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『ざまぁ』される俺たちにも救済を!  作者: ikut
ケース2/ヒロイン・ミリアと、悪役令嬢エリザ(どちらも転生者)の場合
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悪役令嬢の追放

当初キャラ名の案「エイミ」「エリザ」でしたが、ちょっと似てしまったなと思い、「ミリア」「エリザ」に変更いたします。すみません;;

「おう、ユーゴ。昼飯一緒に食べようぜ」

「ああ、いいぞ」

「食堂行くかー。あ、午後の授業、何からだっけ?」

「地理だろ、確か」

「マジかー。俺、ザップロス先生の話ダメなんだわ。しかも午後イチなんざ、確実に寝る」

「ノートは貸さんぞ」

「御無体な!?」


 俺は大袈裟にのけぞるミヒャエルを軽くあしらうと、食堂に向かうべく立ち上がる。



 そう、ここは既に『ノブレス・オブリージュ・ラブ!』の世界の中――正確にはそういう設定の下位世界、ということらしい。


 俺は五日間真面目にゲームに取り組み、主人公の女は、めでたくニール王子と結ばれた。

 そしてセイラの事前指示に従って、他の男性キャラをターゲットにしたパターンに着手。別の結末を二回ほど迎えたところで、五日が経った。

 セイラ曰く他にも『攻略可能キャラ』とやらはいるらしいが、同じようなことを三周もすると、さすがに俺も飽きてきた。

 ちょうどいい頃合いということで、セイラの力で、ここに降り立ったというわけだ。



 実際に訪れたのは、ゲーム冒頭の入学式からニヶ月後くらいの頃合い。そこから更に一週間が経過した。


 学校生活なんて送ったことのない俺だったが、セイラの計らいにより、学校や教科の基本的な知識を、既に身に付けた状態にしてもらっている。

 おかげで一応それなりの優等生として過ごせ、正直非常にありがたい。

 もしセイラのフォローがなければ俺は、クラスでは浮きに浮き、日々の授業に追われ、『ざまぁ』どころではなかっただろう。


「俺は、スペシャルAセット!」

「……ビーフシチュー」

「お、じゃあ俺にも肉一口くれよ、こっちはトマトやるから」

「ミヒャエルよ、仮にも貴族の端くれなら、もう少しマシな交渉の仕方を覚えろ」


 このミヒャエルは、俺と同じく中流貴族の出身。お互い次男坊だから、家督の重圧はなく、気楽な身だ。そんな境遇故にか、こいつのパーソナリティは【気安い性分イージーフレンドシップ】。

 最近はしょっちゅう俺に絡んでくるが、その交友関係は実のところやたらと広い。まあ、根はいい奴だよ。


「はいよ、スペシャルAとビーフシチュー」

「どうも」

「サンキュー、お姉さん!」

「あらやだもう、こんなおばちゃんに。卵焼き一個サービスしたげるわ」

「あ、それならこいつの方に乗せてあげてくんない?ユーゴ、代わりに肉くれよ」

「……一番デカいのはダメだぞ」

「っしゃあ、交渉成立〜」


 見事にリカバリーしてきたか、さすが【気安い性分イージーフレンドシップ】。


 この『パーソナリティ』とやらは、この下位世界特有の設定らしい。もちろんセイラ情報。

 その人の気質のようなものを一言で表し、全ての人間に備わる。初対面の時はお互い自身のパーソナリティを告げ合うのがマナーで、教育や就職、仕事などに役立てられるのだ。ちなみに後天的に身に付くもので、変化することもしばしば。

