人生最大の苦行、神クラスの癒し
「ユーゴ様、本当にお強いんですね!」
試合がお開きとなった後、早速ミリアが話しかけてくる。
すると、あれだけ俺に興味のなさげだった連中も即座に反応した。
「ええ、あんな闘い方、どこで学んだんですか?」
とカール、可愛い系男子。
「ユーゴ殿、先ほどは失礼した。しかしあなたは、我々に取り入りたいばかりで実力の伴わない下級貴族とは異なるようだ」
これはユカリザ、知的眼鏡男子。
「ユーゴ君の力は、誰かに習ったというより、実戦の中で磨いていったという印象を受ける……一体その歳でどれだけの修羅場を潜ったのやら」
最後にルドガー、大人の男の色気。
つーか何だお前ら、急にグイグイ来るな。ってか怖い、笑顔の癖に眼が笑ってない。
俺が適当に答えていると、王子は後ろの方で、
「うむ、ユーゴも新たな仲間として、我々に馴染めそうだな。よかったよかった」
とご満悦だ。
男共の質問攻め、もといミリアへのブロッキングがひと段落つくと、元凶たる彼女が俺に声をかけてくる。
「ユーゴ様、ニール王子の護衛なのはもちろんですが、私のことも守ってくれますか?」
ドクン。
……く、何だ、この胸の動悸は。
人差し指を下唇にあて、上目遣いでこちらを見つめてくるミリア。
頭ではあざとい演技だと分かっているのに、その思考がだんだんとぼやけていく……。
いかんいかん、惑わされるな。
「ええ、もちろん。将来の王妃となられるお方、その身は王子の身と同義でございましょう」
何とか正気に戻った俺は適当に返答しておく。危ない危ない、これが【魅力的な少女】のパーソナリティか。回避できたのはセイラのおかげだろうが、これは確かに、思春期の男共には絶大な効果を発揮するだろうな。
「はっはっはっ、よくわかっているではないか」
ミリアのパーソナリティに最も篭絡されているであろう少年が、大様に笑った。
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一週間が経った。
ひとまず、王子達のグループと行動を共にできるようになった俺だが……。
「そ、想像以上にしんどい……」
「あはは、珍しいね、ユーゴ君が弱音を吐くなんて」
夕食後、中庭でセイラと合流。一応周りから見えにくい位置のベンチを選んで腰かける。好き好んで夜に外出しようとする貴族は稀であり、俺たち以外の人気はない。
ちなみに貴族院は基本寮制であるが、王子を筆頭にやんごとなき身分の者は例外である。政治的には当然の措置だな。
「まず根本的に話が合わん。将来国政を背負って立つ身、それを自覚した言動と言えば聞こえは良いかもしれんが、選民意識が強すぎて、価値観に同意できん」
「ユーゴ君、ホントは平民だしね」
「それに事ある度に発生するミリアの礼賛。これも参加しないと白い目で見られるから、適当に口裏を合わせておくけどな。からくりの分かっている側としては、ひどい茶番でしかない」
「おー、ユーゴ君がいつになく毒舌だ」
「そして男共の嫉妬。
王子はまだいい。明確に身分が上だし、ミリアとは一応正式な婚約者同士だ。
だが取り巻き共は、皆ミリアに対しナンバーツーの座を狙っている。王子以外の誰かが抜きん出ようとするのを、他の奴らが絶対に許さない。しかも思惑が見え見えなのに、全員がそんな魂胆などないように振る舞ってるのが、正直痛々しい。
……すまんな、愚痴ばかりで」
本当に、言ってて自分が嫌になるが、吐かないとやっていけないほどには俺もキテるってことか。
「ユーゴ君」
「ん?」
セイラが何やらクイクイと手招きしている。何だ?そんなに距離が離れているわけでもないのに。
俺はセイラの意図が分からず彼女に頭だけ近づけると、
「えいっ!」
うおい!
