十三話
前回のあらすじ
暇をもてあましたリムは、書斎にあった本でゴーレムを作ってしまった。それが暴走して町に出て行った。はたして碧とリムはゴーレムを捕まえることが出来るのか
S町の住人は語る。
「いや、私も最初はびっくりしたわよ。何がって?そりゃ、茶色い鶏みたいな変な獣が
「クヶ〜』って叫びながら私が買った鶏肉を食べたからじゃない。でもね、それより怖かったのはそれを追っかけてる二人組よ。特に異常なのは男のほうよ。なんせカッターナイフを振り回してその変な鶏を追っかけてたからね。いや〜、びっくりしちゃったわ」
「アレは化け物に違いない。鶏がカラスを追い掛け回して、さらに道端のごみをあさってたんじゃよ。くわばらくわばら。60年以上生きてきたけどこんなものに遭遇するのは初めてじゃ」
「すばしっこいやつだ」
家からゴーレム?が逃走してから早4時間。挑発するかのように現れては逃げてを繰り返す。
「とりあえず、追いかけよ」
「ところでさ、お前の言ってた吸血鬼の力ってのは具体的にどんなのだ?」
「少しの間、動体視力とスピードを上昇させるの。でもあの血の量だと一回限り。そして太陽が沈まないと発揮できない」
俺は脱力してしまった。
「あまり期待は出来ないな」
「でも、その一回で決めればいいことだよ」
「それに日の入りまであと5時間近くあるぞ・・・」
「あ・・・」
あまり考えてなかったみたいだ。
「とりあえず、追いかけるぞ。あんなのほったらかしにしたら大変だ」
「う、うん」
公園に『ゴーレム』は入る。
「クケケェ〜」
くそ、調子に乗りやがって・・・。
アレから3時間、追いかけっこはまだまだ続く。
「なぁ、リム」
「何?どうでもいいことだったら怒るよ?」
リムも結構いらいらしている。
「前に『抑止力』ってのを聞いたのを思い出したのだけどさ、それに任すことはできないのか?」
「無理。あれはこの『世界』には無いものに対してしか効かないの」
「つまり?」
「あれは昔は当たり前にあった技術。今でこそ忘れられたけど、何千年も前にはあったの」
納得。まぁ最初から期待はしてなかった。空を見上げる。もう夕暮れで空が赤く染まってる。
「そろそろ日暮れだが、使えそうか?」
「たぶん。こっちの『世界』ではいろいろ押さえてるから厳しいかも・・・」
「仕方ないか。あ、居たぞ!」
『ゴーレム』は俺たちの存在に気づくとまたどこかへ走り去る。
「今度は逃がさない」
瞬間、リムは走り出す。その速さは瞬間移動に近く、あっという間に『ゴーレム』と距離をつめる。そして、額にある紙に手をかけた。
「ク、クケェ〜〜」
だが、後一歩で腕をすり抜ける。
「ご、ごめん。逃がした。血を頂戴・・・」
「馬鹿言うな、それ以上吸われたら俺が貧血で死ぬだろうか」
「『ゴーレム』が暴れて多くの犠牲者が出るのと、碧が犠牲になって『ゴーレム』をとめるのだったらどっちを優先する?」
「知るか。俺を殺すこと前提で話を進めるな」
『ゴーレム』は俺たちのやり取りを無視して突進してきた。
「がはっ」
「あ、碧!!」
俺の鳩尾付近に体全体でぶつかってきたみたいだ。やばい、意識が・・・。
「あ、碧!!」
どうしよう、私がしっかり『ゴーレム』を捕捉できなかったばっかりに・・・。私は碧の元に駆け寄る。
「碧、起きてよ。また来るよ・・・」
『ゴーレム』は突進するために姿勢を低くしている。碧をつれて逃げないと。しかし、足がふらつく。しまった、さっきので鉄分を消費しすぎた。
「うっ」
私はとっさに目を瞑る。しかし、衝撃は来ない。
「あ、碧?」
碧が『ゴーレム』をつかんでいる。追いかけるのがやっとだった人間が。人間?
「碧、その瞳どうしたの・・・?」
碧の瞳の色が黒から金色に変わってる。
「失せろ」
碧はそのまま『ゴーレム』を投げ捨てる。そのまま電信柱にぶち当たる。
「キシャァーー!!」
『ゴーレム』はまたもや碧に襲い掛かる。碧は持っていたカッターナイフですれ違いざまに『emeth』の頭文字の『e』を切り取る。その速さは、人間業じゃない。
「ク、クケヶ・・・」
『ゴーレム』はそのまま崩れ去り、土に還った。そして碧もその場で倒れる。
「あ、碧。あなたは何者なの。あの瞳、人間の瞳じゃない・・・」
蒼青碧の謎はさらに深まった。
碧の謎は深まるばかり。ただの整備士なのか。それともリムたちが住む『世界』の住人なのか、それ以外なのか。乞うご期待