 かく言う俺は、【堅実(ステディロック)】のパーソナリティ設定だ。セイラ曰く、万人受けを狙ったらしい。



 さて、俺たちは適当な空席を見つけ、そこに座る。


「……約束のブツを」

「仕方あるまい」


 二番目に大きい肉をフォークで刺し、ミヒャエルの皿へとあてがう。すると、


「あ、ユーゴ君、ここにいたんだ、やっほー」


 こちらに話しかけてくる女生徒の声がした。


「セイラか」

「隣、失礼するよ」

「おー、セイラちゃんじゃん、どうぞどうぞ」

「何故お前が許可する」


 軽口を叩き合いながら、セイラが俺の隣に座る。


「お、ユーゴ君、そのお肉、美味しそうだねえ」

「……一口いるか?」

「いいの!?」

「最初から期待してただろ」

「さすが、よく分かってるね」

「ほらよ」


 俺は結局一番デカい肉をあげることにした。


「いただきまーす……んー、柔らか!」


 左手で頬を押さえ、ご満悦の表情のセイラ。満足いただけたようで、何よりだ。……ミヒャエル、何だそのジト目は?


「おい、目の前でいちゃつくな」

「何のことだ?」

「すっとぼけやがって!!セイラちゃんも、幼馴染だからって、何でこんな【堅実】野郎と仲良しなんだよ!」

「ふふふ、ミヒャエル君、それ、君も一緒でしょ?」

「まあ、ユーゴ(こいつ)は真面目で信頼できる、いい奴だからな……って俺のことはいいよ!」

「あはは」


 おい、俺の方が逆に居た堪れない会話をするな。


「ユーゴもさ、こんな【奔放華憐(キューティーハニー)】なんてパーソナリティの子、滅多にいないんだぞ」


 もちろん、セイラの『パーソナリティ』も本人による設定。


「……だから?」

「羨ましすぎるってことだよ、こんちくしょう!!」

「あー、はいはい」


 うん、今日も平和だ……今のところは。

 食事を終え、午後の授業へと向かう傍ら、セイラが俺に告げる。


「ユーゴ君、いよいよ今日の放課後、だね」

「ああ。そいつは静観でいいんだな?」

「うん、今回は」

「了解」


 短く確認していると、ミヒャエルが口を挟む。


「お、何々、何の話?」

「ちょっとな」

「うふふ」

「ちぇ、何だよ、二人の世界に入りやがってさー。セイラちゃん、俺にも誰か紹介してくんない?」

「ミヒャエル君、ボクより友達多いじゃない」

「いやあ、その分逆にモテなくてねえ」


 ああ、こんな感じの日がずっと続くなら、気楽なんだけどな。


 ***********************


 放課後。

 一応ゲームを三周した俺は、いつ何が起こるか、大体把握ができている。俺はセイラと合流すると、第二講堂へと向かった。

 お、既に人だかりができているな。


 別に近づいて見る必要はないので、俺たちは二階席の方に移動する。こっちの方がむしろ俯瞰で観察しやすいだろう。


「さあ、生徒諸君。私はニール・シュナウツァ・フォン・グランドキルテ。知っての通り、このグランドキルテ王国の第一王子だ」


 王子様が叫んでいるな。金髪碧眼でやや長髪、本当に絵に描いたようなイケメンだ。ニール王子のパーソナリティは【王器(キングオブプリンス)】、さすが聴衆を集めるのには事欠かない。


「この場を借りて、一つ申し上げたいことがある。生徒諸君らには、その証人となってもらいたい!」


 王子の隣にいるのは、『ノブレス・オブリージュ・ラブ!』の主人公、この世界ではミリアと名乗っている少女だ。華奢な体。肩までの長さに揃えたシンプルな茶髪。素朴ながら守ってあげたくなるような儚さを兼ね備えている。


 そして二人の後ろ側に、四人の男共。


 黒髪で一番体格がいい男は、ギュンター。この国の騎士団長の息子らしい。ワイルドな色気を醸し出している。

 眼鏡をかけ、いかにも秀才然とした男はユカリザ。髪の色は青。確か宰相の家の関連で、座学の成績が学年トップだったな。

 やや不安げに成り行きを見守っているのは、カール。一番小柄だが、優秀なメイドを何人も輩出しているベッカー家の跡取りで、人懐っこい可愛さと、きめ細かに気が利く性格が人気。髪の色は黄色。

