十一話
俺は抵抗をやめる。
「ほら、血を吸いたいんだろ?無理しやがって、まったく。致死量以下で吸うんだぞ」
言葉は届いたのだろうか。俺は目を瞑る。頚動脈に牙が突き刺さり、血管に穴を開ける。その穴から、大量の血が吹き出る。牙の先端が血管を抜けたところで先端から液体を注入する。血管をふさぎ、古傷のようにあざとなる。俺は血が吹き出るところで気を失った。
碧が仕事に行った後、誰に聞いてもらうでもなくもらす。
「はぁ、今日は新月なのか・・・」
私は朝早く起きてしまったことを後悔した。寝ていれば、少しでも抑えられるのに。昼を過ぎたあたりから、食欲がまったく無く、のどがカラカラに渇き、夕方になれば体が熱く、意識が朦朧とする。夜になった頃には衝動を抑えるために客間でうずくまる。しかし、衝動は抑えることが出来ず、客間のものを壊し破壊衝動に置き換える。それでも、抑えられなかったから自分の体を爪で傷つける。血が流れて、意識が遠のく・・・。
朝目覚める。昨日の出来事が夢でないことがわかる。荒れた部屋。乾いてはいるが、血溜りがあった。そして、倒れてる人間が。人間?
「あ、碧?ねぇ、碧しっかりしてよ。こ、これは・・・」
首筋には二つの丸いあざ。吸血鬼にかまれた人間に出来るあざだ。
「う、うそよね。ねぇおきてよ。起きてってば。ねぇ。い、いや〜〜〜!!」
「うっさい!!!」
何か硬いもので殴られた。そして、意識を手放した。
朝が来たみたいだ。どうやら、致死量以下で済んだみたいだ。
「やれやれだ・・・」
隣にはすっかりお休みモードのリムがグースカ寝ていた。
「なんだか腹立つな・・・」
しかし、血を大量に抜けたのには違いない。体がふらふらするし、頭はボーっとしている。
「今日、休みでよかった」
昨日の残業組は全員翌日休みをもらってた。
「さて、もう少し寝させてもらうか・・・」
俺は目を瞑る。隣で物音がする。どうやら、リムがおきたようだ。体を揺さぶってくる。俺は、眠たいんだ、と言えばいいのだが、それさえも億劫に感じた。そして、絶叫。ああ、もう!!
「うっさい!!!」
俺は模造刀で力いっぱいリムの頭を叩く。リムはそのまま気を失った。そして俺も眠りに落ちた。
お互いが目を覚ましたのは太陽が真上に来た時だった。
お互い気まずい沈黙が流れる。一方は血を吸って殺しかけて、一方は眠いという理由で一撃食らわせた。
「「は、ははははは・・・はぁ」」
俺はとりあえず、笑ってごまかすが、リムも同じことを考えていたみたいだ。
「飯にするか・・・」
「う、うん」
腹が減っては戦は出来ん。まさにそのとおりだろうと思った。
「っと言うことなの」
「なるほどな。やっぱり、新月の日には一段と吸血衝動が強くなるわけだな」
昼飯をつつきながら昨日のことを聞く。ちなみに、インスタントのラーメンだ。
「そういうことです・・・」
リムは少し萎縮したように言う。らしくないな・・・。
「それを押さえ込むために破壊衝動に変えて耐えようとしたけど、押さえが利かず、自分を傷つけて気を失ったんだな」
「はい・・・」
「怪我は大丈夫なのか?」
「うん、吸血鬼の回復力はかなりはやいの」
「そうか」
俺は立ち上がるとリムの正面に立つ。そして頬を平手で叩く。リムは何が起きたかわからないような顔をしている。そして少し赤くなった頬を手で押さえる。
「なぜ一言も言わなかった。そんなに俺が信用できないのか?」
「違うの、ただ私は迷惑をかけたくなかっただけだったの・・・」
リムは泣きじゃくる。
「それこそが迷惑だ。今は俺を『監視』してる理由で家に住んでるけど、理由はどうあれ今は家族なんだ。首筋の一つくらい貸してやるよ」
「でも、でも・・・。死ぬかもしれないよ?」
「それで死んだら、それまでだ。俺は心配したんだ。家に帰ったら血まみれのお前が倒れてたんだから」
「そっか・・・。ごめんね、心配かけて」
「ああ、新月の夜になったら俺の血を吸うんだぞ。いいな」
「うん、うん」
リムは俺の胸に顔をうずめてずっと泣いていた。
「ところでさ、新月の夜に蝙蝠の姿でいたらどうなるんだ?」
俺はほんの好奇心で聞いてみた。
「人間の姿に戻ってしまうから意味が無いと思うよ」
「そっか・・・、なんだ・・・」
「さっき言ったことの責任が取れないの?」
瞳が真紅に変わる。こ、怖い・・・。
「待て待て。予防策があれば、それに越したことないと思ってだな」
「そういえば、私理由も無く思いっきり鉄板で殴られたよね。あれ、痛かったな・・・」
リムはどこからか俺の模造刀を取り出す。
「は、早まるな」
「問答無用!!!!」
頭を殴られた。意識が遠のく・・・。ちなみに、目覚めたのは次の日の朝だった。俺の休日はいったい・・・。
吸血鬼の一端を見せたリムです。今まであまり、リムが吸血鬼っていう設定が時々忘れてしまいそうなので書いた話です。次回からはまた当分一話完結で行きます。よろしくお願いします