三十二話
「一番右にいる男は人間で他の6人は玩具だ」
碧の指示どうりに私は血の剣をふるう。悲鳴はなく、一番右にいた男の首筋の赤い糸を斬る。
「碧、後でしっかりと説明しなさいよ」
床には気を失ってる男が数人倒れている。操っていた人質たちだ。何人かはわからないけどこれで全てだと思う。それよりも不思議なのは碧。彼の瞳は金色のまま。カインが操ってるのかと思ったけどカインの気配ではなかった。
「リム、ぼうっとしてる暇はないぞ」
碧は襲いかかってきた玩具を模造刀で吹き飛ばす。
「あ、ありがとう」それにこの戦闘力。矛盾している。ホムンクルスでありながら吸血鬼なみの戦闘力を使うなんて。動きはそんなに速くはない。まさに人間と同じくらいの。まさか…
「あなたまさか」
「ああ。少しの間カインの右腕と両目を借りている」
碧は少しつらそうだ。あんな強大な力を一部分とはいえ使ってるのだ。無理もない。
「碧は休んでて。後は私がやる」
私はヴィオレの顔に向かって血のナイフを投げる。
「彼は私が倒す」
ヴィオレはナイフを口で受け止めた。
「面白い。面白い。さぁ、一緒に踊ろう」
ナイフをかみ砕き、鉄骨の梁の上から飛び降りる。
俺は倉庫の端に腰掛ける。ヴィオレと呼ばれた吸血鬼は俺のことなど眼中にはなかった。リムとの戦闘はすさまじかった。カインの両目を使えば見えるのだろう。だが、時間切れらしく見ることができない。時たま聞こえる音だけが戦闘のすさまじさを物語っている。音が止み、鈍い音が聞こえて次に物が壊れる音が聞こえた。
「くぅ…」
男のうめき声が聞こえる。どうやらリムがヴィオレを吹き飛ばしたみたいだ。
「玩具がなくなった時点であなたは終わりよ」
リムが勝ち誇ったように言う。
「フッフフフ」
不気味な笑い声とともにガサガサと物音がする。俺は物音のした方を見る。暗闇の中わずかな光を反射してリムに向かうのは一振りの剣だ。リムは気づいていない。俺は知らないうちにリムのいるであろうところに走り出した。リムを床に押し倒す。 剣は頭をかすめて暗闇に消える。
「あ、碧?」
「大丈夫か?」
激痛が走った。剣は頭をかすめたはずなのに。背中に手をやる。ぬめりとした触感がした。ああ、そうか。剣は暗闇に消えたのではなく、俺の視界から消えて上から降ってきたんだ。立ち上がり剣を引き抜く。柄には腐った腕みたいなものがついていたが、気にもとめず引き抜く。不思議と血は出なかった。傷口を見るとわずかに消えているみたいだ。全身の力が抜け落ちる。
「あ、碧ーー!?」
「リ・・・」
リム怪我無いか?と聞きたかったが口が開かなかった。だが、見た限りでは無事のようだ。目が自然と閉じていく。リムの叫び声を耳に残して意識がなくなった。