性悪ヒロインと正義の悪役令嬢
※※当初キャラ名の案「エイミ」でしたが、エリザとちょっと似てしまったなと思い、「ミリア」に変更いたします。すみません;;※※
エリザ嬢が去ったことにより、ギャラリーの生徒達も三々五々捌けていく中、セイラが俺に小声で話しかけた。
「ユーゴ君、見た?あの貌」
「ああ、なかなか腹黒そうではあった」
「ね。何だか昼ドラ女優みたいで、ボク、鳥肌立っちゃった」
昼ドラはよく分からんが、見る者に悪寒を覚えさせるような仕草であったことは確かだ。
しかし、主人公のパーソナリティは【純真】だった気がするが、全くそんな雰囲気はなかったな。
「ユーゴ君は知らないと思うけど、ここは多分、逆ハールートの世界だ」
「どういうことだ?」
「ユーゴ君が攻略したのは、王子、ギュンター、カールのルートだっけ?」
「ああ」
「他にも攻略可能キャラがあと三人いて、全員を攻略すると、逆ハーモードが解放される」
「その『逆ハー』ってのは何だ?」
「『逆ハーレム』の略。要は、全員に好かれるってことだね。王子が筆頭になるんだけど、他の五人も主人公のことが好きで、全員にチヤホヤされながら幸せに暮らしましたとさ、っていうエンディング」
「うわあ……」
ちょっと引くわ。
「そういうのを求めるユーザーが多いってこと。
それでね、逆ハールートでは、主人公のパーソナリティが【魅力的な少女】に変わるんだ」
「まあ、【純真】なのに、何人もの相手と関係を結ぶのはおかしいもんな。でもそのパーソナリティも、そんなに悪影響があるようには思えんが」
「ユーゴ君、残念ながら騙されてるよ。マイルドな響きに誤魔化されちゃうけど、これは男を自身の虜にするという、魔性のパーソナリティなんだ」
そいつはやべえな。
「一応ボクの力で、ユーゴ君には効かないようにしてあるけどね。彼女の近くの男は、彼女の下僕と思った方がいい」
「そうか……今回はなかなかハードそうだな。
ところで『ざまぁ』とやらは今回どうなるのか、もう一度説明してくれないか?」
一応、ここに来る前に一度聞いたんだけど、ややこしくてな。前回は自分と似たようなケースだったから、すんなり理解できたんだが。
「いいよ。まずこの世界の主人公は、エリザ。
さて、ゲーム内で彼女はどんなキャラだった?」
「王子の婚約者。ゲームの主人公に対し、下級貴族の身でありながら王子達と急速に近づいたということで嫉妬し、色んな嫌がらせをしてくる女。まあそれは王子にばれて、今日のように罰が下る訳だが」
「それがゲームでの印象だよね。でもこの下位世界において、ミリアの受けたエリザによる仕打ちは、全てミリアの勘違いか、別の人物によるものなんだ。
それでエリザは実は、ゲームの世界の外側からやって来た転生者。ちょうどボクたちみたいにね」
「そう言ってたな。更にミリアも、か」
「そ。ボクたちがこの世界がゲームだと知ってて先の展開が分かっているのと同じく、彼女らも未来を予測しながら行動している。ミリアは逆ハールートを完遂するため、エリザは悪役令嬢としての破滅を回避するため。
ちなみに性悪なのはミリアだよ。正確に言うと、ミリアに乗り移っている転生者の人格がね」
「それであの笑みか。
ところでエリザの方だが、ゲームの展開を知っているんだろう?何故すんなり今日の婚約破棄を受け入れたんだ?」
「それは仕方ないね。エリザに転生者の人格が入り込んだのは、ついさっきだから。ほら、ちょっとよろめいてたでしょ?」
確かに、おかしいと思ったんだ。
「ついでに言うと、現段階では傍観してもらった理由もそこにあるんだ。
実はこの下位世界の『ストーリー』、公開自体は、さっきの婚約破棄のシーンから始まるんだよ。
『ざまぁ』阻止は、ある程度ZPの期待値が貯まってからじゃないと、次の活動への力を得られないからね。序盤で潰しても効果が薄いんだ。
つまりボクらの目的は、これからミリアに訪れるであろうエリザからの反撃に備え、ミリアに対する『ざまぁ』の発生を防ぐこと」
