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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース2/ヒロイン・ミリアと、悪役令嬢エリザ(どちらも転生者)の場合
16/63

意外な関係

 そんなこんなで、更に一ヶ月。

 苦行は相変わらずだったが、精神がそれに慣れ、とりあえずは何事もなく過ごせていた時分。


 ニール王子が、用事で数日間貴族院を欠席することになった。これは王子のみの話で、ミリアや取り巻きたちは普段通りの学校生活を送っている……いや、千載一遇のチャンスとばかりに、取り巻き共のナンバーツー争いは過激化しているが。


 俺としては護衛対象がいなくなったことで、奴らと行動を共にする必要性もなくなった。ということで、その期間の休日。俺はセイラと共に、兼ねてより目論んでいた平民街へ繰り出すことにした。


「さてユーゴ君、どこへ行きたい?」

「とりあえず来てみたとはいえ、どこに何があるかは何も知らないんだよな。セイラはどうだ?行きたいところは?」

「いやいや、今日はユーゴ君のための休日だからね。ボクが行きたいところに行っても仕方がないよ。よーしじゃあ、今日のデートはボクがエスコートしてしんぜよう」

「助かる……つっても、デートじゃねえだろ」

「え、違うの?」


 違うだろ……いや、違わんか?ま、何でもいいか。


「今日はボクの力で変装も完璧だから、思う存分いちゃつけるよ」

「するか!!」


 いちゃつきはさておき、変装の件は本当だ。何せ顔形から完全に変わっている。これは女神たるセイラの力の賜物だった。


「デートの定番と言えば映画……はこの世界にないから、演劇でも見ようか。『勇者マリウスとビュッヘンドルフの秘宝』だって」


 演劇か。前世で子供のときに見たのが最後だったが、良いかもしれない。



 ……演劇は面白かった。

 勇者マリウスが、魔王ロットガルドを倒すために旅する物語。

 戦闘シーンの迫力がなかなかで、戦いにおいてはパーソナリティが駆使されるのがこの世界ならではだった。

 勇者のパーソナリティは『黄金の剣使い』なのに対し、魔王は『絶対邪悪』。

 魔王の圧倒的なパーソナリティに苦しめられる勇者だが、駆け付けた姫が渡した『ビュッヘンドルフの秘宝』、これがパーソナリティを無効にするという効力で、それをかざすと形勢は逆転、勇者が勝利して、ハッピーエンド。


「予想以上に面白かった」

「そうだね。ふふふ、楽しんでくれたならよかったよ」

「しかし、この世界にも勇者や魔王がいるのだろうか」

「勇者はいないけど、魔王はいるよ」

「へえ、そうなのか?」

「うん。

 ユーゴ君は知らないだろうけど、このゲームには裏ストーリーモードがあって、そっちでは、隣国との水面下での戦争がテーマになっているんだ。その戦争をけしかけているのが、魔王だったはず」

「何だ、セイラも知らないのか」

「結構アクション要素強めの、ヘビーユーザー向け仕様だったから、ボクはクリアできなかったんだ」

「なるほど」


 そんな話をしていると、何やら刺激的な匂いがしてくる……何とも食欲をそそられる香りだ。


「これ、何の匂いだ?」


 俺が尋ねるも、セイラは一瞬考え込む素振りを見せる。


「……あ、ごめん。あのお店からするよね。

 ちょうどお昼時だし、ご飯にしようか」

「ああ」


 

 件の店には既に行列ができていた。そりゃそうだろう、飯時にこんな匂いを漂わせているのだから。

 俺は最後尾に並んでいるおじさんに聞いてみる。


「すみません、あのレストランに並んでるんですか?」

「ああ、そうだよ」

「人気の正体は、この匂い?何の匂いですか、これ?」

「先週からこのレストランが新しく始めた、『カレー』という食べ物さ。ライスの上に、肉や野菜を混ぜたルーをかけて食べるんだ。結構辛いんだけど、それがまた食欲を煽って、ぺろりと食べられちゃうんだな、これが」

「へえ、美味しそうですね。俺らも並んでみます」


 そうして待つこと三十分、ようやく店内に入ることができ、早速カレーとやらを注文する。

 多少待たされるかと思っていたが、予想に反して料理はすぐにサーブされた。


「このスプーンで掬って食べるのか」


 ……旨い!!何だこれは!?

