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第83話:ミステリーの館。


「もしもーし。誰かいませんかぁ~?」


 間抜けな声をあげながら、ネコが大きな扉についているドアノック用の金具をゴンゴンと鳴らす。


「誰も居ないんですかねぇ~?」

 ごんごん、ごんごん、ごんごんごんごんごんごん!


「お、おいネコそれくらいにしとけ」


 もしどうしても開かないようだったら俺が鍵開けのスキルを使って……。


 ギィィィ……。


 ゆっくりと、重たそうな門が開く。

 門の内側がすぐ建物の中、という訳ではなく、庭があってその先に入り口があるようだ。


 急に門の向こうが白い靄に包まれ、その中から小柄な影が前に出る。


「こんな所までようこそいらっしゃいました。旅のお方……お疲れでしょう? 少し休んで行って下さいまし。さぁ、中へどうぞ。お食事を用意致します」


 それは和服のような形の服を着こみ、おかっぱ頭で、切れ長の目、不自然なほどに白い肌。濃く引かれた赤いアイシャドウ、同じく真っ赤な口紅。


 まるで日本の童話にでも出て来そうな風貌の少女だった。


「私の名前は……そうですね、かむろとお呼びください」


 かむろ、ときたか。確かおかっぱとかそんな感じの意味だったっけ? あまり勉強できる方じゃないから記憶が曖昧だが。


「どうされましたか? ささ、どうぞ中へ」


 俺達は全員視線を合わせ、無言で頷くと少女の後を付いて庭へ入る。


 全員が中に入った頃、自動的に門が動き、やがて完全に閉まった。


 俺達は、来てはいけない場所に来てしまったのではないか、そんな考えが頭をよぎる。


 それくらいこの場所は異質だ。

 そもそも外国の宮殿のような形の場所に和服のおかっぱ少女?

 何もかもがかみ合わない。


 少女に連れられ建物内へと入っていくと、そこは薄暗いながらとても綺麗に管理されていた。

 それなのに人の姿は見えない。これだけの大きさの建物を綺麗に保つには相当な人数の使用人が必要だろう。

 それなのにここには人の気配が無かった。

 ここにいると思っていた村人たちの気配すらない。


「な、なぁ……ここには君だけなのか?」

 アリアが少女の背中に問いかけるが、声がうっすら震えている。既に雰囲気にのまれているのかもしれない。


「異な事を申されます。私のような小娘一人でこの鏡明館を管理する事など到底できませんよ。……こちらへどうぞ。座ってしばらくお待ちください。すぐにお食事をお持ちします」


 あまりに平然と、少女は常識的な発言をして俺達を応接間へ通し、一礼して出て行った。


「ひゃぁ……ココに有る調度品は珍しい物ばかりヨ」


 おっちゃんは物珍しそうに部屋の中をうろうろ歩き回る。確かにあまり見ないような物が沢山置いてあるな。


 どうみてもシーサーみたいなのもあるが、さすがにそれは無いだろう。似たような文化がどこかにあるんだろうか?


「ミナト殿……ど、どどどどう思う?」

「分からん……だがあの子から邪悪な物は感じなかったな」

「私もまぱまぱと同じ意見かなー。悪い子じゃなさそうだったよ?」


 俺やイリスにはその人物の心の色が見える。

 アドルフなんかはそりゃもう目を背けたくなるようなドブ色だけれど、あの子は真逆で真っ白だ。


「うにゃ……ごはん沢山ってお願いするの忘れちゃいましたぁ……」

「俺達は客だぞ? いきなりそれは厚かましすぎるだろ」

「我慢しますぅ」


 ネコが空腹に耐えかねて腹を鳴らしながらネコミミをぴこぴこさせた。

 あぁ触りたい。


「お待たせ致しました。皆様は随分と空腹のご様子でしたので沢山用意させましたが問題ありませんでしたか?」


「うにゃーっ!? ごしゅじん聞きました!? 私この子大好きですぅ♪」


 かむろは、レストランで料理を運ぶときに使うカートみたいなのをいくつも順番に部屋へ運び込み、大量の食事を俺達の前へ並べていく。


 相変わらず他の使用人の姿は見えない。

 とは言ってもこれだけの料理を彼女一人で用意出来る筈がないのでそれなりの人数が居るのは確認できた。


 問題は、だ。

 なんで出てくる料理がほとんど中華料理なんだ?

 厳密には違うのかもしれないが、どう見ても麻婆豆腐だったり油淋鶏だったりする。

 餃子みたいなのもあるしゴマ団子まであった。

 そして、今まさに俺が食いたかった物でもある。


 洋風な建物で和風な使用人が中華を持ってくる。


 ……うーん、怪しすぎる。


「イリス、これ平気そうか?」


 イリスは俺よりも鼻が利く。こういう危機察知能力はとても高い。


 いくつかの料理に鼻を近付けてすんすんと匂いを嗅ぎ、「おいしそう♪」と目を輝かせた。


 という事は安全なのだろう。


「ご、ごごごごしゅじん私もう我慢できませんので!」


「わーったから他の奴等の分は残しとけよ」

「いっただきまぁぁぁす!!」


 物凄い勢いでネコが料理を平らげていく。

 この料理たちに何かが仕込まれていたら真っ先にネコが泡吹いて死ぬだろう。

 勿論そんな兆候が少しでも見て取れれば俺が解毒するし死なせたりしないが。


 ……こいつの食いっぷりを見る限り本当に大丈夫そうだな。


「お茶は何をお持ちしますか?」


「なんれもいいれふ! つめたひやふを!」

「私は紅茶がいいかな♪」

「そうだな、私はダリルティーがあれば」

「ワタシは豆茶がイイネ。深煎りの奴ヨ」


「かしこまりました。全てご用意可能ですので少しお待ちください。……尊きお方、貴女はどうされますか?」


 尊きお方とかいう謎の呼び方がやけにひっかかったけれど、俺はここで一発無茶ぶりをしてみる事にした。

 ここに来てから感じる違和感を解くきっかけになるかもしれないから。


「宇治抹茶を」


 食べる事に必死になってるネコ以外の全員が俺の方を見た。

 その視線の意味は勿論「なんだそれ?」だ。


「……かしこまりました。では【京都府産の宇治抹茶】をご用意致しましょう」


 そう言ってかむろはにっこりと笑った。



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