「なるほどねえ……」
だがその話だと、悪いのはミリアで、それに対し罰が下されるってことだからな。それをわざわざ阻止するとなると、気が進む話ではない。
「ユーゴ君、ミリアも『クリエイター』の被害者だよ。大事なのは奴らに好き勝手させないこと。それに『罰』といっても『ざまぁ』だからね。放っておくと、想像以上にひどい顛末になるよ」
「まあその通りか。じゃあ、エリザとミリア、俺らはどっちについておくべきだ?」
「ミリアだね。エリザの方は主人公だし、放っておいてもどうにかなるよ。ミリアがどうなるかを注視しておいた方がいい」
「了解」
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王子の婚約破棄宣言から三日が経った。予想通り、話は瞬く間に学校中に広まり、ミリアは一躍時の人となった。そりゃ、王子とその取り巻き達、校内でも有数のイケメン、かつ権力的にもトップに立つ男達を侍らせているわけだからな。
三日間奴らの動向を注目してみたが、校外に出る場合もあり、ずっと尾行し続けるわけにもいかない。
と言うわけで俺は、奴らに接触を試みることにした。
放課後の奴らのお気に入りの場所が、中庭の一画であることは調査済み。うん、今日も相変わらずあそこでだべってるな。
「殿下」
「……君は?」
「突然失礼いたします。アクツエル伯爵家が次男、ユーゴと申します。パーソナリティは【堅実】」
俺は片膝をついて頭を下げる。すると王子を制止して、青い髪の眼鏡の男、ユカリザが返答した。
「アクツエル伯爵家と言えば確かにここ最近勢力を増している名家だが、それでも我々に比べれば、家格は遥かに劣る。身分のみならず能力的にも、我々は将来を約束された身。
それを知っていてなお、君は僕らに声をかけたのかい?」
うん、こいつはこんな奴なんだ、身分と立場第一。若い癖して、中年の役人のような物言いをする。
しかしいちいち反応していては話が進まないので、ここはスルーだ。
「無論、あなた方がやんごとなき身分であられることは承知の上」
「それでは、何の用が?」
「殿下、私を用心棒として雇っていただきたい」
「何?」
「私はアクツエル家の者ですが、家督は兄にある。ならば在学中、自身の得意分野で少しでも名を挙げておくことが、将来への投資となりまする。そして、私の得手は戦闘方面にございます」
ユカリザが眼鏡を触りながら反応する。
「一年生の身ながら既に卒業後を視野に行動しているとは、有象無象の学生輩とは違うようですね。【堅実】のパーソナリティを保有するだけのことはある。しかし――」
彼が後ろを振り向くと、取り巻きの内最も体格のいい男――騎士団長の息子・ギュンターが腰を上げる。
「聞き捨てならないな、王家の盾と称されるシルト家、その正統後継者のいる場での、その発言は」
「いえ、ギュンター・フォン・シルト――剣闘における学年一位の成績保持者がここにいるのは、百も承知。しかし敢えて言わせてもらおう」
俺はここでもったいぶるように立ち上がり、両手を広げ、胸に片手を当てながら、慇懃無礼にお辞儀をする。
「殿下。そこにいる男より――私の方が、強い」
瞬間、剣を鞘から抜く音が虚空に響いた。
「……そこまで言うのなら、実力で示してもらおうか」
「ええ、喜んで」
しかし王子がそれを制止する。
「待て、ギュンター。この中庭はそのような場所ではない。剣を納めよ」
しばしの沈黙の後、脱力、納刀するギュンター。
「……命拾いしたな。
しかし殿下、この者の無礼、捨て置くわけにはいきませぬ。訓練場にて、模擬戦で決着を」
「うむ、それならよいだろう。
ユーゴとやら、異論はないな?」
「ええ、もちろん」
よし、ここまでの展開は、計算通り。
面白そう!
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