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8話 安住の地

「ワイバーンの涙だったら楽なんだがなあ」


ジズの化石島に来て数日。ため池?で俺とジークは魚釣りをしていた。隅から隅まで探したがそれらしき岩石や鉱物が採れそうな場所は見つかっていない。


「あとしっかり見れてないのはパチンコの穴の中か。」

「あれが竜の目かな?」

「竜…な」

(竜の涙もそうだが、こいつの種族も気になるんだよなあ…)


ジークと一緒に行動していて、これではないかという種族がある。仮にジークがその種だとしたら、俺の種がばれた途端に殺しいあいになってもおかしくない。俺の種との相性は最悪だ。


(でも、()()()()だとしたら色々変なんだよな…)


あいつらは魔族と人族の中間にありながら魔族を見下し、敵視している。ジークからはそういった様子は一切見られない。適当なところで突き放して距離を置いた方が楽だが、俺の事を頼りにしている感じもあるしな…。どうすっか。


「どうしてあの遺跡、壊れてたんだろ」

「あ?」

「あの、古いクルヌギア語の祭壇。」

「ああ…」


ジークが釣り針を見つめながらつぶやいた。


「百人潰し、かもな」

「どういうこと?」

「このジズの化石を浮かすほどの魔石がここのどこかにある。戦争の火種になってもおかしくねえし、そうなったらワイバーンの安住の地はなくなっちまうからな。」


それを危惧した百人潰しがわざと壊したのかもしれねえな。


「魔石って石じゃないのか?なんでジズの化石に魔石がある?」


心臓をくりぬかれた仲間達の遺体の山を思い出す。


「魔石は魔鉱石ともいう。お前の言う通り、魔鉱石ってのは聖域で採掘できる魔力を含んだ石だ。まったく魔力をつかえない人間だとか、種の固有魔法を引き継いでない人族、例えば竜王国の竜人とかクルヌギアの豚人とかは魔石をはめた魔具を使って魔法が使えるようになる、な。」

「それは知ってる。」

「…なあジーク、竜王国の奴らは上級魔族の心臓を集めてるよな。」


これはひっかけだ。こいつの反応を見るための。ジークを見るとジークは何も言わなかった。固まったように動かなくなった。


「なんで?」

「なんでって?」


何故そんなことを聞くのかって意味か?俺は少し身構えた。


「なんで、集めてる?」


かみしめるようにジークは尋ねてきた。


「…前の大戦の時、魔族の遺体を解体した竜王国の錬金術師が、魔石の成分が上級魔族の心臓に溜まる核と同じ成分だと気が付いた。今じゃ魔石でなくとも上級魔族の心臓をはめるだけで操作できる魔道具を研究してるって噂だ。」


それは竜王国の錬金術師がもたらした大発見として、竜王国の奴らならだれもが誇らしく語る事実だ。


「そんな理由で…」


ジークはしばし、水面を見て、固まっていた。


(なんか様子が変だな)


「……っ」


ジークは歯をくいしばり、少し震えながら仮面の下から鼻水らしきものを垂らした。


「!」


ジークは泣いていた。そして何も言わず、袖で顔をぬぐい、ぽろっと呟いた。


「魔族は…竜王国とメドゥーサを恨んでる?」

「……メドゥーサが竜王国に嫁いだ事は知ってたのか。」


 竜の番だったメドゥーサは、先の戦争で竜王国の捕虜になった。竜王国の当時の皇帝は戦争に勝利した後、捕虜であるメドゥーサを息子の正妃とし、息子に皇帝の座を譲ると宣言した。そして魔族の住処である火山列島を魔族領とし、その魔族領の大宰府長官を正妃に兼任させると提言したのだ。


当時の皇帝の言葉に敗戦した魔族は一縷の希望を見た。魔族領を治めるものがメドゥーサであれば、ゆくゆくは解放されるかもしれないと。


「正妃イグニスの事は知ってる…淫売の裏切り者だ。」


 魔族の最期の希望であった正妃。彼女は婚姻から一年経ず不貞を働き、処刑された。竜王国の先帝はイグニスの処刑の後病にふし、魔族は竜王国の食い物になった。


「イグニスじゃないぞ。」

「え?」

「イグニスじゃねえ、昔はフィバナと呼ばれてた。イグニスってのは竜王国がつけた名だ。」


釣り針に、魚かがひっかかった。慎重に釣竿を動かす。


「竜はこの世で最も気位の高い生き物だ。竜の番に選ばれるような女だぞ?大方薬か何か、盛られたんだろうよっと」


ぐいっと竿をひく。びくびくと魚が水面から浮き上がった。


「ジーク、網!早く!」

「へっ!おお!」


ジークは茫然としてたが、あわてて網を魚の下に滑り込ませた。魚は打ち上げられてなお抵抗し、生きている魚に触れたジークは手をすべらせ、魚をため池に落としてしまった。


「あ!待て!」


ジークはあわてて魚を追いかけて池にとびこんだ。


「えっ?!おいジーク大丈夫か?!」


そしてすぐに上がってきた。


「げほっ ごほっ ごめん。逃げられた…」


岩場にしがみついてむせている。


「何やってんだ、ばか。上がってこい」


ジークはぜえぜえ言いながら岩盤にあがり、仮面をはずした。手ぬぐいを投げてやる。


「はあ はあ ほんと、馬鹿だ」


ジークは仮面を吹き、靴を脱いで上着をぬぎ水気をしぼった。


(魔族側か竜王国側か。まあルーメンで傭兵やってる奴らに派閥なんてもんはねえか。)


所詮自分達は金のために戦う傭兵だ。そこに大義名分はない、金を積まれたらどこででも戦う。でもジークの流した涙の意味は無視しがたいものがある。








釣りを終えてもどると、大狼とワイバーンの子供達が駆け回っていた。


「危ないだろ!」

「わん!わん!」

「んだと??待てこら!」

(あーあ…)