 先のおじさんが言っていた通り、舌に多少刺激が来る辛さだが、それが逆に良い具合に食欲を搔き立てる。さっきから、スプーンを口に運ぶ手が止まらない。それに、ゴロっと大きめのジャガイモやニンジン、豚肉が良い仕事をしており、具材にルーが絡んで、ライスによく合っている。


「……ふう、旨かった」

「ご馳走様。

 ……ユーゴ君。これ多分、この世界にはない食べ物だよ」

「何だ?どういうことだ?」

「正確には、ゲーム『ノブレス・オブリージュ・ラブ!』の世界、だね」

「ええと、つまり?」

「ボクらのような『ゲーム世界の外側の人間』が仕掛けたんだ」

「ゲームの外側……ミリアとエリザか!」


 しかしこの一ヶ月、俺はほとんどの時間を王子の護衛として過ごしており、必然、ミリアも傍にいたことになる。しかし彼女が何かしている素振りはなかった。と言うことは――


「エリザの方か」

「うん。貴族院を休んで、何かしているんだ。

 実はこのカレー、ボクら、つまり『クリエイター』の住む国の大衆料理なんだ。

 そして『クリエイター』の作るストーリーの中に、異世界でその世界にない知識を持ち込むことで地位を得る、所謂『知識チート』って分野がある。今回は多分それだよ」

「エリザがゲームの外の知識をこの世界に持ち込んだと?」

「うん、多分ね。つまり、この世界の『ストーリー』は着実に進んでいる」


 げ、こんなところで油を売っている場合じゃなかったか……?

 俺が一瞬焦っていると、


「カレーよ、カレーだわ!!まさかこの世界でカレーが食べられるなんて!!」


 俺の後ろの席から、若い女性の声が聞こえてくる――と言うかこの声は、まさか。

 

「ちょ、ミリア、あんまり大きな声を出すとバレるぞ。お忍びなんだからな」


 やっぱりお嬢様の声だ……って、ちょっと待て。今の男の声は!?


「うるさいわねミヒャエル、私のこの感動は、あんたには分からないわよ」

「……へいへい。程々にな」

「うーん、美味しい!この味、匂い、まさにカレーだわ!!」

「確かに、なかなか旨いのは認める」


 ミヒャエルだと?なぜこの二人がこんな所に?


 俺は思わず振り向いて声をかけようとするが、


「待って、ユーゴ君」


 セイラに引き留められた。


「今はダメだよ。忘れちゃったの?変装のこと」

「げ、そうか」


 そうだった。ミリアやミヒャエルは、髪形や服装、帽子で誤魔化した変装だが、知り合いが見れば、すぐに本人達だと見抜かれてしまうだろう。

 一方、俺たちの方は訳が違う。顔まで変えてしまっており、今は普通の平民。慣れ慣れしく貴族様に声をかけられる身ではない。


「危ないところだった、助かった」

「いえいえ」


 とりあえず、二人の会話に耳を(そばだ)てておくか。


「ニール殿下とは、上手くやってんのか?」

「そりゃもうバッチリよ。彼は私に夢中、周りのイケメンたちもね」

「そいつはよかったな。お前、小さい頃から言ってたもんな。『私はお姫様になる』って」

「まあね。ようやく、その夢の実現が見える所まで来れたわ」

「そうかい。で、今日は何でまた急に俺を誘ったんだ?」

「息抜きよ。彼が公務で貴族院からいなくなるし、珍しく私はダメって言われちゃったし。

 他の彼らと遊んでもいいんだけど、たまには羽根を伸ばしたいじゃない」

「それで、お前の本性を知る俺に白羽の矢が立った、と」

「感謝しなさいよ?校内の話題筆頭の美少女に誘われたんだから」

「ま、俺も久しぶりにゆっくり話せて、よかったと思ってるよ。元気そうで安心した」

「何よ、昔から心配性なんだから。言ってるでしょ、私は大丈夫って」


 何だ何だこいつら、随分仲良さそうだな。

 ミリアは普段被っている猫を置いてきたようで、随分と雰囲気が違うが、こっちが素なのだろう。正直、素の方が魅力的な気もするが、それは俺が平民だからか?


「……お客さん」


 何だよおい、邪魔するな。


「お客さん、後が(つか)えてるんでね。食べ終わったらなら、席を空けてくれないか」


 あっちの会話に夢中になっていた俺だが、顔を上げると、そこには渋い表情の店員が。


「あ、すみません……」


 仕方ない、店を出るしかあるまい。


「待ち伏せしてみる?」

「そうするか」


 そして程なくして、ミリアとミヒャエルの二人も退店してきた。


「じゃ、私は貴族院に戻るから」

「もう良いのか?」

「ええ。午前中で結構満喫できたし、何よりカレーが食べられたから、もう満足よ。

 ……あんまり別行動すると、ユカリザとかが五月蠅いのよね」

「そうかい。じゃ、俺も帰ろうか。途中まで送るよ、お前の身に何かあったら、今や洒落じゃなく政治問題に発展しそうだ」

「そうね、お願いしようかしら。でも学校に戻るのは別々でね」

「へいへい、お姫様」


 どうやらこれでお開きのようだな。


「ボクらも帰る?」

「……そうするか。正直、二人の関係が気になって、遊んでも楽しめない気がする。……すまん」

「いいよ、ボクも気になるから」


 ***********************


 そしてその夜。

 日中は、運悪く奴を捕まえることができなかった。

 おかげで気になりすぎて、夜になるまでが異常に長く感じたが、さすがにこの時間なら戻ってるだろ。

 俺は、ミヒャエルの部屋のドアをノックした。

面白そう!

って思っていただけたら、☆でもブクマでも感想でも、反応をいただけると、執筆の励みになります!

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