三十一話
「くっ!」
玩具の攻撃を間一髪よける。体のいたるところに切り傷がある。玩具の攻撃すべてが並外れている。
「ヴィオレ!あなたまさか!!」
倉庫の梁の上に立つヴィオレをにらみつける。人をなめたように見下してるのが気に入らない。
「ええ、吸血して糸で操る。こちらの『世界』でなければできない芸当じゃないですか。さぁ、クリムゾン・ブラッド。心行くまで踊りましょう」
5体の玩具が襲ってくる。瞬時に両手から血の剣を作る。あらかじめ碧から血の補給をしてるから多少は無理ができる。取り囲むように玩具が迫る。それを片足を軸にして半回転。二人を切り裂く。勢いに任せてさらに一回転。三人と奇襲をかけてきた一人の片足を切り裂いた。
「うぎゃぁ!!」
「え!?」
叫び声が聞こえた。一瞬隙ができてしまった。奇襲をかけてきた一人がナイフで突きにかかってきた。左腕でそれを防ぐ。激痛が走る。刺してきた男の頭を強く蹴る。それきり、動かないが生きてはいる。
「ひ、卑怯な・・・」
おそらくヴィオレは吸血していない人間を紛れ込ませて操り、玩具と一緒に攻撃してきて、そのうめき声で動揺を誘ってきたのだろう。ここまで卑劣とは。
「まだ、半分はいますよ。その程度ではないでしょう。では問題。この中に何人人がいるでしょう」
今度は8人くらいが襲いかかる。何人が玩具で何人が人なのかはわからない。ためらい攻撃のタイミングがずれる。
「答えは全員玩具」
玩具の爪が体を引き裂きよろける。
「きゃあ!?」
「いい悲鳴じゃないですか。まだまだ行きますよ」
ヴィオレはうれしそうに玩具をけしかける。
「全部人間じゃない!」
不意に聞きなれた声が聞こえる。首を全てはねる。悲鳴はない。
「誰ですか、邪魔をするのは?」
倉庫の入り口には金色の瞳をした「碧」がいた。
俺は商店街を走り抜ける。右手には模造刀。武器はこれだけ。後は、柔道で鍛えた体のみだ。不良相手なら十分だろう。問題は吸血鬼だ。以前のゴーレムでさえ足手まといになったのに勝てるだろうか?ふと一人の人物が思い浮かんだ。目を閉じて心の奥に眠る銀髪金色の瞳を持つ青年を起こす。
「主から訪れるとは。ようやく体を明け渡す気になったか?」
カインはうれしそうに話しかける。
「そうだな、力を貸すなら期間付きで貸してやる」
カイン。かつて吸血鬼の祖とうたわれ同族に殺された者。対峙するだけでプレッシャーを放っているのがわかる。
「我相手に交渉か。その度胸は買おう。だが、交渉は決裂だ。主の体では我の力は大きすぎる」
カインは姿を消そうとする。
「あの時は使えたじゃないか」
初めてクレアと出会った日を思い出す。「あれは我の力の一端にすぎない。それに、すぐに効果はなくなる」
「それでいい。頼む。あいつの力になりたいんだ」
俺は必死に頭を下げる。
カインは考えるような声を出す。
「…両目と右腕を貸そう。もって数分だ。そのかわり一月体を明け渡してもらおう」
目を開ける。やりとりは数十分はかかっていたと思ったが、一分くらいしか経っていなかった。右腕に力を入れる。わずかな違和感がある。視界は夜だというのにはっきりと見え、動くもの全ての動きがゆっくりと見える。
「急ぐとするか」
俺は廃倉庫をめざし足を速めた。
感想などがあればお願いします