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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース2/ヒロイン・ミリアと、悪役令嬢エリザ(どちらも転生者)の場合
19/63

秘めていた想い

 講堂を出るとすぐに短い渡り廊下がある。

 ざっと左右を見渡すも足跡はないから、そのまま校舎に入ったのだろう。


 そう判断して俺も渡り廊下を走る。


 学校という建物は敷地面積が広く、中もわりかし入り組んでいる。隠れる場所も多く、追手をやり過ごして窓から脱出、なんてことも簡単だ。


 ……というわけで、見失いました。

 目撃情報を得ようにも、ほぼ全生徒が講堂にいるわけで。


 俺はひとまず、校舎の外に出ることにした。

 建物内にいるのなら、人海戦術でそのうち見つけられるだろうが、敷地外に出られると後が厄介だからだ。

 俺は、見つけることよりも、逃さないことを重視して巡回を続けることにした。


 しばらくすると、ガヤガヤと話し声が聞こえてくる。講堂の生徒達が解散したのだろう。

 さあ、校舎内にいるのなら、見つかる可能性が上がっていくぞ。


 そうしていると、


「ユーゴさん!」


 俺の名を呼んだのは、カールだった。


「こんなところにいたんですね」

「とりあえず外に逃がさないよう、見張りを続けておりました」

「なるほど。もうすぐ、衛兵隊が来ますよ」

「え、衛兵!?」


 ガチの軍じゃねえか、どういうことだ。


「ミリアは今や、王子を誑かし王女の座を得ようとした、詐欺師ですからね」


 ……なるほどね。そういう見方もできるか。

 だがそうなるともう、見つかるのは時間の問題だな。


「……分かりました。念のため、もう一度あらかた探してみて、見つからなければ引き上げます。殿下にもそうお伝えください」

「はい、よろしくお願いします」


 ***********************


 校舎内にも日常が戻ってきた今、探すなら普段は人の気配が少ない所がいいだろう。

 というわけで一階から、倉庫や空き教室などを重点的に探す。


 そうして三階の、今は使われていない音楽準備室を訪れたとき。


「なあ、自分から謝った方がいいって!!」

「何よ、私はもうおしまいよ!!

 こうなったら何としても逃げ切るわ。あなたもどこかへ行ってよ!」


 男女二人の言い争いが聞こえる……言わずもがな、ミリアとミヒャエルだ。


「王子を騙してたんだ、衛兵隊が呼ばれてるぞ。逃げ切れるわけないって!」

「いえ、時間が経てば【魅力的な少女(チャーミングガール)】が復活するわ。そうなれば、衛兵の一人や二人、私の意のままよ」

「その場がどうにかなっても、いつか絶対に捕まる。パーソナリティ対策は、衛兵ならお手の物だろ。これ以上罪を重ねずに、素直に頭を下げた方がいいって!

 お前も知っているだろ、ユーゴって奴。あいつは友達だから、何とかお前の処遇を軽くしてもらえないか、俺からも頼んでみるよ」

「あのユーゴって人も信用できないわ。何だか、私のパーソナリティが効いてないみたいだし」

「何だよお前、今のパーソナリティが発現してから、やっぱりおかしいぞ?

 昔は、『自分の魅力で勝負する』って言ってたじゃないか」

「このパーソナリティなら、逆ハーレムエンドを迎えられるはずなの!!私には分かる!!何も知らない癖に、偉そうなこと言ってんじゃないわよ!

 大体、何であなたにも【魅力的な少女(チャーミングガール)】が効かないの!?男は、みんな私の虜なのに!!」

「効いてるさ!!」


 ミヒャエルが更に声を荒げると、さすがに驚いたのか、ミリアも一瞬言葉を失っている。


「俺が、どんだけお前のこと見てきたと思ってんだ!!


 強気な性格!

 夢に向かってひたむきな姿!

 努力を惜しまない!

 意外と面倒見がいい!

 たまに見せる笑顔がたまらなく可愛い!