 最後に紫の髪の男、ルドガー。こいつは三年間の留学を経て今年貴族院に入学してきたとかで、同学年ながら、三つ歳上だ。周囲から一歩引いた兄貴然とした立ち位置で、王子たちの活動を陰でサポートすることが多い。

 

 ちなみに俺と奴らに直接の面識はない。これらは全てゲームからの知識だ。全員攻略対象キャラである。


 そして最後に、王子と相対するのは、一人の少女。名をエリザという。ボリュームの多い金色の巻き髪、気の強そうな大きな瞳。いかにも貴族令嬢という趣の彼女は、ニール王子の婚約者。ゲームでは、主人公に数多くの嫌がらせをしてきた、悪役だった。



 ニール王子が叫ぶ。


「エリザ・クラウゼ嬢。

 彼女は、ここにいるミリア・ヨハネス嬢に対し、多くの理不尽な仕打ちを仕向けてきた。

 一王家の者として、また貴族院の一生徒として、はたまた一人の男として。

 その事実を見過ごすわけにはいかない!!」

「な、それは、ミリアさんがあまりに貴族の振る舞いを理解していないものだから、彼女の為を思って……!」

「言い訳は何とでもできよう。しかしミリアが君の行為に辛い思いをしたという事実は、看過できるものではない!」


 黙り込むエリザ。


「ミリアは素晴らしい女性だ。謙虚で、民の心を理解し、誰にでも分け隔てなく優しい。

 一方エリザ、君はどうだ。パーソナリティは【高貴(ノーブル)】だったはずだが、最近の君はミリアに対し非常に厳しく当たり、高慢で謙虚さがない」


 そこで周囲の様子を伺うニール王子。しかし一国の王子の立ち回りだ、口を挟める者などいないだろう。


「周知の通り、君は私の婚約者、将来は王妃となる身であるはず。しかしそのような振る舞いの者に、国として重要な立場を与えるわけにはいかぬ!

 エリザ、私はここで、君との婚約破棄を言い渡す!!」

「なっ……!?」


 エリザは驚愕に目を見開いている……あ、足元がふらついている、倒れるぞ。


 ……ん?こんな展開、ゲームの時にあったか?


 しかしエリザ嬢はすんでのところで踏み止まると、今度は王子の方を睨みつけた。

 ……知らない展開だ。彼女の瞳も、何だか先ほどより強い意志が宿ったように思える。


「殿下、僭越ながら申し上げます。そのような下級貴族の娘に現を抜かしている暇はございません。どうか、自身の立場を弁えてくださいまし」

「何を言う、そちらこそ無礼な!!

 私は、このミリアを新たな婚約者として迎えようと考えている。私の仲間達――将来は国政を担うことを約束された者達だ――彼らも同意しているぞ」


 うんうんと頷く取り巻きの四人。


「エリザ、君との関係は今日で終わりだ。大丈夫、これは貴族院内での出来事、君の家にまで影響が及ぶことはない。大人しくこの場を去るのなら、先の発言は聞かなかったことにしよう」


 王子の通告に、しばし彼を見つめるエリザ嬢だが、やがてしばらくすると、諦めたかのように王子に対し背を向けた。人混みに囲まれている状態だが、彼女の迫力に気圧されたのか、皆々自然と彼女の通る道を空けていく。


「皆の者、そういうことだ!騒がせてしまい、悪かった」


 王子が聴衆に謝罪する。

 しかし貴族院で一番の有名人のゴシップネタだ、解散する聴衆たちはどことなく興奮して見える。これは、一瞬にして話が広がるだろうな。



 そして、俺は見た。

 王子の腕に守られているミリアが、ニヤリとほくそ笑むのを。

面白そう!

って思っていただけたら、☆でもブクマでも感想でも、反応をいただけると、執筆の励みになります!

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