十話
今回は少しシリアスな話です。そして、長いので前編後編に分けてます。
家に帰って異変に気づいた。異変の正体は客間からだ。
「リム!」
中には血溜まりに倒れていたリムがいた。
「おはよう。ってあれ?今日は早いのな」
「あ、おはよう」
いつもは出勤時間でも寝てるリムが俺より早く起きていた。
「なんか覇気が無いな」
「そ、そうかな…」
俺は朝食の準備をする。二人分を用意しようとしたら
「あ、私の分は無しでいいから」
「?そうか」
俺は一人で朝食を食べる。リムはその間ボーッとしている。
「ほんとに大丈夫か?」
「え?あぁうん、大丈夫」
俺は後かたづけをすませて出勤する。
「今日は残業になりそうだから、先に晩飯食べててくれ」
「わかった」
夕方6時。普段なら終了点呼をした退社してる時間だが、予定していた仕事のため残業である。
「トルクレンチはまだか」
「今持ってきます」
「そっちのボルト締めてくれ」
「わかりました」
かなりの大仕事だ。普段なら出勤してる3人くらいでするが、今回は総掛かりだ。何せ、二、三人がかりでなければ持ち上がらない部品の交換だからだ。
「そっちはどうだ?」
「オーライ」
「それじゃあ引き上げるぞ」
こんな感じで夜の8時までかかった。
「お疲れさまでした」
「はい、おつかれさん」
外に出れば月明かりもない。
「今日は新月か。こんな日だったな。あいつと会ったのわ」
リムと同居し始めて一ヶ月。お互いあくまで『同居人』である。
「なに考えてんだ、俺は」
頭によぎった桃色の想像を押しやって帰路についた。
そして、現在に至る。部屋として使ってた客間は荒らされており、リムが血溜りで倒れてる。外傷が多いようだ。俺は抱き上げて揺さぶる。
「おい、しっかりしろ。き、救急車・・・、って吸血鬼なのに救急車呼んでも意味無いじゃん!!」
俺自身がかなり錯乱してるみたいだ。落ち着こう。血の乾き具合からしてまだ近くにリムに危害を加えたやつが居るはず。俺は部屋に戻って、模造刀を鞘から抜き構える。
「玄関の鍵はかかってた。窓から出た可能性も薄い。鍵はかかってたからな。まだ家に居るはずだ」
緊張が体を駆け抜ける。神経を家全体に行き渡らせる。後ろで物音がした。
「誰だ!!」
音を出していたのはリムだった。
「おい、大丈夫なのか?誰にやられたのだ?」
「・・・血・・・」
「ち・・・?」
俺はここで気づくべきだった。リムの瞳が狂気を孕んだ真紅に染まっていたことを・・・。リムは俺に襲い掛かる。
「お、おい。しっかりしろ。俺だ。碧だ。犯人じゃない」
「血、血が・・・」
「まさか・・・」
俺は初めて家に来たときの言葉を思い出す。
『一昨日の晩、新月だったのは覚えてる?』『あの日、私はものすごい吸血衝動に駆られたの』
こいつは、新月の夜になると吸血衝動に駆られるんだ。普段は血をあまり吸わないばかりにその反動が新月の夜になるとドッと押し寄せてくるに違いない。