追いかけっこに参戦したジークを眺めながら、釣ってきた魚を焼く。ため池で釣った魚は見たことない色をしている。ここはジズのあばら骨の部分だ。どうやら下々のワイバーン達はこのあばら骨に、力のあるワイバーンは上に住んでるらしい。

 ここ数日、ワイバーンの生態が少しわかってきた。ワイバーン達は賭けでマウンティングをとる。葉巻をすっていたワイバーンは賭けの元締めで、群れのドンのようだった。力のあるワイバーンは自分で狩りをせず、下々のワイバーン達に狩りをさせる。

 例えば例の「へっぽこバーン」は大物バーンやとり巻きバーンに食料を献上するのに忙しく、常に賭けの元銭がない。そして賭けに勝てなければ、一生底から抜け出せない。


(大狼のやつ、へっぽこバーンと仲良くなってどうすんだよ)


俺達が釣りをしている間、大狼はいつの間にかへっぽこバーンと仲良くなっていた。今遊んでやってるのはどれもへっぽこバーンの子供たちだ。


「ひい ふう みい よ…」


子ワイバーンは十匹ほどいる、へっぽこバーンは子だくさんだ。


「ぎゃお…」

「わんわん!」


へっぽこバーンが帰ってきた。手には魚が一匹。


ぎゃお ぎゃお!


子ワイバーン達は魚を一口ずつ食べては回し、あっという間になくなった。


「わふ わふ」

「ぎゃお ぎゃお」


大狼が何かをへっぽこバーンに話しかける、へっぽこバーンは首を横にふっている。へっぽこバーンの尻尾は切れていた。


「あいつまたレースに出たのか?センスねえのに何考えてんだ?」


足元で焼いていたため池の魚が焼きあがった。塩をぱらりとふりジークに渡す。ジークは香りをかいでからハフハフと焼き魚を食べる。


「わんわん!」

「あれに出たらパチンコが三回無料でできるらしい」

「尻尾なかったら打てねえだろ」

「ぎゃお ぎゃおぎゃお‼」

「うおっ」


子ワイバーン達がへっぽこバーンを離れて突撃してきた。焼き魚を見て涎を垂らしている。仕方がないので今日の分はやることにした。へっぽこバーンも指をくわえてこっちを見ている。


「………食うか?」


謎の魚の塩焼きを差し出すと、へっぽこバーンはぷいと背中を向け来た道に戻っていった。


「わん わんわん!」

「ぎゃお ぎゃお ぎゃお」

「わん…」


大狼もへっぽこバーンの後を追う。


「どうした?」

「また狩りに出るんだって」

「辛いねえ…」


へっぽこバーンにもプライドはあるらしい。採ってきた魚を全部子ワイバーンに挙げてしまったので、俺達もへっぽこバーンと狩りに出ることにした。


「ぎゃお」


そこに一匹のワイバーンが飛んできた。ふんぞり返っている。


「ぎゃおぎゃお!ぎゃーお!」


へっぽこバーンと大狼に何やら話しかけている。大狼が途中で怒り始めたが、えらそうなワイバーンはへっぽこバーンに何かを言うと、集落にもどっていった。なんなの?とジークに目で尋ねる。


「ツケが払えないなら尻尾で払えって…」


さっきのワイバーンは大物バーンの取り巻きか、借金とりみたいなもんだな。


「ツケどんだけあんの」

「元は返してるから利子の塊肉十キロらしい。一日遅れるたびに一キロ増えるんだって」


ワイバーン社会の世知辛え。


「ぎゃおぎゃお!」

「何て?」

「パチンコで大当たりがでたら一気に返せるって」

「は?パチンコて一番掛率低いだろ?」


掛率が一番高いのはワイバーン漁のチキンレース、その次が闘技場、札、ダイスときて、パチンコが一番低かったはずだ。


「わんわん!」

「大当たりがでたら元締めから塊肉百トンが出るらしい。元締めが払えなかったら元締め交代になるらしいよ」


大当たりってあのとんでもない所についてた穴か。


「ぎゃおす!」

「わん わん!わん!」


へっぽこバーンはガッツポーズをとって肩をいきらせる。こいつ自信はどこから来るのか?


「…十キロ位なら出してやってもいいけどな」


夢見ているへっぽこバーンには悪いが、利肉の支払いで食事が減る子ワイバーンが気の毒だ。


「だめだよ。負けの気配が出てる時はずっと負けなんだよ。どっかで自分が思いっきり勝ったと思わないと」


いきなり何言ってんだこいつ。


「って…昔――いってる人がいた」


いきなり何言ってんだこいつと思ったが知り合いからの受け入れだったらしい。


「…いい知り合いだな」

「…弱かったけどね」


ジークはどこか悲しそうになった。そこに大狼が駆けてきてジークを慰めるように仮面ごとその顔をぺろぺろとなめた。


「わっ やめろよっ 犬くさいって!」

「わんわん!」


抵抗するジークに大狼がじゃれつき、ジークが耐えられず笑いだした。


「ははっ、やめろって くすぐったいって」

「わふっ わふわふっ」

(こいつら…がきと犬にしか見えねえな)


中年も中年のはずのジークだが、大狼といる時のジークは少年のようだ。


(本当に純粋な奴だ。)


なんかこいつを疑うだけ労力の無駄な気がする。と思っていたらふと面白い事を思いついた。


「…へっぽこバーンに大勝ちさせてみるか?」


上手くいけば、竜の涙探しにも役だつかもしれん。


「はあ?!」


何言ってるんだと振り返るジーク、大狼は俺を見て、尻尾をふった。



次回、へっぽこバーン視点になります。

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