャエルの奴、ちゃっかり彼女の傍に居やがってよ。
「ミリア!」
「な、何、ユーゴさん?」
「君の【魅力的な少女】、俺に貸してくれないか!?
そう念じてくれるだけでいい」
「ええ!?」
「頼む、魔王を倒すのに必要なんだ!」
「わ、分かりました……」
「ユーゴ、俺の【気安い性分】もそうした方がいいか!?」
「いや、お前のは要らね」
「あ、はい……」
シュンとなるミヒャエルはさておき……さあ、来た来た!
【魅力的な少女】のパーソナリティが自身に宿ったのが分かる。
これでベースができた。だがこれでは足りない、あと一人!
俺は更に全速力で、衛兵の間を縫うように駆ける。
「エリザ!」
「私!?」
「ああ、君の【高貴】も、俺に貸すよう念じてくれ!」
「よくわからないけど、とにかくやってみるわ!」
『人としての徳』と聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのはエリザの立ち振る舞いだった。
彼女のパーソナリティの力が、【魅力的な少女】と融合すれば、あるいは……。
【高貴】のパーソナリティが宿るのを感じ始めると、俺の身体からは金色の光が発生した。
「ゲームの覚醒シーンのエフェクトと同じだわ!」
よっしゃ、行けたか!
確かに、パーソナリティが【うら若き女神】へと変わっていくのが分かった。
光がやがて収まると、俺は自身の服装が変わっていることに気付く。
……って、何だこの、ヒラヒラした薄着は!
頭にも何か乗っているな、王冠か?……って違う、ティアラじゃねえか、これ!?
鏡がないので推測するしかないが、俺はおそらく、いわゆる「女神」的な格好をしている。
「うわあ、ユーゴ君、いくらなんでも入り込みすぎ……」
「うん、男がするとキモイ服装トップスリーに入るかも……」
おいおいそこの女子二人、揃って引くんじゃない!!
「あ、でもユーゴ君、見て!!」
セイラが衛兵たちの方を指し示すと、
「おお、女神様」
「女神様が降臨された」
「何とお美しい」
「伝説の通り、気品に溢れておる」
正気を取り戻した衛兵たちが、揃って俺に向かって跪いている。いや、何でだよ。
「女神様」
「女神ユーゴ様」
おい、王子やユカリザたちまで!?
しかし、
「ゲームの時と同じシーンだわ!!」
「そ、そんな、こんなことが……」
エリザと黒ミリアの反応を見るに、本当にゲームではこんな感じみたいだな。
「エリザ、この後はどうすればいい!?」
「必殺技が使えるはずよ。
『セイント・レイン・オブ・ホーリー・レイズ』って叫んでみて!」
「はぁ!?」
だ、ダサい!!
「何を迷ってるの、『セイント・レイン・オブ・ホーリー・レイズ』で魔王を打ち倒すの!」
「ユーゴ君、ここはやるしかないよ!……ぷふっ」
おーい、セイラさん、半笑い!!
……ちくしょう、俺にはもう残された道はないのか!?
俺は必死に頭を回すも、現状を打開する別案など、生まれるべくもなく。
「だー、もう、これ以上痴態を晒してられるか!!
行くぞ、『セイント・レイン・オブ・ホーリー・レイズ』!!」
すると頭上に黄金色の雲が満ち、そこから出た光の雨が、黒ミリアへと降り注いだ。
「ぎゃあーーーーーー!!!!」




