二十九話
リムに脅されてゲームセンターに向かう碧。異世界の住民でありお嬢さんなリムは遊べるのだろうか…
「はぁ・・・」
私はリビングでため息を付く。
「どうしたの、リムちゃん」
藍さんが私に声をかける。
「何か悩んでるみたいね。私が相談に乗ろうか?」
「実はね、最近碧のことがね。なんていうか、頼もしく見えるときがあるの。最初会ったときは馬鹿なことばっかし言ってたのに・・・。なんで、頼もしく見えたのかな」
藍さんは少し考えて微笑みながら私に語りかける。
「たぶん、碧の優しいところとか見たからじゃないかしら。普段は馬鹿なことばっかり言ってて頼りないと感じがするのよね。でも、ほんとはまじめで融通が利かないけど、優しいところがあるのよ」
「そんもんなの?」
「ええ。だって、私とあの人の息子ですもの」
藍さんの表情はとてもうれしそうだ。
「おじ様もそうだったの」
「ええ。普段は馬鹿なこと言ったりしてたけど、やるときはしっかりとやる人よ」
「ふ~~ん・・・」
私はリビングの机に突っ伏す。
「そうね・・・。もっと、碧のことを知ったらいいじゃないかしら?」
「例えば?」
「そうね・・・、どこかに出かけるとか」
「でも、碧部屋に引きこもってるわ」
「引きこもってる碧を外に行かせるように嗾けるといいわ。少しくらいなら脅してもいいわよ」
何とか、出かけるように仕向けたけど、大丈夫かな。
「車の運転なんかいつ以来だ・・・」
リムの要望でバイクはやめてくれと言われ駐車場に向かう。お袋が普段使ってる軽自動車があって、親父が使ってる自動車が無い。お袋が大きな買い物をする時だと親父の自動車が都合がいいのだろう。
「軽自動車のほうだったら運転できるし、いっか」
「碧、車運転出来たの?」
「ああ。免許は持ってる」
たしか・・・。
「で、最後に運転したのっていつ?」
思い出した。そして、冷や汗が流れる。
「一年前・・・」
「・・・、言い出しといてなんだけどやっぱやめない?」
リムも同じく冷や汗を流している。
「大丈夫。たぶん・・・」しぶしぶながらも助手席に乗り込むリム。無事にゲームセンターに着けるだろうか。
「意外よね・・・」
「何が?」「運転がまともだったことが・・・」
無事にゲームセンターに着くことが出来た。
「で、ゲームセンターに来たけど何がしたいんだ?」
口元に人差し指を当てて考えるリム。しばらくして
「さぁ?」
目が点になると言うが、たぶん俺の目はそれになってただろう。
「まぁ、とりあえず入るか」
店内に入ると、さまざまなゲーム筐体が置いてある。
リムの顔は新しいおもちゃをもらった子供のような顔で辺りを見渡す。
「ね、ねぇねぇ。アレ何?これ、おもしろそう」
大はしゃぎで筐体を見て回っていく。年不相応なはしゃぎっぷりに唖然とするが、これもリムの一面だと思いなんだかほほえましく思う。
「あ、あのぬいぐるみ欲しい」
リムはUFOキャッチャーのぬいぐるみに興味津々だ。大きさは約40センチくらいで青い帽子をかぶった雪だるまのぬいぐるみだ。
「じゃあ、自分で取ってみたら。ほら、とりあえずコレだけ渡しておく」
俺は財布から百円玉を8枚渡す。
「ありがとう」
リムは受け取った百円玉を筐体に入れる。入れる。入れて・・・。
「どうやるの?」
「・・・・」
言葉が出なかった。そういえば、リムってお嬢さんだったっけ・・・。
十数回目のクレーンも雪だるまを掴まずにそのままもとの位置に戻る。
「う~ん、取れないよ・・・」
リムは必死に雪だるまのぬいぐるみを狙うが、なかなか動かない。動いているのは俺自身であり、中身の英世さんだ。
「まだやるのか?」
「あきらめきれないわよ。うう・・・」
うわっ、何か今にも泣き出しそうになってるよ。
「ちょっと、貸してみ」
「ん・・・」
リムが離れる。俺はさっき両替した百円玉を一枚入れる。クレーンはちょうど雪だるまの真上に来る。そして、そのまま降りてぬいぐるみを掴んでそのまま出口付近まで運ばれてくる。だが、出口に来ずに近くに落ちてしまった。
「おしい」
リムが口をぽかんと開けてこっちを見ている。
「もう一度やってみるか?」
リムはおずおずといった感じで首を上下に振る。
「上下と左右を奇麗にあわせるのがコツだからな」
「うん」
クレーンは出口近くにあるぬいぐるみの真上に来た。そして、降りてぬいぐるみを掴み出口に落ちる。
「や、やった。取れた。ありがとう、碧」
ぬいぐるみを抱きしめてオーバーアクションをするリムに他の客が注目し始める。
「わ、わかったって。それより、ほかのゲームをしないか?」
「うん」
リムは他の筐体まで走っていく。俺は自分のやりたかったゲームの筐体まで行く。その時、いまどきの若者といった感じの男二人が話し合っていた。
「なぁ、最近のヘッド妙だよ」
「違いない。あの、青白い奴が来てから妙にいらいらしてると言うか」
「聞いた話だと、ナンパした女にボコボコにされたらしいぜ」
「おいおい。マジかよ」
「かなりの美人で黒いワンピースを着た女だってさ」
「はぁ、楽しかった」
リムの顔は興奮の余韻が抜けてないのかほんのり赤い。俺はその顔に少しドキッとした。
「どうしたの?私の顔に何か付いてる?」
どうやらずっと見てしまってたらしい。
「いや、なんでもない」
「変な碧。で、それでさ・・・」
駐車場まで今日のことを楽しそうに話すリム。まるで、父親に今日起こった出来事を話す娘のような感じだ。俺は思わずリムの頭をなでてみたい衝動に駆られた。そして、こらえきれずに
「ちょ、ちょっと碧・・・」
リムは嫌がるそぶりはするものの本心からではない感じだ。やめると
「あっ・・・」
少し残念そうにする。見てて面白い。
「い、いきなり頭をなでないでよ。年下扱いして。少し自分のほうが背が高いからって・・・」
リムは顔を真っ赤にして抗議する。
「年下なのか?」
素朴な疑問を口にする。その瞬間鳩尾に鋭いエルボーが入る。
「ぐほぅっ」
「女性に年を聞くのは禁句じゃないの?」
もっともだ。
駐車場について車に乗り込んだときにふと二人の会話を思い出す。
「そういえばリムってこの黒いワンピース以外に服もってたっけ?」
「ん、これと同じのを数着持ってるだけだけど。どうしたの?」
「ちょっとな。ここ一月以内で真以外に手を上げたことあるか?」
リムは少し考える。
「手を上げたことは無いけど・・・」
内心ほっとする。
「でも、足を上げたわよ。延髄にハイキックして一撃で眠らせたわ」
おい、ちょっとまて。
「そ、そうか。それで、不良に絡まれなかったか?」
「一回絡まれたわ。真さんが来なかったら不良たちは全滅してたと思う」
ああ、この吸血鬼はなんてトラブルメーカーなんだろう。俺は頭を抱えるしかなかった。
「どうしたの、頭なんか抱えて」
俺の心のうちなんかまったく知らないといった感じで助手席でぬいぐるみで遊ぶリムだった。