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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース2/ヒロイン・ミリアと、悪役令嬢エリザ(どちらも転生者)の場合
20/63

魅了の対価とは

お待たせしました。

 俺たちが講堂に到着すると、ミリアは王子、取り巻き、エリザの前へと取り立てられた。

 ユカリザの奴が一歩前に踏み出し、憎々し気な表情で述べる。


「殿下。ミリア・ヨハネス嬢が、そのパーソナリティを以て殿下を誘惑した罪は重い。

 ここは、ヨハネス家の爵位を剥奪し、二度と我々の前に姿を表せなくするのが妥当かと」


 待て待て待て。考え得る中でも一等重い刑を即座に提案するんじゃない。


 しかしその声は、意外な人物によって封じられた。


「お待ちください。彼女の処遇に関しては、余罪の有無を明らかにしないと。私から彼女に確認してもよろしいでしょうか?」


 エリザだ。


「うむ、確かにその通りだ。エリザ、私から言えた身ではないかもしれぬが、頼めるだろうか」

「承知しました、殿下。では、ミリア・ヨハネス。

 まず成績改竄の件について、ザップロス先生の証言に、どこか間違いはありましたか?」

「……ありません。先生の言う通り、お願いして成績を書き換えていただきました。

 本当に申し訳ございません。一学期の成績は本来のものとしていただき、その他どんな罰でも受けます」

「殿下に対して、パーソナリティは?」

「……使いました。私はどうしても、姫になりたかったので」

「その他のご友人方には?」

「使いました」

「なぜそんなことを?」

「……必ずプリンセスになる。それが、私の幼い頃からの夢でした。

 それを叶えるためには、この方法がいちばんだと思いました」

「その他に、パーソナリティの使用については?」

「私のパーソナリティは常時発動型です。ただしある程度は、自分の意志で効果を強く発揮したいお相手を選ぶことができます」

「では、今まで話に挙がった、殿下、ユカリザ様、ギュンター様、カール様、ルドガー様、それからザップロス先生。その他に、あなたが意図的にパーソナリティを強めた相手は?」

「殿下達に気に入れられたかっただけです。その他の人の好意を受けてしまうと、逆にいざこざの元になると思い、先生以外には使用しておりません。

 ……あっ、もう一人、パーソナリティを使用した方がおりました。ですが……」

「それはどなたですか?」

「そちらにいる、ユーゴ様です。ですが、ユーゴ様にはパーソナリティが効力を発しているように思えませんでした」

「ユーゴさん、いかがですか?」


 お、俺か?


「確かに、今のミリア様は薬でパーソナリティが抑えられている状態かと存じますが、私としては、ミリア様に対しては以前と変化がありません」


 セイラのおかげなんだけどね。


「そうですか。

 殿下、ミリアのパーソナリティの使用に関しては、校内を中心に、殿方に改めて事情聴取をしていくべきかと。

 成績改竄の件の処遇は、貴族院が決めることですね。

 という訳で、私からは特にこれ以上ありません」


 エリザはテキパキとまとめると、先ほどまで座っていた席へと戻っていく……するとそこで、王子が慌てて呼び止めた。


「ま、待て。君はそれでいいのか?」

「私、ですか?」


 キョトンとするエリザ。


「うむ。だって……」


 王子は何かを言いかけるも、口を噤んでしまう。しかし、


「ああ」


 エリザは察しがついたようにポンと手を叩いた。


「彼女が、そのパーソナリティで虜にした殿下を唆して、私を弾劾させた件ですね?」

「う、うむ、そうだ。弾劾した張本人たる私が言うのも変だとは思うが……」


 狼狽える王子を見て、クスリと笑うエリザ。


「そうですね。確かにその件は、なかなかひどい仕打ちでした」

「す、すまぬ……。

 そうだ、ミリア。それについてはどうなのだ、エリザに、その、虐められたとか言うのは?」

「あの時は自分でもそう思っていました……でも今考えると、確かにエリザ様本人から不当な仕打ちを受けたということは、なかった気がします。申し訳ございませんでした」


 王子は軽く、ミリアは深く、それぞれ頭を下げた。


「ええ、謝っていただきましたので、もういいですよ」

「そ、そうなのか?君が被ってしまった被害は、そう軽いものではないと思うのだが……」

「言われてみればそうかもしれませんが、実は私あの後も、何だかんだ充実した日々を楽しく過ごしていたのですよ。それに……」

「それに?」


 エリザは何だか悲しげな表情でミリアを見遣る。


「この方のパーソナリティも、なかなか酷な代物ではないかと思うので」

「どういうことだ?」

「だって、殿方を魅了できてしまうのですよ。それはつまり、近づいてきた方の気持ちが、彼女のパーソナリティに操られた物なのか、その方の本心からの物なのか、判断できないということではありませんか。自らに向けられた真実の愛を信じられない……それは女性にとって、最も残酷な仕打ちかもしれません」