 

 俺はな、子供ん時からお前に魅せられてんだ。

 今更ちょっとパーソナリティが出てきたところで、そう簡単に変わるもんか」

「ミヒャエル……」


 二人の間に流れる無言の空気。


 気配を最大限に殺す俺。


 ミヒャエルの元へと駆け寄るミリア。

 優しく抱き締めるミヒャエル。


 姿を現すタイミングを完全に見失った俺。


 うーん、ミヒャエルには悪いが、このままこうしているわけにもいかんし、どうしたものか……。

 しかし時間が経過すれば、衛兵の捜索網が広がっていくのは自然の摂理。


「おい、こっちから声がしたらしいぞ!」

 

 向こうの方から叫び声が聞こえる。

 そりゃああれだけ大声で話し合ってたんだ、さすがに誰かに気付かれたか。


 ドタバタと衛兵の足音が向かってくるので、俺は仕方なく立ち上がる。


「衛兵の皆さまですか?お疲れ様です。私はユーゴ・アクツエル。殿下の用心棒を任されております」


 衛兵は五人一組で行動しているようで、俺はとりあえず、リーダー格らしき少し年上の男に声をかけた。


「おお、ユーゴ殿。殿下よりお名前は伺っております。

 事の発端の時から、噂の女狐を追っておられるとか」

「ええ。残念ながら、まだ発見できていないのですが。どうも上で大きな声が聞こえたようですね」

「あ、三階かと思いましたが、もう一つ上でしたか。それではユーゴ殿、一緒に上がりましょう」

「いえ、ひょっとしたら、こちらの動きに気付かれて、反対側の階段から移動されるかもしれません。私はそちらへ回りますよ」

「なるほど、さすがに貴族院内の地理に詳しい。それでは、よろしくお願いします」

「ええ」


 方向転換して去っていく衛兵たち。これで少しの時間は稼げた。


「……さて、お二人さん。これでよかったか?」

「ユーゴ……」

「ユーゴ、さん……」


 音楽準備室から出てくるミヒャエルとミリア。


「さて、ミリア。あまり多くは語れないが、俺は君と同類だ」

「同類?」

「『ノブレス・オブリージュ・ラブ』」


 俺がゲームの名を出すと、ミリアはハッとした表情になる。おそらく、俺も現世知識の持ち主だと思ったことだろう。


「じゃあ、あなたはどうして……」

「君を救うため。

 君は知らないだろうが、これは罠だ。大きな意志が、君を破滅に導こうとしている」

「ど、どういうこと?」

「すまないが、説明はまだできない。

 とりあえず俺と来てほしい。まずは王子に謝るんだ。その際は、俺も情状酌量を乞う。ミヒャエルの言う通り、これ以上状況を悪化させてはいけない。

 ……ミヒャエル、それでいいか?」

「あ、ああ。すまん、ユーゴ」

「いいって。友達だろ?」


 俺はミヒャエルに、精一杯のキメ顔で告げてやった。


「あ、ありがとうございます……」


 何故か他人行儀なミヒャエルの態度は置いておいて、ひとまず講堂に戻ることにする……そんなにキモいか?俺のキメ顔。

 道中、先の衛兵たちと再会。ミリアの引き渡しを要求されるが、パーソナリティへの耐性がないと危険だとか理由を付けて、俺の方で対処する形を通す。

 衛兵たちは数を増し、俺たちの前後を固めて一緒に移動することとなった。さあ、いよいよ物々しくなってきたぞ。


「ねえ、ミヒャエル。私、どうなるのかな?」

「相手は雲の上のお人だ。俺も誠心誠意一緒に謝るが、果たしてどうなるか……」

「そうだよね……」


 暗い顔の二人に、俺は思うところを告げる。


「客観的に見れば、ミリアの罪は二つ。

 一つ目は、ザップロス先生の件。もう一つは、エリザに虐められたなど嘘を吐いて、王子たちを唆した件。

 この二点に関しては弁解の余地はないが、ザップロス先生の処遇は決まってるし、エリザも、結果的にだが実力を増して帰還した。それほど重い罰を下すことでもないように思う。

 ザップロス先生に関しては、再試の実施と反省文ってとこか?

 エリザとは、本人との話し合いがどうなるかによるだろうが、彼女もできた人間だしな」

「でも、ミリアが王子たちを騙していた件は……」

「騙してはないだろ」

「え?」

「確かにパーソナリティが原因だったろうが、結局は、あいつらが勝手にミリアを称賛してただけだろ。俺やお前みたいに、パーソナリティの影響がない奴もいるんだ、意志の弱いあいつらが悪い」

「いやまあ、言われてみればそうかもしれないけどさあ……」

「そうなんだよ。あいつら、プライドだけは無駄に一流だからな。自分の否とは絶対認めず、難癖付けてくる可能性が高い。なあ、ミリア?」

「え、ええ。ユカリザ辺りはそんな気がする」

「だろ」

「じゃあ、どうするんだよ?」

「王子に賭ける。ミリアの処遇は、王子をどう説得できるかにかかっている」


 そうして、改めて講堂へと到着した。

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