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第86話:むげんるーぷの館。


 風呂からあがるとかむろが既に迎えに来ていた。

 身体の主導権はママドラから俺に返されて視界も良好である。


「お楽しみのようで何よりです」


『君はいろんな意味でお楽しみだったみたいね♪』

 ……あれからアリアがまともに視線を合わせてくれないんだが。

『どう考えても自業自得でしょう?』

 アリアには聞きたい事があったのにこれじゃしばらく聞けそうにないな……。


 どこで中華料理食べたのか聞きたかったのに。


『そう言えばその中華料理ってなぁに? 君の国の食べ物?』

 そこまでは記憶見て無いのか?

『見ようと思えば見れるけれどわざわざ君のプライベート映像を片っ端から引き出すのも悪いかなって思ってね』

 一応良心は残ってたみたいだな……。


『生意気な事言うじゃない。もう少し分からせてあげようかしら』

 もう十分分からせられてるからっ! 勘弁してくれ。


「では皆さまこちらへどうぞ。寝室までご案内致します」


 俺達はどうやらここに泊まる事になっているらしい。こちらとしては疲れも取れるので助かるが。


「そう言えばかむろ、ここには麓の村人が来てるのか?」


「……あぁ、ヤマスの村人達ですか。それでしたら全員ここにきておりますよ。全員と言っても三十人程度ですが」


 もともと人口は少ない村だったようだ。ここで働いているという割には誰も見かけないのが気になるが、これだけ広い館ならばそういう事もあるのかもしれない。


「村の様子がおかしかったから心配してたんだよ。ここにはみんな無事に保護されてるんだな?」


「保護、とは少し違いますが概ねその通りですね。心配は無用ですよ」


 かむろは俺にチラリと視線を向けたが、足を止める事なくスタスタと長い廊下を進んでいく。


「ここから先が寝室になっております。部屋はどれも整えてありますので好きな部屋をお使いください。一人一部屋で構いませんので」


「あぁ、助かるよ」


 イリスは俺と一緒の部屋がいいとゴネたが、一応見た目はもう年頃の女の子なのでネコと一緒にしてもらった。


 アリア、俺、おっちゃんはそれぞれ一部屋、ネコとイリスで一部屋の計四部屋を借りる事にして、それぞれ部屋に入る。

 というかイリスだってもう大きくなったんだしネコといつまでも一緒じゃなくていいような……むしろ一緒だと教育上よろしくないように思う。


 部屋が畳で敷布団と羽毛布団でも用意されてるかと思ってたんだが意外と普通に洋風なベッドだった。

 こっちの方が好きなので助かるけれど。


 かなり分厚いマットレスで、これで寝たら疲れも吹っ飛びそうだ。

 部屋に一人きりな事もあってついベッドにダイブしてしまった。俺が日本で使ってた折り畳みのベッドは固くて毎日腰が痛くなったものだ。


「いでっ!」


『君はいったい何をしてるの……?』


 いや、ベッド見たら飛んでおかないとと思って……。

 思ったよりこのマット固いな……。


 固さを確かめるように軽くマットを叩くと……あれっ?


 先程とはまるで違う物のようにふっかふかだった。

 試しに少し跳ねてみると見事に衝撃を吸収してくれる。

 なんだこの謎の仕様は……。


 この館は分からない事だらけだ。

 そもそも本当にかむろ以外の人間がここにいるのか……?


 それを確かめたい気持ちもあるし、かむろにいろいろ聞きたい事がある。


 ……勝手に出歩くなと言われてはいるが……少し散策させてもらうか。


「よっ、と」

『どこかいくの?』

 あぁ、ここは謎が多すぎる。どう考えてもまともじゃない。今の所危険があるようには見えないが、それも実際は分からないしな。


『確かに不思議な感覚よね。何がどう、と聞かれても困ってしまうけれど』

 そうなんだよなぁ。だから何かきっかけが欲しいんだよ。気付きのきっかけになる何かを見つけたい。


 俺はベッドから降り、出来るだけ音がしないように木製のドアをゆっくり開ける。


 赤い絨毯が引かれた長い廊下。まずはこの廊下を逆側まで行ってみるか。


 俺達が通って来た通路を通り越し、反対側へ向かう。


 人の気配が無いか注意しながら進んで行くと、ママドラが妙な声をあげた。


『ふぁっ?』

 え、何だよ急に。


『気付かなかったの? 今空間が歪んだわよ』

 ちょっと言ってる意味が分からんのだが……。


『じゃあここから三つ先の扉開けてごらんなさい』


 ……? ママドラに促されて指定された扉を開けてみる。


「……あれっ?」


 どう見ても俺が泊まる予定の部屋だった。上で飛び跳ねてちょっとめくれ上がった布団なんかもそのまま。


「どういう事だ……? 確かに廊下をまっすぐ反対側へ行ったはずだ」

『だから空間が歪んだんだってば』

 この廊下は無限ループしている……?

『何よそのむげんるーぷって』

 同じ事が延々と繰り返される様子、ってとこかな。


『ふーん。だったらまさにむげんるーぷかもしれないわね?』

 おいおい……俺達この館からちゃんと出られるんだろうな?


 もう少しいろいろ試してみよう。


 俺は再び廊下を歩く。今度は最初に歩いてきたままの方向へ。目の前には突き当りの壁がある。

 だが、それをお構いなしに進んだ。


 すると、壁に触れた瞬間なんとも言えない感覚が身体に走り、気が付けば俺は壁の向こう側に居た。


『なるほどね、こっちから行くとそのむげんるーぷってのにはならないみたいよ』


「もうだめだぁ……おしまいだぁぁぁ……私はこのままここでひからびてミイラになって死ぬんだぁぁ……」


『ねぇ、なんか居るわよ』

 見えてるよ……。


 壁を突き抜けた向こうで、何故かアリアが地面にうつぶせで倒れて呻いていた。


「おいアリア。こんな所で何してる?」


「ヒッ!! あっ、あぁぁぁぁ……ミナト殿ぉぉぉ!」


 アリアは俺の声に一瞬ビクっとしてから、安心したように表情を弛緩させて飛びついてきた。


「トイレ借りようと外に出たけどどこにも行けなくて妙な感覚がしたから振り返ったら目の前に壁があって何故か突き抜けてここから出られなくなってもう私ここで命を終えるのかと……ぐすっ」


「待て待て。何言ってるかわからんちゃんと説明しろ」


 目を真っ赤にしてぽろぽろ涙を流すアリアをあやしながら話を聞くと、どうやらトイレに行くために廊下を歩いていたらあのループの所で違和感に気付いたらしい。

 それで慌てて振り向いたら、丁度空間が切り替わったばかりの所であの壁の前に居たみたいだった。

 振り返っただけで壁の中に半身が埋もれるくらいにタイミングどんぴしゃだったんだろう。結局、なし崩しでこっちに入ってしまって出られなくなったんだそうな。


「よしよし。心細かっただろう。もう大丈夫だからな」

「ミナト殿ぉぉ……なんと頼もしい。では早くこの変な場所を脱出しましょう。私の下半身がもう限界なの、だ……」


 下半身が限界ってエロイな。

『君って人は……』

 健全な男子はこんなもんなんだってば。


 って……え、もしかしてこっから出れないの?


『だからこの子がさっきからそう説明してくれてるじゃない。ばかなの?』


 やっべ。どうしようかな……。



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