最終話
夜の公園。ベンチに座る。空を見れば月は無い。そう、今日は新月なのだ。4月とはいえ、平均気温は12月のそれと変わらないらしい。座ってるだけでは寒い。
「はぁ・・・」
彼女は来るだろうか。親父がうまくやってくれると信じるしかなかった。
彼がベンチに座って4時間は経っただろうか。こうもりの姿で彼を木の枝から見る。途中で船をこっくりこっくりこいだりしているが、今のところ私を見つけた様子は無かった。そもそも、おじ様はなんでわざわざ。こんなとこに呼び出すなんて・・・。
腕時計を見るとすでに日が変わっていた。
「少し、寝ちまったか・・・」
ベンチの前にある木を見る。暗闇だが、かろうじて何かいるのがわかる。こうもりだ。
「・・・、そこにいるのだろう。バーリム・C・マーカー」
こうもりが見ていた。すると、木の陰から、一人の女性が降りてきた。パッチリとした黒い瞳。そして、3年前より少しばかり髪を伸ばしていた。だが、見間違えることは無かった。
「久しぶりだな。リム」
「どうして・・・」
彼女は泣きそうな、声で話しかける。
「どうして、あなたは私を呼ぶの。どうして私を苦しめるの。どうして・・・、どうして・・・」
そればかりだ。震える声で「どうして・・・」と続ける。俺は彼女の近くまで寄る。
「私は・・・、あたなをさらに人間から遠ざけてしまったのよ?憎くないの?私がかかわらなければあなたは自分の出生すら知らずに生きていけたのよ。あなたが私を助けに来なければカインに将来体をのっとられることも無かったのよ・・・。あなたは自分の幸せを考えてないの。おかしいよ・・・」
地面がぬれていく。俺はハンカチを取り出して彼女に渡す。
「幸せの定義は俺にはわからん。あのころこうしたら幸せだったのかもな。と思うこともある。だが、後悔はしないと思うな」
「どうして?」
目を赤くしたリムが見つめてくる。
「どうしてばかりだな。俺がいいと思ってその選択をしたからだ。俺の意思で決めたことに後悔してればキリが無いよ。それに、俺はお前とすごした1年足らずの生活、いやじゃ無かったよ」
俺がそういい終わると、リムは俺に飛び込んできた。
「リ、リム・・さん・・・」
不意に手がリムの背中に回ろうとしたが抑えて離そうとする。だが、服にしがみついて離れようとしない。
「男なんだから女の子に胸ぐらい貸しなさいよ」
手を回すのがなんだかいけないことのように思えた。だから、頭の上に手を置き撫でることにした。
「・・・バカ」
「落ち着いたか?」
俺は缶コーヒーを渡してベンチに座る。
「あ、ありがとう」
二人して空を見上げる。
「今日は新月なのね・・」
「ああ、3年前はじめてあったときもそうだったわね」
「「・・・・・」」
「なぁ、まだ、自分を許すことはできないか?」
「ええ。あなたが私のことを許しても、私は許せないの」
なかなか強情だ。
「なら、俺もお前を許さない」
「え?」
俺の発言に驚いたのか、いきなり立ち上がる。俺は気にせず話を続ける。
「俺はリムがしたことを許さない。吸血鬼にしたことはもちろん、俺にかかわって出生を暴いたことまでだ」
「ちょ、ちょっと碧・・・」
うろたえるリム。だが、話を続ける。
「だから、罰を与える」
たぶん、俺の顔は赤くなってるだろう。酒で酔ったときも赤くならないのに変な話だ。
「これからは、俺と一緒に暮らしてもらう。それが罰だ。いやなときも、俺を馬鹿にしても一緒にあの家で暮らしてもらう。俺がカインに乗っ取られるまでだ」
リムはぽかんとしている。そして、不意に赤くなり笑い始める。
「な、なにそれ・・・。ふふふっおかしい」
「な、わ笑うこと無いだろ」
せっかく考えたのに・・・・。
「でも、私は罪を犯したのだから、仕方ないわ。その罰を受けるわ。勘違いしないでよ、私はあなたのことなんかこれっぽちも好きとは思ってないからね!」
ここでなんというツンデレ。
「そうか・・・」
「でもね、これからはあなたのことを好きになっていくと思う。自己犠牲が激しく、お人好しで、大馬鹿な碧のことを・・・」
リムはそういうと俺の前に立ち、唇を重ねてきた。夢の中でを含めて3回目のキスだ。
「これから、よろしくね」
そして俺はいつ目覚めるかわからない災厄が来るまで吸血鬼と暮らすことになったのだ。
これにて完結。ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました