二十七話
今回の話は少し暴走気味です。
「ただいま~っと」
「おかえり~」
クレアが神妙な顔つきで俺のほうまで走ってくる。
「どうした?」
「お姉ちゃんが、男を連れ込んできたの・・・」
「な、なんですと!!!!」
俺の絶叫は家全体を震わせるくらい響いた。
リビングにはリムがいすに座ってうつむいていた。俺の存在に気づくと
「あ、お帰り。碧」
リムが申し訳なさそうに言って来た。
「あ、ああ。ただいま」
それっきり会話が停滞する。
「あ、あの・・・さ」
リムのその先の話を俺はつい、嫌な方向に考えてしまった。
『実は、吸血鬼がここで住みたいと言って来たの。だから連れ込んだの」
『それじゃあ、これからそいつもこの家に置くのか?部屋はどうするんだ?』
リムはうつむくと顔をすこし赤らめる。
『碧と同じ部屋に置いとくつもり・・・。いいでしょ?』
「いいわけあるか!!!」
再び絶叫。
「リム、俺の体をめぐってる血は誰のものだ?俺のものだろう。そうだよな。俺の許可無く同属を俺の家に引っ張り込むな。年中貧血になるだろ!!」
俺の突然の絶叫からの剣幕にリムは戸惑う。
「え、ちょっちょっと碧?」
「ええい、こうなったら吸血鬼を退治して俺の日常の平和を守ってやる。どこだ、どこにかくまった?」
「碧の部屋で寝かしてる。あ、でも・・・」
俺は朝から机の脇においてあった模造刀をもち、部屋に直行した。
「あ、お前は真じゃないか。なんで俺の家にいるんだ?ええい、長年の付き合いだったがお前が吸血鬼だとわかった今、俺の敵だ。覚悟しろ」
「お、おい。碧何する気だ。痛って。そっちがその気ならこっちだってな・・・。ごふっ」
「くたばれ、この吸血鬼が」
「何言ってるんだ。お前は」
途中、人がたたきつけられる音や硬いもので人を殴った音がする。隣にいるクレアはお腹を抱えて苦しそうに笑う。
「ねぇ、クレア。碧になんて言ったの」
「お、お姉ちゃんが男を、ふふ、連れ込んだって・・・言ったの・・・。お、おかしい・・・・」
息も絶え絶えだ。
「ちょっとクレア!」
私もその発言に怒りを覚える。
「そう言ったほうが面白いと思ったの」
まだ苦しそうに笑ってる。時折聞こえてくる激しい音はいつの間にか聞こえなくなっていた。
「そのことは後できっちり反省してもらうからね」
私は碧の部屋に行ってみた。部屋には碧が仰向けに倒れていて、上にかぶさるように真が倒れていた。
「仲良くノックダウンか・・・」
「つまり真は吸血鬼では無く、不良に絡まれたリムを助けたところ不幸にも八つ当たりの対象になってしまって、仕方なくつれて帰ったと言うことか」
「ええ、まぁそうなりますね。ハイ」
俺は意識と一緒に冷静さも取り戻してリムからことの顛末を聞くことが出来た。しかし、真も不幸なものだなと俺は思ってしまう。
「さて、もう一つ質問だが・・・」
「なに?」
俺はリビングの中央に正座しているクレアを指差す。
「なにやってんだ、クレアは?」
「反省してもらってるの。騒ぎの原因を作った罰よ」
いつもクレアに対して激甘なリムが珍しく怒ってる。
「さて、真がこの町に帰ってきたと言うことはクレアはまた真のところに戻ることになるのか?」
とリムに聞いてみる。
「その辺はクレアの意思を尊重してみるけど」
「けど?」
「まぁ、真がいないことには話は進まないわね・・・」
もっともだ。
「と言うことだ、真。さぁどうする?」
「何にも聞いていないのにそんな事わかるか!?」
真をたたき起こして俺はいつもの真とのやり取りをする。
「つまり、真さんがクレアをまた預かりたいかどうかのことなの」
リムが捕捉をつける。
「ああ、そのことか」
「ああ、そのことだ」
俺のオオム返しに真は
「また今回みたいなことがあると困るから、そのまま碧が預かってくれたほうがぶっちゃけありがたいかな」
「そう?」
「ああ。一番良いのは家族といられることだと思うしさ」
「真おまえ・・・」
こんなこと言うのは真のキャラじゃない。
「おいおい、俺の台詞がかっこよかったか?」
「明日、槍を降らすなよ・・・」
俺の率直な意見に真はうなだれ、いじけだした。
「いいさ。俺なんて。口を開けば『口も頭も軽いんだ』って言われ続けたから。いいよ、別に。気にしてないから・・・」
大の男のいじける姿は見ててイラつくのは俺だけではないはずだ。
「ねぇ、碧い?」
「あん」
「真さんをもう一度意識をブラックアウトさせたほうがいい?」
「もちろん。と言いたいけど、さすがに一日に3度目はまずい・・・」
俺たちはいじけた真をそのままにクレアの意見を聞くことにした。
「クレアはどうする?また真の家で暮らすか?」
「う~ん・・・。真さんの家に不満は無かったけど、やっぱりお姉ちゃんと一緒がいい」
「クレア・・・」
リムはその言葉を聞いて意識がどこかへ飛んでいってしまった。
「お~い、かえってこ~い」
「はっ!」
目を覚ましたみたいだ。
「クレア、反省終了。もう十分でしょう」
早い反省だな。こんなのでいいのだろうか。
「それじゃあ、真。達者で暮らせよ」
「その、どこか遠くへ行く人に挨拶するような台詞はやめてくれないか・・・」
「真さん。少しの間だったけど、ありがとうございました。」
クレアが行儀よくお辞儀をする。
「いいって。いつでも遊びに来いよ」
「やだ、汗臭いから・・・」
「・・・」
真はまたいじける。
「じょ、冗談だよ。真さん。元気出して」
「あ、ああ」
「とりあえず、気をつけて帰れよ、真」
「それじゃあな」
俺たち三人は真を見送った。そして、またしばらくの間吸血鬼と同じ屋根の下で暮らすことになった。
「おい、まだあの女を連れてこれないのか。早くつれて来い。この渇きがむかつくんだよ」
青年の顔色はどんどん青白くなる。それに比例するかのように目は充血している。そして、足元には首筋にある二つの穴から血を垂れ流してる死体がある。
「お、落ち着いてくれよ、ヘッド。も、もう少しで見つかるからさ・・・」
「うるせぇ」
青年は舎弟を殴りつける。
「俺が早くしろと言ったら早くしろ」
「くっ・・・」
舎弟は悔しそうに頭をたれる。
(昔のヘッドはそんなんじゃなかったのに・・・)
すると奥の部屋から青白い青年が現れた。
「おやおや、騒がしい。あまりあせってはいけませんよ。でないと、厄介な虫が現れますよ・・・」
(こいつだ。この青ビョウタンが現れてからだ。くそ・・・)
舎弟は青白い青年に殴りかかる。しかし、あっさりと受け止める。
「しつけがなってませんよ。いただいてよろしいでしょうか?」
青白い青年がヘッドと呼ばれている青年に聞く。
「ああ、そいつは使えないからな」
「そうですか。それでは・・・」
青白い青年が牙をおもむろに出して、舎弟の首筋につきたてる。みるみるうちに舎弟の血の気が引く。最後は土気色となりその場で倒れた。
「ふむ、まずいですね」
青白い青年は口元の血をぬぐう。その時だった。
「そこまでだ。世界の真理において貴様を排除する」
出入り口に使ってるシャッターから白い線の模様が入った黒い服を着た一人の男が入ってきた。
「ほら、あなたがあまり派手に暴れるから『代行人』が来ちゃいました」
『代行人』それは『抑止力』の力を使う人間。『世界の理』に反するものを討伐するための総称である。
「貴様の血液強奪はすでに『世界』へ悪影響を及ぼしている。ここで始末する」
男はサーベルを構える。
「抑止の力よ、我に力を。はぁ!!」
男が斬りかかる。青白い青年はぼんやりとそれを見る。
「覚悟!!」
青白い青年が斬られた。そう思ったときだ。二人の間に先ほどの舎弟が割り込む。
「なっ!」
舎弟は動いていない。いや、正しく言えば動かされているのだ。
「いきなりの挨拶ですね。しかし、危ないじゃないですか。そのサーベル、『抑止力』そのものですね」
舎弟だったものはすでに消えかかっている。
「お前も時期に存在そのものを消してやる」
サーベルを引き抜き、後ろに下がる。しかし、後ろに居たヘッドと呼ばれる青年の舎弟たちが押さえつける。
「な、何をする!!」
『代行人』は舎弟を振り払おうとするが振りほどけない。
「ふふふ、その方たちは文字通り力いっぱいであなたを押さえています。これで、あなたは動けないでしょう」
青白い青年が近づく。
「く、くそ・・・」
「さて、そのサーベルとあなたの右腕をいただきましょうか」
青白い青年が手招きすると、奥から一人の舎弟が斧を持ち出してきた。何かに操られてるかのような動きだ。
「では、右腕を跳ね飛ばしてください」
すると舎弟は斧を振りかぶり、『代行人』の腕を斬り飛ばした。
「ぐあぁ!!」
絶叫が室内に響き渡る。
「いい声ですね。もっと聞いていたいですね。でも、あなたはもう用済みです。死んでください」
青白い青年が再度舎弟に指示を出す。
「や、やめろ!」
斧が頭と胴の間に埋め込まれる。そして、胴からおびただしい量の血が噴出してきた。
「『代行人』と言えど、人間です。やはり、もろい・・・。さて、早くおいでなさい、『真紅に血塗られた姫 (クリムゾン・ブラッド)」
青白い青年の声が室内に響き渡るのであった。
一ヶ月も更新遅れました。読んでくださってる皆さんには申し訳ないです