三十話
二ヵ月半ぶりの更新です
「もしもし、真か?」
「どうしたんだ、碧。こんな時間に。金なら無いぞ」
いつものやり取りだ。だが、今回は急いでいる。
「ちょっとまじめな話をしたいんだ。警察としての真と話したい」
「・・・わかった。力になれるかどうかはわからんが話してくれ」
俺は最近起こった事件について聞く。
「ああ、目撃情報はゼロ。おまけに捜査はそろそろ打ち切られそうだ。上からの圧力だとか・・・」
「死体が出た場所はどこだ?」
「ニュースでも言ってた筈だけど、商店街の近くだ」
「この町の商店街ってさ、東西をまたぐように車道があるよな。どっち側から発見されたんだ?」
「確か・・・、東側か」
俺の推測は確信に近づいたようだ。
「西側の不良の集まりそうなたまり場を調べてくれないか?」
先日の若者の話からして、まず間違いない。思わぬところで情報が入った。
「出来るだけやってみよう」
「すまんな。頼むぞ」
「また連絡する」
「後、二、三日で吸血鬼のいそうな場所がわかりそうだ」
朝一番にリムに報告する。
「根拠はあるの?」
パンをかじるのをいったんやめて耳を傾けるリム。
「ああ。この前ゲーセンに行った時に二人の不良が話してたのを偶然聞いてな。もしかしたら不良のヘッドを操ってるのかもって思って調べてもらってる」
「そう・・・」
リムは少し悲しそうな顔をする。
「どうかしたか?」
「実はね。ヴィオレを処分した後は私向こうの『世界』に戻らないといけないの」
「そっか。向こうの『世界』に戻るのか・・・、って戻る!!」
「うるさいわよ」
仏頂面でうるさいと言われても・・・。
「元々私がこっちに来た理由ってねおじ様、碧のお父様の『世界』を結ぶ契約の手伝いなの。クレアはほぼ勝手に私についてきてただけだけど。その契約もそのヴィオレの処分を私たちがすれば成立することになってるわ」
親父め、そんな重要なこと伏せとくなよ・・・。
「まぁ、後一週間くらいだけどよろしくね、碧」
「あ、ああ・・・」
「もしもし、碧か?」
「真か。結果は出たのか?」
俺は直球で本題を聞きだす。
「ああ。西側の商店街の廃倉庫で仏さんの血液と同じのが出た。まず、この廃倉庫で間違いない」
「そうか。ありがとう」
俺は電話を切ろうとする。が、真が「あっとそうだ・・・」と言い出した。
「ここからは俺の独り言だけどな。明日から忙しくなりそうだ。今日は警察官のほとんどが定時に帰ってしまったしな」
「大変だな。それじゃあな」
相変わらず真は嘘をつくのが下手だ。だが、ありがたい。
「今度何か飯おごれよ」
「ああ。ありがとな」
「真さんから?」
リムが後ろから話しかけてきた。
「ああ。どうやら場所が解ったみたいだ。今夜が最初で最後のチャンスだ。どうする?」
聞くまでも無いが聞いてみる。
「愚問ね。ヴィオレは必ず私が引導を下してやるわ」
リムのきあいは十分といった感じだ。
「それじゃあ、俺も・・・」
「碧は来ないで」
「なっ。どうして・・・」
吸血鬼だけならともかく不良たちがいるはずなのに。
「普通の人間くらいなら何人束になろうとも私の足元にも及ばないわ。碧が来ると邪魔になるの」
正直に言うと悔しい。リムの役に最後まで立てないことに
「碧、あなたに大事なことを任せるわ。あなたにしか出来ないわ」
リムがずいっと顔を近づける。
「ちょっと、リム」
うろたえる俺。リムは潤んだ瞳で俺の首筋めがけて・・・。首筋?