急に頭を引き寄せられ、変な声が出そうになった。
「よしよし、ユーゴ君は頑張ってるよ。ボクの願いのために、ありがとね」
俺の後頭部を優しく撫でるセイラ……そして顔面には、柔らかな双丘が。大きすぎず小さすぎず、適度に張りがあるも絶妙な柔らかさ。さすがは女神だな。
「って、堪能してる場合か!!」
俺はセイラの手を振り解き、周囲を確認する。こんなところ誰かに見られたら、洒落にならんぜよ!
「あはは、『ぜよ』って、どんだけ動揺してるの」
「な、お前がいきなりそんなことするからだろうが」
「いやあ、つい。でもその割には、しばらくされるがままだったね」
「……思考がフリーズしてた。やっぱ疲れてんのか、俺?」
「そうかもね。大丈夫、周りには誰もいないから。ボクも、最近人気急上昇中の戦士様に手を出したとなれば、女子の中での立ち位置が微妙になっちゃうし」
「ん?どういうことだ?」
人気急上昇中?
「あれ、知らないの?
王子とその取り巻き達って、曲がりなりにもタイプの違うイケメン揃いじゃない。
それに急遽参入した中流貴族の一年生、圧倒的な強さと実直な雰囲気で、最近の女子たちの注目の的だよ。今までノーマークだった!って」
「げ、そうなのか」
「嬉しくないの?」
「どうなんだろうな、分からん。昔はモテたい願望もそれなりにあったが、今となってはなあ」
まあいろいろ経験したからな。そう考えると俺、老けたのか……。
「ボクは嬉しいけどね、ユーゴ君のカッコよさにみんなが気付いてくれて」
「……俺としちゃあ、知らない多数の女子からの評判より、目の前のたった一人にどう思われているかの方が大事だよ」
「……またカッコいいこと言っちゃって」
「ん、俺も今のはカッコつけすぎた気がする」
「あはは。
じゃあラブコメいてみるのはこれくらいにして、報告。
まずミリアの女子からの評判だけど、意外とそこまで悪くない。【魅力的な少女】のパーソナリティは、女子にも効くみたい。恋愛対象って言うよりも、「こんなに可愛いあの子なら仕方ない」みたいな感じかな」
「そうなのか。じゃあ、その路線で転落、ということはなさそうだな」
「うん。
次にエリザのことだけど、彼女、実家に帰ったよ」
「そうなのか?てっきり、残って抗戦するものかと思っていたが」
「ただ、貴族院には在籍している。テストで好成績を残すって条件で、欠席を認めてもらっているみたい。つまり、諦めて退散した、というわけではなさそうだね」
「逆転のための何かを狙っている?」
「うん。それが何なのかはボクにも分からないけれど、そのうち絶対エリザは動くだろうね」
「そうか。それまでに俺は何ができるか、だな」
そんな情報をやり取りして、今日はいったんお開きだ。
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寮に戻ると、談話室ではミヒャエルが読書していた。そういえば久しぶりだな、ここ一週間、王子にへばりついてたし。
「よう、ご無沙汰」
「ユーゴ、待ってたよ」
「待ってた?俺を?」
「うん。ニール殿下の用心棒をしているんだってね」
「ああ、一応な」
「大丈夫?」
「大丈夫とは?」
「遠目に見た感じ、あの中に入って、何だか無理しているように見えたからさ」
……全く、こいつにも頭が上がらないな。さすがのコミュ力だ。
「おう、ありがとよ。まあ疲れることもあるが、自分の選んだ道だ」
「分かるよ。俺たち貴族にとって、自家より上位の貴族との繋がりは死活問題だからね。そこをとやかく言うつもりはない」
「理解が早くて助かる」
「ま、たまには息抜きもしなよ。殿下たちには適当な理由をつけてさ。例えば庶民街へ繰り出したりとか」
「……そんなことできるのか?」
自身の領地ならいざ知らず、他都市ならば、貴族は貴族街で活動するのが常識だ。物価、売買物の質、治安が段違いだからな。
とは言え正体庶民の俺としては、あっちの世界が恋しいのも事実ではある。
「変装で身分を隠してね。下位貴族なら結構いるよ?お忍びで平民街に行く人たち。上位貴族はさすがに稀だけど」
そうなのか。良いこと聞いたな、今度行ってみようかな。
面白そう!
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