 エリザに指摘され、ミリアはハッとした表情で顔を上げた。

 うーん、俺も全然気にしていなかったが、確かにその通りだな。そう考えると、なかなか哀れな気分にもなってきた。


 だがまあエリザの件は片付いたので、後は王子たちがどう出るか、だな。


 王子は腕を組んで、何やら考え込んでいる。エリザが話しかけた。


「殿下。()婚約者として、一言よろしいでしょうか?」

「う、うむ」

「【王器(キングオブプリンス)】……今こそ、その器が試されるときですよ」


 すると王子も吹っ切れたように笑う。


「ふっ……確かにな。決めた。ミリア・ヨハネスよ」

「は、はい」

「余罪については、無論今後、その道の者に本腰を入れて調査させる。嘘偽りは暴かれるものと思え」

「はい」

「そして、私に対してパーソナリティを弄した件についてだが……。第三級罪科を与える」

「は、はい……」


 ミリアの声が震える。

 この国では、罪は一級から十級に区分けされており、級数が小さいほど罪が重くなる。第三級ともなると、かなりの重さだな。


「そして具体的には、第三級以上の罪科に適用される、『パーソナリティ剥奪』の刑に処す!」

「そ、それは……」


 そんな刑があるのか、初耳だ。


「王家にのみ伝わる儀式を行い、パーソナリティを剥奪する。剥奪された者には、二度と同じパーソナリティは発現しない。

 ただし、その後別のパーソナリティを得ることは可能である」


 あれ、それってむしろ?

 ミリアも王子の真意に気付いたようで、眼から涙が零れ落ちる。


「殿下……御宥恕に心より感謝いたします」

「……よい。これにより、君には前科が付くことになる。決して甘い措置ではない。

 それに、これはあくまで私への行為に対しての刑だ。他の者への行為については、まだ決着がついておらぬ」


 王子は取り巻き達の方に顔を向けるが、


「殿下。我々も、殿下の御心に従います」


 年長のルドガーが代表して一言述べると、他の面々も頷いている。そりゃあ、自分たちの上司が寛大な対応を見せたのだ。それに逆らえるわけがないだろう。



「よし、これで一件落着であろう。この場は一旦解散とする。

 衛兵よ、彼女を捕らえよ。できれば女性がよいだろう。ただしもう十分に反省している、手荒な真似はするな。衛兵長は、引き続き調査の指揮を取れ。

 ……エリザ、君には少し話がある。後で中庭に来てくれないか」

「はい、分かりました」


 王子の指示に従い、衛兵がミリアを軽く拘束するが、彼女が抵抗することはない。他の衛兵たちも退去し始める。


 さて、王子の言う通り、これで事態が収まるといいのだが……。



 しかし嫌な予感とは的中するものだ。


「な、何なの!?」


 ミリアを連行していた若い女性の衛兵が叫んだ。


「こんな……こんなはずじゃ……」


 ミリアは何だかブツブツと呟いており、見ると、どす黒い靄が噴出している。


 出たな、ZPの残滓、『クリエイター』の亡霊!


 しかし前回と違い、靄は勢いよくミリアから噴き出すと、講堂の誰もいない一画へと溜まっていく。

 何だ何だ、だんだん人の形をしてきたな。


「どうして……何が起こったのよ……」

「ミリアが二人!?」


 ミヒャエルが叫ぶ。

 確かにそこには、ミリアに瓜二つの女が俯いて立っていた。ただしミリアは透き通るような白い肌なのに対し、靄から出現した方の女の肌は浅黒い。


 バタン、と講堂のドアが開く。


「ユーゴ君!」

「セイラ!」


 セイラは黒い方のミリアを睨みながら叫んだ。


「……出たな、服部美沙子!!」


 誰ですか!?

あと1,2話でケース2終了です。(ケース1の「あと1話」予告は失敗したので、バッファを持たせてみた)

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