「痛っだ~~!!」
血を吸われてしまった。
「コレで最後かもしれないわね。こればっかりは碧にしか出来ないことよね」
「さ、さいですか・・・」
「ふっ、ふふふふっ」
一人の青白い青年が不気味に笑う。
「どうしました?」
「うれしいのですよ。ようやく、現れる。それがうれしくて仕方ないのですよ」
青白い青年に問うた男は冷や汗をかく。人間離れしたこの青年は不気味でしかない。そして、この青年のせいで、30人近くいた仲間がわずか10人足らずを残して、失血死あるいは玩具のような存在になってしまった。そして、彼らのリーダー格もすでに人間ではなくなってる。
「そ、そいつが来たらどこかに行ってくれるのか?」
「ええ、もちろんですよ。ここにいる必要が無くなるのですから」
その答えに男は安堵した。
「ですが、あなたたちは最後まで手伝ってもらいますよ」
青年は男に近寄る。
「な、何を・・・、うぐっ!」
男の意思に反して腕が動く。腕の先を見ると1ミリに満たない細い赤い糸がかすかに見える。
「さぁ、我が要塞に来なさい。クリムゾン・ブラッド」
夜。商店街の明かりはほとんどない。夜の遅い時間というのもあるが、昔一等地だったゆえにドーナッツ化現象により人が遠のき、店が閉まるというのが現状である。そんなことを碧が言ってたがここまでひどいとは思わなかった。東側の商店街はまだ活気があるが道路を挟んだ西側は初めて歩くが異常なまでに寂れている。そのおかげで不良の溜まり場という風になったのだろう。奥に進むと廃倉庫があった。かすかに同属のにおいがする。間違いない。ここにいるはずだ。目を瞑るといろいろなことが思い浮かぶ。相棒だった者の無残な死。そしてその犠牲のおかげで捕縛したヴィオレ。その次に浮かぶのは半年近く過ごした碧だった。彼は今頃なにをしているだろうか。この任務が終わればまた向こうの『世界』に戻らなければならない。寂しく思うが、仕方ないことだ。私は倉庫の扉を開ける。
「お兄ちゃんはお留守番?」
クレアが無邪気に寝転がってる俺に話しかける。
「ああ。俺がいたら邪魔だそうだ」
すこしふてくされて言ってしまったが、気にしないことにした。
「ふぅ~ん。それって、本当は何かあってほしくないからじゃないかな?」
「ん?」
振り返ると、クレアはニコニコした顔で俺の顔をのぞく。
「だから、お姉ちゃんはお兄ちゃんに万が一のことがあってほしくないからって思うの」
「どうしてだ?」
「んとね、本当は内緒なんだけど、お姉ちゃんは向こうの『世界』でこっちの『世界』で言うところの警察をしていたの。一人の犯人を捕まえるためにお姉ちゃんの相棒を巻き込んで捕まえることに成功したの。でもね、その相棒は殉職したの。それ以来お姉ちゃんは普段は力をかなり抑えてるはずなの。今回はそこまでしないと捕まえることが難しいと思うの」
「そんなことがあったのか」
少し暗い顔をしているクレア。
「いつもお兄ちゃんのことを馬鹿にしたりしてるけど実は大事に思ってるはずなんだ」
「ま、まさか~?」
俺は少し動揺した。おかげで声が上ずる。クレアはそれを見抜いて面白そうに笑う。
「あ、お兄ちゃん動揺してる。でも、これは本当だと思う」
「根拠は?」
「私のお姉ちゃんだもん。それに、私もお兄ちゃんが好き・・・かな。でも、お姉ちゃんのほうがもっと好きだと思う」
「そ、そそそそそうか・・・」
声がさらに上ずる。
「お兄ちゃん面白い。動揺してるのバレバレ」
「くそっ」
悪態をつく俺を尻目にクレアはおなかを押さえて笑い続ける。
「ちょっと、担いだだけでこんなに動揺するなんて。面白い・・・」
「なっなんだと!」
起き上がって逃げ回るクレアを追いかける。追いついて肩に手を置いて気づく。クレアの方が少し震えてる。
「単純なお兄ちゃん。でもね、お姉ちゃんの気持ちは本当だと思う。もし、お姉ちゃんが心配なら行ってあげて。そうでなかったら家にいて私と一緒にいてほしいの」
不意に思う。最初は巻き込まれてごたごたしていた。そして、リムが家にいることが当たり前のようになってきた。俺はリムに対してどう思ってるのだろうか。自分のことなのにわからない。でも、ここで行かないと二度と会えない気がする。
「クレア。すこし留守番してくれないか」
「うん・・・、いってらっしゃい」
クレアの言葉の後半は涙声だった。
「はぁ、いい人?だったけど、お姉ちゃんに負けちゃった。さて、そろそろ向こうの『世界』に帰らなきゃ」
私は涙を拭いて、荷物をまとめる。
「さようなら、碧お兄ちゃん。また、会えたら義理の妹になれるかな」
私の体が消えかけてくる。向こうの『世界』に呼び出されてる。そして、私の視界は真っ暗になって、3ヶ月ほど前に住んでた景色が見えた。
とりあえず、携帯からの操作で8割がた最終話まで完成しました。後はPCで誤字脱字や文章の見直しで登校できそうです