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第88話:美食の館。


「そう言えば俺達がここを出る時ここの食料を分けてもらう事は出来るのか?」


 翌日、朝食を食べながらかむろにそれを聞いてみた。

 ここで食料が調達できるなら村の保存食なんてどうでもいいから。


「いえ、ここでの食材はここでしか機能いたしませんので無理ですね」


 なんだそりゃ。


「おい、まさか俺達はお前に化かされてるのか? 美味い美味い言いながら食ってるこの食事が実はその辺の葉っぱでした、なんて事ねぇだろうな?」


「ふふっ、葉っぱですか……なかなか面白い事を言われますね。勿論きちんとしたお食事ですから大丈夫ですよ」


 言い方が気になる……。きちんとした食事?


「深く考える必要はありません。皆様も不思議そうな顔をしているではありませんか。今は食事中……お食事に集中されるが宜しいかと存じます」


 ……まぁそれもそうだな。

 この食事に危険性が無いと言うのであればこんな美味い飯を考え事しながら食うなんてもったいない。


 今朝なんて白米に納豆に焼き鮭に味噌汁だぞ?

 この世界に来てこんな食事が食えるなんて夢のようだ。


 今だけはこの素晴らしい食事に感謝して美味しく頂くとしよう。


 それにしてもネコは昨日の今日でよくもまぁこんなに食えるもんだ。

 昨夜程ではないにせよ俺達の五倍は既に平らげている。なんで太らないんだよこいつ……。


「それでは今日も一日ごゆるりとお過ごし下さい」


 そう言ってかむろは退出した。

 考える事は山積みである。別に俺がここの秘密を暴く理由は何もないのだが……だとしても純粋に気になってしまうのは仕方ない。


 何故日本の事を知っているのか、何故これらの食料を調達できるのか。


 そしてここに居るであろう近くの村の人々はどうなっているのか。


 俺達は自分達に割り振られた部屋へ向かいながらここの事を話し合う。


「みんなはここについてどう思う?」

「うにゃにゃ~♪ とってもご飯がおいしい幸せな場所ですぅ♪」


 ネコが本当に幸せそうな顔でお腹をさすっている。本当に食べる事が好きなんだろう。


「あたしはちょっと……変な感じする」


 イリスは俺と同じで違和感を感じているようだがその違和感が何なのか、までは分からないようだった。


「確かにちょっと不気味ネ。ワタシが一度しか食べた事のナイ辺境の民族料理が出てくるトカちょっとおかしいヨ」


 ……辺境の民族料理? もしかして和食の事か? それどこの事か気になるな……。おっちゃんならあちこち商売で行ってるだろうから聞いてみるのはアリだろう。


「確かに私もラヴィアン料理をもう一度食べられるとは思わなかったな」


 アリアの一言に俺とおっちゃんが首を傾げる。


「アリア、すまんがラヴィアン料理って……どれの事だ? そんなものあったか?」


 ラヴィアンというのは南の方にある王国で、国土の半分ほどが砂漠に覆われているとかなんとか……。


 おっちゃんが言ってた民族料理ってのもラヴィアン料理の事だったのかな?


「アリアお嬢ちゃん、ラヴィアン料理が有ったノカ? それなら是非食べて見たかったヨ……」


 あれ? おっちゃんもラヴィアン料理とやらには気付かなかったらしい。


「……えっ?」


 アリアは本当に不思議そうにその一言を発して固まってしまった。


「おい、どうした?」

「……いや、どこにあったも何も、食卓はラヴィアン料理で埋め尽くされていたはずだが……」


 やばい。これはヤバい。


「おいネコ! イリス! お前等はさっき何を食べてた? なんでもいいから食った料理を教えろ!」


「どうしたんですごしゅじん? 私はデルドロダスパとぉ~♪ ダッコ焼きとぉ~♪」

「もういい。イリスは?」

「えっと、あたしもにゃんにゃんとだいたい一緒だよ~?」


 皆、俺が慌てているのを心配するような視線を送ってくる。


 俺はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。

 ここは、俺達が望んだ物を食べさせてくれる場所では無い。


【望んだ物を食べた気にさせてくれる場所】だったんだ。


 でも確かに腹は膨れている。きちんと食事を取っているのは間違いない。だとしたら俺達はいったい何を食わされていたんだ?


 いつからだ? 食い物に幻覚作用のある物でもあったのか?

 それともかむろの特殊能力か!?


 確認する必要がある。今度こそ曖昧な態度で返事を濁す事は許さねぇぞ。


「イリス、後で部屋に来てくれ」

「んー? 分かったよまぱまぱにゃんにゃんはどうするの?」

「あいつはたらふく飯食った後どうせ寝ちまうしなかなか起きないから大丈夫だ」

「わかった」


 俺はイリスに小声でそれだけ伝え、自室に戻り出発の準備を整える。

 俺だけでもなんとかなるかもしれないが、念のためにイリスの力も借りておきたい。

 二人いればどちらかに何かがあってもフォローし合えるだろう。


 しばらくすると部屋をノックする音が聞こえたのでドアを開けると隙間からちょこんとイリスが顔を出す。

 うん、今日もとびっきり可愛いぞ。


「まぱまぱ、やるの?」

「さすがイリス。よく分かってるじゃないか。まずはかむろを問い詰めよう。俺の知りたい事を正直に話してくれればそれで良し」

「もしそうじゃなかったら?」


「……全力でここをぶち壊す」

「おっけ♪」


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